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宮野真守、『ウエスト・サイド・ストーリー』で見せたミュージカル・スターとしての“天賦の才”

2019年11月28日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ウエスト・サイド・ストーリー』(c)WSS製作委員会/撮影:田中亜紀

 新たなるミュージカルスターの誕生だ。現在上演中のブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season1で、主役・トニーを演じる宮野真守を見てそう確信した。それほど、宮野のトニーは魅力的だ。


参考:宮野真守はギャップで魅了するエンターテイナー オールマイティな活動に通ずる“覚悟とプライド”


 今作は、1957年にブロードウェイで初演、1961年には映画版も公開され、世界中で長年愛されてきたミュージカルの名作だ。ジェローム・ロビンスによる印象的な振付と、レナード・バーンスタインによる名曲の数々は、このミュージカルを見たことのない人でも、どこかで目にしたり耳にしたりしていることだろう。物語はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』に着想を得ており、1950年代後半のニューヨーク・マンハッタンのウエストサイドを舞台に、移民同士の敵対とそれに巻き込まれるトニーとマリアという若い2人の悲恋を描いている。


 11月6日から始まったIHIステージアラウンド東京での公演は、日本キャストによる日本語版上演のSeason1で、主役のトニーを宮野真守と蒼井翔太、ヒロインのマリアを北乃きいと笹本玲奈がそれぞれWキャストで演じている。筆者は、トニー役を宮野真守、マリア役を北乃きいが演じた回を観劇した。


 舞台の幕が開くと、ポーランド系移民のギャング集団・ジェッツと、プエルトリコ系移民のギャング集団・シャークスの敵対するシーンから始まる。ジェッツのリーダーはトニーの親友・リフ(小野田龍之介と上山竜治のWキャスト)、シャークスのリーダーはマリアの兄・ベルナルド(中河内雅貴と水田航生のWキャスト)だ。トニーとマリアに起こる悲劇を予感させる不穏な幕開きだが、メインの2人はここではまだ登場しない。


 場面がドク(小林隆)の経営するドラッグストアに変わると、ようやくトニーが登場する。宮野は登場するなり、マリアが一目で恋に落ちてしまうのもうなずけるようなスタイルの良い長身でまず目を引く。そして、舞台映えする外見だけではなく、その演技でも観客を魅了する。声優として絶大な人気を誇る宮野だけあって、とにかく声がいい。セリフも明瞭だし、歌手活動も行う歌唱力で難しいメロディーの楽曲も力強く歌い上げる。


 声の演技というのは、かなりの卓越した演技力が必要になる。つまり、声優として評価されている人々は、そもそも高い演技力を持った俳優でもある場合が多い。戸田恵子や神木隆之介がその代表的な例で、声優業と俳優業の両方を行いどちらも高い評価を受けている人は少なくない。


 宮野もまさにそうしたケースの声優であり俳優であると言えるだろう。声優としては『DEATH NOTE』『機動戦士ガンダム00』など数多くのアニメ作品に出演しており、その人気は絶大だ。俳優としては、近年では2016年に帝国劇場で上演されたミュージカル『王家の紋章』への出演や、2017年11月~2018年2月にかけて上演された劇団☆新感線「髑髏城の七人」Season月“下弦の月”で主演するなど、舞台で存在感を着実に示してきた。


 宮野の魅力はそのスタイルや声だけではない。くるくると変わる豊かな表情がチャーミングで、特に天真爛漫な笑顔は周囲を明るく照らす天性のものがある。今回の『ウエスト・サイド・ストーリー』では、後に起こる悲劇を思うと前半で見せる笑顔がより切なさを増幅させる。この物語が悲劇へと転がっていくきっかけはいずれも「愛」だ。敵対グループのリーダーの妹を愛してしまったことで歯車は狂い出し、兄弟のように育ったリフへの愛ゆえにトニーは破滅への大きな一歩を踏み出してしまう。


 そして最後はやはりマリアへの狂おしいほどの愛で自らの危険をかえりみず自暴自棄になってしまうのだ。宮野は豊かな表現力でそれらのトニーの行動に説得力を持たせている。ただまっすぐに人を愛する危ういほどの純粋さと、そして彼自身が愛すべき人間であることを、宮野はトニーのキャラクターに内包させていて、激情に駆られて思わず取ってしまった行動も、彼の持つ愛の強さを思うとそうなってしまったのは必然だったのかもしれない、と気持ちがリアリティを持って伝わってくる。


 わかりやすいストーリー、見ごたえのある力強いダンス、名曲揃いのナンバー、とそれだけでも楽しめる要素がたっぷり詰まった作品だが、そこに宮野の持つ演技者としての“天賦の才”も堪能できるとあって十分な満足感を得ることができる。弾けるような愛らしさと美しい歌声を披露するマリア役の北乃きいをはじめとする共演者もそれぞれに魅力を発揮し、時代も国境も超えた普遍的な“ウエストサイド”を観客の眼前に広げて見せる。


 宮野は今回がミュージカル初主演だが、日本のミュージカル界を牽引する俳優の一人となる実力を持っていることをはっきりと示した。声優、俳優としてはもちろんのこと、ミュージカルスターとしても今後更に活躍していくことを大いに期待したい。


■久田絢子
フリーライター。新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→能楽関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在に至る。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」等で舞台・音楽などのエンタメ関連記事を中心に執筆中。