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パワハラで退職、会社は「慰謝料を支払う」…加害者にも負担させられる?

2019年11月27日 10:11  弁護士ドットコム

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上司からのパワハラが原因で退職し、会社に慰謝料を請求したが、加害者にも支払わせることはできないのかーー。そんな質問が弁護士ドットコムに寄せられました。


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相談者によれば、請求された後、会社は慰謝料を支払う意思を表明したそうです。これに相談者は「パワハラの賠償金は誰が払うのでしょうか?」と不満を感じています。というのも、実際にパワハラをしたのは上司であって、会社が全額を支払う必要があるのかと疑問を感じているためです。



このようなケースで、誰が損害賠償をするべきなのでしょうか。中村新弁護士に聞きました。



●パワハラ行為「上司と会社に責任あり」

「パワハラの事実が認められた場合、パワハラを行った上司は民法709条の不法行為責任を、会社は民法715条1項が規定する使用者責任を負います。



使用者責任は、『使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき』には免れますが、パワハラ事案でそのようなことはほぼないでしょう」



ーー会社が支払っても「上司に求償することができる」



「上司の不法行為責任と会社の使用者責任は、不真正連帯債務の関係にあることが判例で認められています。これにより、上司と会社は、いずれも債権者(この場合はパワハラを受けた労働者)に対して慰謝料全額の賠償義務を負います」



ーー上司にも負担させられないのでしょうか



「いずれかが慰謝料全額を支払った場合、もう一方は免責されます。



ただし、会社が慰謝料全額を支払った場合、会社はパワハラを行った上司に求償することができます(民法715条3項)。もっとも、求償の範囲は『損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度』となります(最判昭和51年7月8日)。



例えば、会社がある課に過大なノルマを課し、ノルマ達成を焦った課長が思い余って部下にパワハラ行為をしてしまったような場合には、求償の範囲は制限される可能性があります。



このような場合に上司が慰謝料全額を支払ったとして、その上司から会社に対する求償(いわゆる逆求償)が認められるかについては争いがあります。労働案件ではありませんが、従業員が先に不法行為に基づく損害賠償義務を履行した場合に使用者への逆求償を認めた裁判例も存在します」



●「社の使用者責任と安全配慮義務違反とを並行して主張することが多い」

では今回、最初から会社と上司に対してそれぞれ訴訟をすれば良かったのでしょうか。



「訴訟提起する場合には会社と上司の両方を被告とすることになるでしょうが、社会的評価や強制執行の危険性等をまず真剣に考慮するのは会社の方なので、実際にはまず会社が慰謝料全額を支払い、その後上司に対する求償の可否と範囲を検討することが多いでしょう。



使用者責任を含む不法行為責任の消滅時効期間は3年です。その時効期間経過後に会社の責任を追及しようとするときは、会社の安全配慮義務違反(労働契約法5条)を理由とする損害賠償請求をすることになるでしょう。安全配慮義務違反は債務不履行責任ゆえ、消滅時効期間は10年です。



ただ、パワハラが行われてから3年以上経過した段階では、立証は相当困難になると思われます。実務上は、不法行為の時効期間内であっても、会社の使用者責任と安全配慮義務違反とを並行して主張することが多いと思われます」




【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:銀座南法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/