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佐藤大樹×井上博貴監督が語る、詩・音楽・映像が融合した「CINEMA FIGHTERS」ならではの挑戦

2019年11月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

佐藤大樹×井上博貴監督(撮影=石川真魚)

 EXILE HIRO、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)代表の別所哲也、作詞家・小竹正人の3人によって打ち出された、詩と音楽、映像を一つに融合するプロジェクト「CINEMA FIGHTERS project」。その第3弾となる『その瞬間、僕は泣きたくなった -CINEMA FIGHTERS project-』が全国で公開されている。


 そのうちの一編『魔女に焦がれて』で主演を務めたのが、EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBEのパフォーマーとして活躍する佐藤大樹だ。本作は、佐藤演じる高校3年生の主人公・雅人が、突然“霊感”を備わってしまい、ある事がきっかけで「魔女」呼ばわりをされクラスで疎外されてしまう初恋の相手・真莉愛(久保田紗友)と卒業前に繰り広げる青春ラブストーリー。映画『ママレード・ボーイ』『センセイ君主』『4月の君、スピカ。』など、これまでも学園を舞台にした映画に出演してきた佐藤が、今回音楽と映像が一体化した「CINEMA FIGHTERS project」の作品だからこそ成し遂げられた挑戦とは。本作を手がけた井上博貴監督との対談で、パフォーマー兼役者として向き合った自身の芝居やテーマソング「ライラック」について、そして他作品の魅力について話を聞いた。


■井上「大樹くんはすごく純粋で強い部分を持っている」


――今回の作品「魔女に焦がれて」の企画は、どのような経緯で実現に至ったのですか?


佐藤大樹(以下、佐藤):僕はもともと、いつか「CINEMA FIGHTERS project」に出たいと思っていて、作詞家の小竹正人さんにもその旨を伝えていたので、ようやく念願が叶ったという感じです。「CINEMA FIGHTERS project」だと、主演アーティストの所属グループが主題歌を担当するケースが多いのですが、今回はLDH所属の新人アーティストである琉衣さんの「ライラック」が採用されていて、そこもフレッシュなポイントだと思います。学園モノでありながらファンタジーの要素もあって、ショートフィルムらしい作品だと感じています。


井上博貴(以下、井上):私は「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」から推薦があって、小竹さんに作品を気に入っていただけたことから、この企画に参加させていただきました。「CINEMA FIGHTERS project」は、楽曲と映画の融合がポイントとなる企画で、私にとっても挑戦的な作品となりました。今作はファンタジーではありますが、日常の物語がベースにあって、観た人に「現実にこういう話はありそうだな」と感じてもらえるようなリアリティを大切にしています。


――たしかに「魔女に焦がれて」では、ヒロインは予知能力を持っているものの、占いの延長のような感じで、実際にありそうな話です。恋愛物語としても、主人公たちの繊細な感情を描いていてリアリティがありました。


佐藤:もしかしたら、この物語は小竹さんが理想としていた青春時代だったのかもしれないと、演じていて感じました。僕が演じた主人公は、実際の僕の高校時代とは全然違うんですけれど、でも「こういう子はたしかにいたな」と感じられる親近感はあって、だからこそ心情はイメージしやすかったかもしれません。


――お二人はお会いした際、お互いにどんな印象を抱きましたか?


佐藤:井上監督はあまりにイケメンだったので、最初は「俳優さんかな?」と思いました(笑)。プロデューサーの方から、寡黙な人だと伺っていたのですが、実際に会ってお話ししたら気さくな方でした。本読みの段階で「ここはもう説明しなくても伝わるから、カットします」という感じで、ラフに制作を進めていくのも印象的でした。一緒にお弁当を食べた時に、いろいろな映画の話をして、すごくユニークな考えを持った人だと感じるようになりました。


井上:僕は最初に会った時、甥っ子を見るような感覚で「可愛いな」と思ってしまいました。それはさわやかで笑顔が魅力的という外見的な意味合いだけではなくて、その芯にものすごく純粋で強い部分を持っていて、魅力的だと感じたからです。それは本読みやリハにおいても感じたことで、仕事に対しても彼はすごく真っ直ぐに向き合うんです。本作ではあえて主人公にはあまりセリフを言わせずに、表情や仕草で心情を表現してもらおうと思ったんですけれど、大樹くんの台本を覗き込んでみたらものすごい書き込みがしてありました。やっぱり、彼はさりげない感じで振る舞っているけれど、すごく努力をする人なんだと思いました。大樹くんの真摯な態度を見て、私も想像力が広がった部分があります。


■佐藤「普段の自分と雅人の心情が重なる瞬間があった」


――抑制的な表情の演技は、今作の大きな見どころです。佐藤さんはFANTASTICSのパフォーマーとして、常日頃から身体的な表現をしていますが、その経験は活かせましたか?


佐藤:ダンスでは自分をいかにかっこよく見せるかが大事で、そのために身体の動きの一つひとつを丁寧に作り込んでいきます。客観的な視点から動きをコントロールするという点では、ダンスと演技は通じる部分があると思います。ただ、今回はアプローチが正反対で、主人公・雅人の内向的な性格や心情を動きや表情で表現しなければいけないので、とても難しかったです。特に歩き方や立ち姿が難しかったですね。監督から「もっと猫背で」といった指示もあって、こうした表現は自分で思う以上に強調しないと伝わらないということがわかり、勉強になりました。


井上:大樹くんには、セリフの行間をいかに表情や身体で表現するかを意識していただいたのですが、私たちが思う以上に熟考して演じてくれたという印象です。大樹くんの演技には、私はもちろん、プロデューサーや助監督など映画畑のスタッフ陣も大いに感心していました。


佐藤:そうなんですか? 僕自身は苦戦していたのですが、嬉しいです(笑)。でも、普段の自分ではない役を演じるというのは、とてもやりがいがある仕事だなと、本作を通じて改めて思いました。中でも印象に残ったのは、お父さんと会話するシーンですね。僕自身はあまりお父さんと話すことはないのですが、雅人は気まずい感じがありながらも少しずつお父さんとコミュニケーションを深めていて、普段の自分と雅人の心情が重なる瞬間があったんです。


井上:実は私も同じシーンが一番印象に残っています。まさに脚本で思い描いていた通りの芝居で。カメラも主人公の感情に合わせて動いて、大樹くんの表情に寄っていくんですけれど、そうすると大樹くんの表情も変わっていって。このワンシーンの仕上がり次第で、作品全体の印象も変わっていたと思います。


■佐藤「リアルな高校生の心情に合わせた歌詞」


――ヒロインの久保田紗友さんとの共演はいかがでしたか?


佐藤:久保田さんは同年代なのにすごく落ち着いた印象で、良い意味でオンとオフがない女優さんでした。カメラが回っていなくても、同じ調子で僕に話しかけてくれるんです。もしかしたら、あの現場ではずっと役に入ったままでいようとしていたのかもしれません。久保田さんのおかげで、僕も自然と雅人になれた部分があったのかなと。撮っている時は気づかなかったけれど、実際に出来上がった作品を観て、「こんなに深い芝居をしていたんだ」と感じた部分もありました。


井上:今回の作品にぴったりの女優さんでしたね。ビジュアルはもちろん、演技も素晴らしかったと思います。


――今回のテーマソングとなっている「ライラック」の印象は?


井上:世界観がしっかりと確立されていて、すごく情景が浮かんでくる楽曲に仕上がっていると感じました。小竹さんのアイデアをもとに僕があらすじを書いて、それに対して歌詞をもらって、その歌詞からさらに脚本を組み立てて、という風に制作していったのですが、楽曲と映画をしっかりすり合わせたことで、エンドロールでこの曲が流れたときにカタルシスを感じられる構造になったと思います。


佐藤:歌詞の中に羊が出てくるのが印象的でした。羊は同じ制服を着た生徒たちのメタファーで、雅人もまた羊の群の中の一頭だったのが、恋を通じて群から出る決心をする、いわば成長物語を描いた楽曲でもあるのかなと。小竹さんの歌詞は大好きなのですが、中でも今回は特に明瞭なイメージを持って描いた作品だと感じています。一方で、「~でしょう?」と問いかけるような言い回しはなくて、おそらく歌う琉衣さんの年齢ーーリアルな高校生の心情に合わせた歌詞になっているとも感じました。


井上:大樹くんの分析すごいですね(笑)。ものすごく的確だと思います。


■井上「セリフに頼らない映像表現を突き詰めてみたい」


――「CINEMA FIGHTERS project」の他の作品の印象についても聞かせてください。まず、三池崇史監督とAKIRAさんの「Beautiful」はどんな風に観ましたか?


佐藤:僕はこれまで観たAKIRAさんの作品の中でも、トップレベルで好きな作品でした。三池監督との相性もあるのでしょうが、AKIRAさんが人知れず抱えているだろう苦悩や葛藤や恐れがちゃんと描かれていて、なおかつその奥にある優しさや人情が滲み出ています。しかもラストではサプライズもあって、一品で二度美味しい、ひつまぶしのような魅力のあるショートフィルムです。三池監督の普段の作風とは一味違うところも新鮮で、「こんなに優しい作品を撮る方なんだ」と、改めて尊敬しました。


井上:なんて素晴らしいコメント(笑)。本当に三池監督の作品としても新鮮で、俳優二人のむき出しの心を描こうとした作品だと感じました。大樹くんの言う通り、作品の向こうにAKIRAさんのパーソナリティが垣間見える、とても奥行きがある作品だと思います。


――松永大司監督と今市隆二さんの「On The Way」は?


佐藤:まず感じたのは、メキシコロケの画がめちゃくちゃ綺麗だということ。松永監督の作品らしく、あえてドキュメンタリーのような感じで撮っているのも印象的でした。本当にその場でアドリブで撮っているかのようで、今市さんの振る舞いもとてもナチュラルです。ボーカリストにはパフォーマーにはない独特の存在感があるのですが、そのポテンシャルを最大限に活かした作品だと思います。


井上:私はもともと松永監督のファンで、特に『トイレのピエタ』には深い感銘を受けていました。松永監督は新作に向き合うたびに挑戦を続けている方で、今回の作品でもその姿勢が感じられました。今、監督はアメリカに渡っていますけれど、メキシコロケを行った「On The Way」は、海外生活で得た感覚が反映されているように思います。


――洞内広樹監督と佐野玲於さんの「GHOSTING」はどうでしょう。


佐藤:僕はEXPG STUDIOという総合エンタテインメントスクールに通っていた頃から、玲於くんのことをよく知っていて、『シュガーレス』(日本テレビ/2012年)という同じドラマ作品で俳優デビューをしています。僕よりも年下だけれどスクールの大先輩で、憧れの存在でもありました。だから、役者としては今回、一番意識した人かもしれません。今作は主人公が幽霊になって過去のある1日に戻るという設定の作品なのですが、玲於くんがさらに上手くなっていると感じましたし、いい意味で刺激的でした。


井上:洞内監督とは何度かお話をする機会があって、映画の好みなども話し合ったことがあります。「GHOSTING」は、そんな洞内監督の趣味が発揮されたエンタメ作だという印象です。おそらく、『ターミネーター』好きが高じて、未来から過去へ行くストーリーになったのかなと。私とは語り口が対照的なので、「魔女に焦がれて」と見比べても面白いかなと思います。


――行定勲監督と小林直己さんの「海風」についても教えてください。


佐藤:直己さんの持ってるすべてが、しっかり役柄で表現されている作品だと感じました。直己さんは役者としての存在感があって、すごく画になる方なんですけれど、今作は特に映えていると思います。ちょっとした食事のシーンでも、内側から滲み出る説得力が感じられるというか。アウトローな役柄の中に人間味を感じさせる演技はさすがです。


井上:小林さんが自ら提案したというシーンがあって、そこは普通に考えると「え?」と思うような振る舞いなのですが、それがショートフィルムならではのフックにもなっていて素晴らしいと感じました。小林さんの役者としての特性を活かした作品であると同時に、横浜の街を舞台に神話的な世界観を描いた作品だと思います。


――「CINEMA FIGHTERS project」の名の通り、それぞれの作品が切磋琢磨している印象を受けました。このプロジェクトに参加して、お二人にはどんな変化がありましたか?


佐藤:より歌詞を意識しながら曲を聴くようになりました。一つの歌を映像作品にする経験をしたことで、その向こう側にどんな世界が広がっているのか、具体的に想像するようになったのは、役者としてもパフォーマーとしても大きな収穫だと思います。


井上:歌詞を映画にするという企画性の強いプロジェクトでしたが、そのことによって創作性が失われるということはなく、むしろ想像力を駆使することができたのは、私にとっても発見でした。素晴らしい演技を披露してくれた大樹くんとの出会いにも感謝したいです。今作の経験を活かして、今後はさらにセリフに頼らない映像表現を突き詰めてみたいです。(取材・文=松田広宣)