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さくらももこが斉藤和義に託した想いーー『ちびまる子ちゃん』主題歌「いつもの風景」から読み解く

2019年11月25日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

斉藤和義

 アニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)のエンディング主題歌が、10月6日から変わる――このニュースを聞いて、多くの人が正直、ドキリとしたのではないだろうか。作者であるさくらももこが亡くなったというニュースが伝えられたのは昨夏のこと。その後もアニメの放映は変わらず続き、オープニング主題歌もエンディング主題歌も変わらないままだった。しかし、主題歌は数年ごとに変わるのが『ちびまる子ちゃん』の通例。そして、ほとんどの主題歌をさくらももこ自身が手掛けるのも通例。今後の主題歌は、どうなるのだろうか……その動向を気にしていたのは、筆者だけではないだろう。


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 そんな日々を過ごす中で、飛び込んできたのが冒頭のニュース。その内容が、また驚きだった。なんと、さくらももこが、斉藤和義に歌ってもらうことを希望して書いていた歌詞が残されており、それに斉藤が曲を書き、編曲し、歌い、全ての楽器を演奏して、新たなエンディング主題歌が作られたというのだ。このような楽曲の作られ方は、あまり類を見ないし、長いキャリアを持つ斉藤にとっても、貴重な経験だっただろう。歌詞以外の全てを手掛けたところからも、全身全霊でさくらの希望に応えようとした想いが伝わってくる。いつものようにさくらももこが作詞する主題歌を聴けることは嬉しいが、楽曲の背景を思うと切なくなってしまうし、だけど、だからこそ聴くべき名曲になっていることは間違いないし……と、複雑な心境のままで、10月6日はやってきた。


 いつものように観ていた『ちびまる子ちゃん』が終わりに近づく。軽快なビートとギターの音、そして「あ、歌が変わった」という子どもの声。そうだ、今日からエンディング主題歌が、斉藤和義の「いつもの風景」に変わるんだった、と慌てて子どもと並んで画面を注視する。……あっという間に、複雑な心境は消えていた。なぜなら、「いつもの風景」というタイトルのままに、当たり前のように、この曲が『ちびまる子ちゃん』に溶け込んでいたからだ。しんみりした暗さや重さも、気負ったような狙いも感じない。カラフルな音色と、さらりとした歌声からは、日曜日の憂鬱を蹴飛ばす明るさと、ほんのひと匙の切なさがキラリ。子どもを踊らせ、大人を笑わせる、ピュアなポップソングに仕上がっていた。


 歌詞で気になったのは、〈マンガみたいな町だな/オレもオレって役で/登場するんだぜ〉という、作詞家・さくらももこのユーモアを見せるフレーズ(実際に、エンディングのアニメーションにも、斉藤和義を描いたキャラクターが登場し、「あそこにもいる!」「また出てきた!」と子どもが探すこともできる)。ここも含めて、いつものさくらももこの、ナンセンスなセンスを炸裂させたような歌詞よりは、いくぶんストレートに感じられる。さくらももこが『ちびまる子ちゃん』において、そして彼女自身が生きる上で大切にしていたことが、勝手な想像かもしれないけれど、伝わってくるような気がしてならないのだ。〈だいたい同じような毎日だけど/ひとつも同じ日なんてないんだ〉というメッセージ。〈くだらねぇあいつが今日もふざけてる/そして大好きなあの子が 笑ってる〉という、まる子を含めた『ちびまる子ちゃん』の愛すべきキャラクターたちへの想い。そして〈テレビみたいな町だな/キミはキミって役で/登場するんだろ〉という、お茶の間の私たちも『ちびまる子ちゃん』の登場人物なんだよと投げかけてくれるくらい、常に“こちら側”に立ち続けたスタンス。作家性や著作から読み解くに、私はさくらももこは照れ屋だったと思っているのだが、この「いつもの風景」では、思い切って本音を見せてくれたのではないだろうか。


 それを、まっさらな表現に長けた斉藤和義に託した理由もわかる気がする。きっと斉藤和義なら、何があっても揺るがず、ひょうひょうと歌い鳴らしてくれるだろうと、信じていたのだろう。斉藤和義は「お会いできなかったことが残念です」というコメントを寄せているが、意思を通わせたかのような、素晴らしいコラボレーションになっていると思う。


 『ちびまる子ちゃん』(あるいは、さくらももこ)の“いつも”と、斉藤和義の“いつも”、そして私たちの“いつも”が、心地よくシンクロする楽曲。私も、私自身の「いつもの風景」を大切に生きていこう――そう日曜日に聴くたびに噛み締めることができる。そして、この歌をポケットにしまっておけば、1週間を乗り越えることができる。そんな、昨今貴重な“老若男女のお茶の間ポップ”の誕生だと思う。(高橋美穂)