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ヤフーとLINEの経営統合は世界の流れに逆行? 海外企業との比較にみるメリットとデメリット

2019年11月25日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「Yahoo! JAPAN」や「ZOZO」などを運営するZホールディングス株式会社とLINE株式会社が発表した、“超大型経営統合”は、国内のIT業界に大きな衝撃を与えている。


(参考:ZホールディングスとLINEが“経営統合”発表 Yahoo! JAPAN、ZOZOなど繋がり国内IT最大手へ


 この統合により、利用者が1億人規模に上る国内首位のインターネットサービス企業が誕生。ZホールディングスとLINEはともに多角的なサービスを展開しており、それぞれがどのようなシナジーを生んでいくのか気になるところだ。そこで、今回は世界のIT・テック系企業の動向を追っている、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に、統合の狙いやメリット・デメリットのほか、エンタメビジネス領域での潮流と比較したうえでの分析を行ってもらった。


 コウガミ氏はまず、今回の2社の経営統合を「日本市場において、中国やアメリカのIT企業との競争に生き残るためのもの」だと語る。


 「『GAFA』と呼ばれる、Amazon、Apple、Google、Facebookの4社や、中国のテンセント、アリババ、バイドゥといった巨大IT・テック企業がグローバルやアジア圏で勢力を拡大しており、日本の消費市場や経済に影響を与えるのも時間の問題と言われています。もちろん、国内の企業が勝ち残っていくには、今までのやり方とは違うビジネス戦略を模索しなければいけませんから、そういった将来を見据えたうえでの経営判断でしょう」


 また、同氏はその狙いを「世界的な潮流とは逆行している」と指摘した。


「アメリカの巨大IT・テック企業は、様々なアプリやサービス、インフラを統合して規模を拡大してきましたが、近年では独占禁止法の規制強化やプライバシー保護の観点、連邦議会で一部議員が巨大テック・プラットフォームの解体を提唱するといった流れもあり、これらの企業が存在価値を問われ始めています。もちろんZホールディングスとLINEの統合も、電子決済や個人情報の管理問題などを含めて、独占禁止法の審査を公正取引委員会によって受けますが、日本では海外に比べれば規制がまだ緩い。そのような流れもあって、海外では事業拡大・統合といった動きに慎重になり始めている現在、日本で起こっている今回のような大型プラットフォーム同士の経営統合は、世界的な流れと逆行しているともとれます」


 それでは、両社の経営統合によって発生する、メリット/デメリットはどこにあるのか。コウガミ氏は、やはり世界の潮流を踏まえた上で、メリットを以下のように解説する。


「短期的な見方をすると、日本のユーザーに特化したサービスやビジネスというものを、大規模のユーザーに対して展開できる可能性にはメリットを感じます。LINEもYahoo!もZOZOも日本のユーザーに最適化したビジネスを展開してきましたし、国内ではそれが強みでもある。ユーザーデータや広告ビジネスの活用方法も、2社が統合することでかなり大きな規模感になるはずですし、国内向けのサービスはどんどん最適化されていくかもしれません」


 デメリットについては「業態」がキーワードであることを掲げた。


「デメリットは、LINEもZホールディングスもそれぞれインターネットサービスの会社であって、世界と競えるほど自社開発の強いテクノロジーを持たず、技術開発に注力できていないこと。両社は様々なアプリやサービスを連発し、その中からヒットを出すという戦略を採っていますが、アメリカの大手IT企業はここ数年、特定の領域で覇権を握るために自社でテクノロジーを開発して広く活用しつつ、企業価値の向上やビジネスモデルの拡大に力を割いています。中国企業は様々なアプリやプラットフォーム、人工知能の技術を抱え、お互いのシナジーを活かすポートフォリオ型のモデルを強みとし、スマートシティや自動運転にまで投資するなど常に事業拡大を図っています。このように世界の流れと日本の流れにギャップがあるなかで、グローバルなサービスを提供していくのは、時間がかかるかもしれません」


 続けてコウガミ氏はこの答えについて、下記の例えで補足してくれた。


「次々に多様なサービスをリリースしても、それを全部使う人はいないでしょう。例えばAppleが去年からいくつ独立したサービスやアプリを出したかといえば、やはり数えるほどしかない。技術力の多くはiOSやOSX上のソフトウェアや新しいサービスに注ぎ込んで、ビジネスに応じて統合を進めている。AmazonもECやマーケットプレイス、プライム、Echoデバイス/Alexa、クラウドと注力するサービスやデバイスを伸ばしている。これは企業体という意味でもそうですが、日本企業がパーティーで攻略していくタイプのRPGだとしたら、グローバル企業は無駄に荷物を重くせず、装備をその都度最適化して自分の体を研ぎ澄ますFPSの様な経営をしていると言えます」


 最後に、コウガミ氏は今回の経営統合がエンタメ・テック業界に与えるインパクトについて、このように話してくれた。


「競争相手となるアメリカや中国のテック業界は、すでにゲームや映像配信、音楽ストリーミングなど、エンタメ領域へ参入しているところが大半ですし、そのうち複数の分野で成功しているケースもあります。今後、日本の2社による新たなアプリゲームや映像配信、広告、決済やマイクロペイメント、リアルタイムチャット、サブスクリプションなどの新サービスが日本に登場するかもしれませんし、2社の競合サービス同士を統合する可能性もあるでしょう。またこれほどの統合ですので、有名なIPを持った大規模なエンタメ企業の買収も狙うかもしれませんね。それらが発表・リリースされたときのインパクトがどのようなものなのか、注目したいですね」


 2社がともにエンタメ領域のサービスを展開しているがゆえに、IT・テック系領域以外にも大きな影響を及ぼしそうな今回の経営統合。まずは両社の繰り出す第一手がどのようなものになるか、楽しみに待ちたい。


(中村拓海)