2019年11月24日 17:02 弁護士ドットコム
「どんなにうるさかったとしても、登下校中の子どもを赤の他人が殴るのは『犯罪』なのではないでしょうか」。そう話すのは、神奈川県在住の主婦・アオイさん(仮名・30代)だ。
【関連記事:カップルの1人は何も頼まず「水だけ」「大盛りをシェア」、飲食店の「迷惑客」論争】
アオイさんは、子どもと同じ小学校に通うショウヘイくん(小学3年)が、学校からの帰り道に「見知らぬおじさん」に殴られたことを聞いた。
「おじさん」はゲンコツで頭を殴り、暴言を吐き捨てたという。一緒に帰宅していた友人2人に被害はなかった。
ショウヘイくんは賑やかでおしゃべり好き。そのため、先生に「静かに!」と注意されることも少なくないという。
「おじさんは『うるさい』という理由でショウヘイくんを殴ったのかもしれない」と思う一方で、アオイさんは「仮にそうだったとしても、他人の子どもを殴ることは許されないのでは」とモヤモヤしている。確認したところ、ショウヘイ君に外傷はなかったが、「外に行くのが怖い」など怯えた様子を見せるようになったという。
「おじさん」の行為は「犯罪」といえるのだろうか。もし「うるさい」ことを理由に、ショウヘイくんを殴っていた場合はどうなのだろうか。星野学弁護士に聞いた。
ーーおじさんの行為は「犯罪」といえるのだろうか
「他人の子どもを殴る行為は立派な『犯罪』です。
刑法208条は『暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する』と定めています。つまり、人の身体に『暴行』を加えれば、ケガをしなくても暴行罪が成立します」
ーー「暴行」とはどのような行為をいうのでしょうか。
「難しくいえば『人の身体に対する不法な有形力の行使』であるとされています。簡単にいえば、暴力行為、具体的には殴ったり、蹴ったり、あるいは突き飛ばしたりしたけれど、ケガはしなかった場合が『暴行』になります(『暴行』により『ケガ』をさせた場合には傷害罪が成立します)。
ただ、一般的に暴力行為とは見られないような行為であっても、『暴行』と評価される場合があります。たとえば、身体に水や塩をかける行為や、身体のすぐ近くに刃物を振り下ろす行為や耳元で太鼓を叩いて大きな音を出す行為が『暴行』と評価された裁判例もあります。
最近では、走行する乗用車の前に自転車でわざと飛び出して乗用車の走行を妨害した者を暴行罪で逮捕したケースもあります(後に乗用車の運転者がケガをしたということで傷害罪で再逮捕されたようです)」
ーー「うるさい」ショウヘイくんを注意あるいは指導したという理由は、暴行を正当化する理由になるのでしょうか
「子どもが騒いでうるさかったというのは、暴行を正当化する理由にはなりません。
もし『刃物を持った人に襲われたので、逃げるために突き飛ばした』というのであれば、正当防衛が成立します。しかし、子どもがうるさかったとしても口で注意すれば足り、殴る必要はありませんから、正当防衛は成立しません。
おじさんは子どもが騒いだためにイラついて殴っただけで、『子どもを注意しただけ』という理由は後付けの理由のような気もします」
ーーショウヘイくんにはケガはありませんでしたが、「外に行くのが怖い」など怯えている様子です。この場合、精神的な被害を受けたとして「傷害罪」は成立しないのでしょうか
「たしかに、傷害罪は人の生理的機能や健康状態を害した場合に成立するので、一般的な『ケガ』を負わせていない場合(たとえば、嫌がらせ電話をかけ続けて精神を衰弱させ、病気にさせたような場合)でも、成立することがあります。
しかし、殴られたことで被害者が外に出ることを怖がり、怯えた様子を示したとしても、実際のところ、これは『不安感』の程度に止まり、人の生理的機能や健康状態を害したとまではいえないので、傷害罪の成立は難しいと考えます」
【取材協力弁護士】
星野 学(ほしの・まなぶ)弁護士
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。
事務所名:つくば総合法律事務所
事務所URL:http://www.tsukuba-law.com