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『サザエさん』20年後のキャスティングに反響 『磯野家の人々』スタッフが語る、制作の裏側

2019年11月24日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『磯野家の人々~20年後のサザエさん~』(c)フジテレビ

 漫画からアニメへと長年に渡って愛されてきた『サザエさん』がアニメ放送50周年を迎えた。この節目となる今年、11月24日には、サザエさん一家の20年後を描くSPドラマ『磯野家の人々~20年後のサザエさん~』(フジテレビ系)が放送される。天海祐希が演じる“サザエさん”の脇を固めるのは、マスオ役の西島秀俊、カツオ役の濱田岳、ワカメ役の松岡茉優、タラオ役の成田凌、フネ役の市毛良枝、波平役の伊武雅刀。未来の磯野家の人々がどのようにオリジナルの脚本で描かれるのか、毎回話題が上がっていたキャスティングの背景を、プロデューサーの渡辺恒也氏と演出を担当した鈴木雅之氏に聞いた。前半はプロデューサーの視点からの本作の立ち上げについて、そして後半では監督からの現場の話を中心にお届けする。


【写真】幻のキャラクターヒトデ


■渡辺「あくまで『もしも』という仮定の話」


ーーまずはドラマ制作に至った経緯からお聞かせください。


渡辺恒也(以下、渡辺):僕は2016年の夏からアニメ『サザエさん』を担当することになり、当時から50周年には何をやろうかと考え始めていました。その中で、僕自身ドラマ制作の現場が長かったこともあって、やっぱり実写ドラマをやりたいなと。アニメをそのまま実写化することも考えましたが、“今までやっていないことをやる”というのが50周年プロジェクトのテーマとしてあったので、20年後の磯野家を描くことにしました。


ーーなぜ20年だったのですか?


渡辺:理由は二つあって、一つはサザエさんを天海(祐希)さんに演じてほしかったこと。アニメのサザエさんは24歳なので、20年後ならちょうどいいかなと思いまして。もう一つに、カツオ、ワカメ、タラちゃんが、社会に出ていって起こる話を中心に作りたいという思いがありました。一般の会社でいうと中堅になりかけている31歳(カツオ)と、仕事を覚えて、自分で物事を考えていく29歳(ワカメ)と、これから社会に出ていく23歳(タラちゃん)っていう。この年齢感なら、新しくて、なおかつ『サザエさん』の世界で表現しやすいと思ったんです。


ーー大変だったところは?


渡辺:実はそんなに大変さはありませんでした。難しかったのは、台本を作る作業でしょうか。『サザエさん』って、普段の生活を切り取ったような世界観なんですよね。だからこそ50年続いていて、その良さは崩しちゃいけない。でも、2時間ドラマでやる以上何も起きないわけにはいかないので、ドラマチックにしていく部分と、本来のテンポ感とのバランスを取る作業は、時間がかかりました。


ーー国民それぞれがイメージを持っている『サザエさん』。その20年後を描く難しさもあるかなと思うのですが。


渡辺:きっと、アニメをそのまま実写化する方が難しいと思います。今観ているものを実写したら、違うことがたくさん出てくるじゃないですか(笑)。でも20年後なら、みんな自由に想像することができる。今回も、20年後の磯野家は「絶対にこうなりますよ」と打ち出しているわけではなくて、あくまで「もしも」という仮定の話。アニメのイメージと違うところも、重なる部分もあるだろうし、それは観る方がそれぞれ受け取ってくれればいいかなと思っています。


ーー想像だからこそ、描ける世界ということですね。


渡辺:とはいえ、今回はカツオが洋食屋のシェフで、ワカメは服飾のデザイナー。アニメの中でカツオは野球選手、漫画家……と、色んな職業になりたいと言っていて、シェフになりたいという話も登場しています。だから、コロコロ職業を変える中で、今たまたまシェフをやってるっていうのは不自然なことではないんですよね。ワカメも将来の夢は「お嫁さん」だけど、「お洋服を作りたい」みたいに話している回もあって。今回ワカメが“仕事と結婚”で迷うのも、アニメの延長線上にもあることを意識していますし、違和感はないんじゃないかなと思っています。


ーーキャスティングの決め手についても教えてください。


渡辺:サザエさんは、明るさと、人を引っ張っていく力強さが、天海さんのイメージと重なりました。マスオさんについては、まさか西島(秀俊)さんにやっていただけると思わなかったんですけど(笑)、お話をしたらおもしろがっていただけて。西島さんは刑事や公安のイメージが強いけど、気の抜けた“人のいいキャラ”をやったら、すごく優しさが出せる方だと思っていました。カツオは、明るさの中にズル賢さやいい加減さがある。でも、そこが憎めないという部分を、岳くん(濱田岳)なら巧くやってくれるだろうなと。ワカメ役の松岡(茉優)さんに関しては、もし24歳のサザエさんの実写化をやるとしたら、彼女がいいなと思っていたんです。サザエさんの世界に溶け込みやすい何かがあったんですよね。今回は20年後になりましたけど、ワカメが持つ優しさの中にある芯の強さみたいものを、松岡さんなら表現できるだろうなと思いました。


タラちゃんはアニメでは3歳なので、どんな風にでも作れるなと。でも、あの家庭でずっと暮らしていたら、幸せではあるけれど、苦労をせずに生きてきたかもしれないと思ったんです。ドラマでは、自分のやりたいことがわからなくて就活に悩む設定ですが、そこに情けない方の成田(凌)くんのお芝居がぴったりハマるんじゃないかなって。実際に映像を見たら、タラちゃんでしかなかった。すごくタラちゃんです(笑)。


ーーアニメには登場しないタラちゃんの妹・ヒトデちゃんも描かれますね。


渡辺:ヒトデちゃんは原作の1枚絵しかないので、すべて創作するしかなかった。でも、サザエさんを母親に持つ娘って、きっと心の中では誇らしい反面、17歳っていう多感な年頃だと、人前でそれを言われるのは恥ずかしいんじゃないかなって。そこを軸に、お話に盛り込んでいきました。


ーー今回、ヒトデちゃんが担っている役割は?


渡辺:アニメに登場する人たちだけで20年後の物語を作るとなると、リアリティの部分を描きづらかったかもしれません。例えばスマホで動画を見ている何気ないシーンを、彼女なら違和感なく“サザエさんの世界”に持ち込める。そんな橋渡しのような役割がありますね。あとは8人目の磯野家の人ということで、ある種のミステリアスさを視聴者に感じてもらえるといいなとも思っています。


ーー作品について、見どころを聞かせてください。


渡辺:サザエさんとワカメは姉妹だけど、ワカメとフネさんは親子。当然ですが、組み合わせが変わると、それぞれ違った関係性が見えてくるんですよね。生身の役者さんがお芝居することで、キャラクターに対する新しい発見があったし、そこを感じ取っていただけるとおもしろいんじゃないかなと思います。主軸には家族全体の話があるけど、各登場人物についてフリからオチまで描けるように、脚本以上に演出でも組み立てていただきました。本当に1分1秒大事に作られた作品ですし、考察にも耐えうる中身になっていると思いますので、じっくり見ていただけると嬉しいですね。


■鈴木「なんてことない日常を、ファンタジーに」


ーー監督が思う『サザエさん』の魅力はどこでしょうか。


鈴木雅之(以下、鈴木):“家族”というのが、原点でしょうね。会社や学校で嫌なことがあったり挫折したりするけれど、それぞれ“家族”に戻ってくることで、次の朝、また元気に外に行ける。“家族”が、人が生きていく礎や生きる源になっているところが『サザエさん』の魅力であり、作品として描きやすい部分なのかなと感じました。


ーー演出する上で、大事にしたことは?


鈴木:『サザエさん』って、大きなことは何も起こらないんですよ。「戸棚に入っていたはずのケーキがなくなった」と大騒ぎになって、家族会議が開かれるみたいな(笑)。たとえ2時間ドラマでも、殺人事件が起こるとか、そういう特殊なことはありえないんです。でも人はみんな、生きている中でちょっとしたことに悩んでいる。周りから見たら普通のことだけど、本人からするとすごくショックだったりすることが毎日続いていくんですよね。そんな風に、大したことが起こらなくても、本人にとっては起伏のある人生を捉えられるような物語を作りたいと思っていました。


ーーとくにこだわった部分は?


鈴木:なんてことない日常を、ファンタジーに描きたいという思いがありました。あとは、『サザエさん』ってすごく明るくて、悩んでいても沈まないじゃないですか。でも、この物語は20年経っているので、アニメにはない“ちょっとした切なさ”を取り入れていこうと。たとえば波平さんが仕事を引退し、子供たちも離れて寂しい思いをしているとか、みんなそれぞれに切なさを持って生きている。そして“家族”に戻ってきた時に、その切なさをもう1回生きる元気に変えていくという流れができたらいいなと思いました。


ーー演出する上で、難しいと感じたところはありますか?


鈴木:アニメでは家族の誰かと一緒にいるお話が多いけど、今回はみんなが飛び出していく。それぞれバラバラに外にいるので、同じ時間帯にサザエさん、カツオ、ワカメたちがそれぞれの状況にいるわけですよね。5つも6つもあるパーツを別々に撮って、きちんと1つに形成していかなくてはいけない。そこは緻密さが必要なところだったので、ちょっと面倒くさかったかな(笑)。なかなかテクニカルな作業だったと思いますね。


ーーキャストのみなさんに対しては、どのような演出を?


鈴木:何かお願いしたっけなぁ(笑)。でも、『サザエさん』は国民的アニメなので、どういうキャラクターなのかはもともとキャストのみんなが受け取っているんですよね。20年後ではあるけれど、なんとなく想像できる。それぞれがキャラクターのイメージを持って始めていってくれたので、すごくやりやすかったです。


ーー現場の雰囲気も気になります。


鈴木:最近は、みんながちゃぶ台を挟んで延々話をするようなホームドラマがあまりないけど、今回は家族の団欒のシーンがありました。その中で、磯野家の人たちも家族的な結びつきができてくるというか、徐々に空気感が良くなっていく感じだったと思います。


ーーアドリブもあるんですか?


鈴木:アドリブというよりは、今あるセリフの中で、どう『サザエさん』を作っていこうかという感じですね。20年前のキャラクターがきちんと見えているので、それをどう立たせていこうかな、というのが演技プランの中にあって。役者さんにしても、いつもとはちょっと違う目標みたいなものが、おぼろげに見えていくっていう。それは新しいことだし、楽しかったんじゃないかなと思います。その中で、キャラクターに近づくようにシフトしてくる人もいれば、あまりそこに影響されない人もいる。役者さんの取り組み方も、なかなかおもしろかったですよ。


ーー国民的アニメということで、やはり反響は怖いですか?


鈴木:ものすごく怖いです(笑)。でも、とにかくみなさんがおもしろがってくれたらいいなと。『サザエさん』というよりは一つの作品として、おもしろい物語だったと思ってもらえたらありがたいですね。


(取材・文=nakamura omame)