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銭湯の脱衣所に「防犯カメラ」があって困惑…法的にはOKなの?

2019年11月24日 10:01  弁護士ドットコム

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「先日、スーパー銭湯に行ったら、脱衣所に防犯カメラがありました。コンビニやスーパーならともかく、プライバシーの極めて強い空間に設置しても良いのでしょうか?」。関東圏に住む30代の男性から、こんな質問が弁護士ドットコムニュースのLINEに寄せられました。


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男性は「脱衣所で盗難などのトラブルが起こる可能性もゼロではないと思いますが、店側の異性の従業員が見たり、悪用されたりする可能性も十分あると思います」と懸念しています。



●脱衣所に防犯カメラ「気持ち悪くて入るのをやめました」

弁護士ドットコムニュースでも、ネットの口コミで「防犯カメラがある」と指摘されていた都内のとある銭湯に足を運びました。



本当に撮影されているか、ダミーなのかは分かりませんでしたが、確かに女性の脱衣所の天井にカメラが設置されていました。防犯カメラに関する張り紙などは、ありませんでした。



その銭湯については、ネット上でも、脱衣所に防犯カメラがあることについて「信じられません 」、「気持ち悪くて入るのをやめました」といった口コミが複数寄せられています。



●同業者組合「個々の浴場主の判断」

脱衣所の防犯カメラについて、何か取り決めはあるのでしょうか。東京都公衆浴場業生活衛生同業組合に尋ねると、「防犯カメラ設置はあまり好ましくないという話は、理事会では何度かしている」といいます。



防犯カメラに関するクレームも「ないことはない」といい、「クレームの元になるし、こういう時代なので、カメラによる監視はやめた方がいいという話にはなっているが、同業者組合なので強制力はない。個々の浴場主の判断となる」と話します。



では、法的にはどう考えられるのでしょうか。小林正啓弁護士に聞きました。



●原則どこに設置するかは管理者の自由だが…

ーー防犯カメラは勝手に設置していいのですか



店舗やオフィスビルなどの施設内の防犯カメラは、その施設の管理権に基づいて設置されます。この施設管理権は、施設の所有権に基づくものなので、原則としては、どこに設置するかは管理者の自由です。



しかし、その施設が完全な私的空間ではなく、不特定人の入場を前提としたものである場合には、防犯カメラの設置に関する管理者の自由は、入場者のプライバシー権との調整によって、一定の制限を受けます。



すなわち、防犯カメラを設置する必要性が低いほど、または、プライバシー権侵害の度合いが大きい場所ほど、防犯カメラの設置は許されない方に傾きます。



ーーどのような場所だと、プライバシー権侵害の度合いが大きいのでしょうか



プライバシー権侵害の度合いが最も大きい場所の例としては、トイレの個室や、寝室があげられます。



●脱衣所はOKか?

ーースーパー銭湯の脱衣所は、どう考えられますか



さて、スーパー銭湯は不特定多数の来場を予定している施設ですから、施設管理者が防犯カメラを設置できる場所については、一定の制限があると考えられます。



では、脱衣所はどうでしょうか。脱衣所は、経験則上、窃盗が比較的多く発生する場所なので、防犯カメラを設置する必要性は認められます。



他方、来客が裸になる場所である以上、プライバシー権侵害の度合いは大きいといえます。



非常に難しい問題ですが、筆者は結論としては、ただちに違法とはいえない、と考えます。



ーーその根拠はなんでしょうか



実は、この問題について筆者も以前から関心があり、知人の複数の女性に聞いてみたのですが、「脱衣所に防犯カメラが設置してあっても気にしない」と回答した女性が、想像したより多かったことも、違法とまではいえないと考える理由の一つです。



プライバシー権の侵害であるか否かが、一般人の平均的な感覚に依存する部分があることは、完全には否定しがたいところです。



仮に脱衣所への防犯カメラの設置が許されるとしても、隠しカメラは許されません。また、裸を撮影されたくないという来客の気持ちは尊重される必要があります。したがって、「防犯カメラ作動中」の張り紙は、入場料を払う前に目に付く場所に張り出す必要があると考えます。



その張り紙が脱衣所にだけ貼ってあったために、客が入場料を払った後に入浴する気を失ったとすれば、銭湯側は入場料を返還するべきだからです。



ーーとはいえ、最近は、脱衣所の荷物を入れる場所が鍵付きになっている銭湯も多く見かけます。それでも防犯カメラの必要性は認められますか



確かに、「プライバシーを侵害してまで防犯カメラをつけるなら、更衣室のロッカーを鍵付きにすればよいではないか」とも考えられます。



しかし、実際には鍵をかけない利用者も少なくないですし、鍵も浴槽に持ち込めるものであるため比較的単純な作りなので、プロの泥棒には破られそうなものが多いように思われます。暗証番号式のものにすればよいのでしょうが、高価ですし、湿気の多い更衣室では故障しやすいかもしれません。



●一般公衆浴場「より厳しい制限がかかる」

ーー銭湯とスーパー銭湯では違いますか



また、脱衣所への防犯カメラの設置が許されるか否かという問題は、その銭湯が昔ながらの銭湯か、いわゆるスーパー銭湯であるのかにも左右されます。



厚生労働省によると、公衆浴場法の適用を受ける公衆浴場は、「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」があります。「一般公衆浴場」とは「地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設」とされています。



昔ながらの銭湯の多くは「一般公衆浴場」であり、私的施設であると同時に公的な厚生施設としての面を持ち、税金や水道料金が優遇されています。このような公的施設においては、施設管理権の行使は許されるとはいえ、生活上必要とする地域住民に対して「嫌なら来るな」とはいえない立場であると思われます。



このように、昔ながらの銭湯は公的性質を持つがゆえに、脱衣所への防犯カメラの設置は、「その他の公衆浴場」であるスーパー銭湯に比べ、厳しい制限がかかる、とも考えられます。




【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/