2019年11月23日 10:31 弁護士ドットコム
車を運転していて、交通違反で青切符を切られてしまった経験をお持ちの方は少なくないと思います。
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青切符(交通反則告知書)とは、交通反則通告制度に基づき、比較的軽微な交通違反をした運転者に交付される書類です。
違反して警察官に車を停めるよう指示された後の流れとして、まず、「交通違反の内容の説明」→「免許証提示による本人確認」→「青切符などの作成」というやり取りがあります。
そして、やり取りの最後に、交通違反したことを認めるのであれば、青切符とともに警察官が作成した交通事件原票に署名・押印をするよう求められます。印鑑などがない場合は指印でかまわないので押すように言われることが一般的です。
指印するということは、結果として指紋を取られるということになります。
指紋は「生涯変わることがない(終生不変)」「同一の指紋が存在しない(万人不同)」という特性をもっており、個人識別をする上で非常に価値が高いものです。また、個人情報保護法でも「個人情報」に当たると明記されています。
青切符を切られたら、どうすればよいのでしょうか。また、価値の高い個人情報である指紋を警察に取られることに抵抗や不安を感じる場合でも、かならず指印しなければならないのでしょうか。平岡将人弁護士に聞きました。
ーー交通反則通告制度とはどのような制度でしょうか
「交通違反は、本来は刑事事件として捜査、起訴、裁判と刑事手続きを踏んでいくものですが、あまりにも軽微な違反にまですべて捜査をするというのは、国・違反者双方にとって負担が大きいです。
そこで、青切符を交付し、反則金を支払えば刑事事件化しませんよ、というルールでその負担を軽減しているのが交通反則通告制度です。
青切符の段階であれば、前科もつかないし、刑事裁判の手間も省けて、違反者も国にもメリットのある制度だと言えます」
ーー青切符を受け取ったら、反則金は必ず支払わなければいけないのでしょうか
「交通反則通告制度を利用することは強制ではなく、反則金の支払いも任意です。
この制度については、裁判を受ける権利等が害されているとして、その有効性が争われたこともありました。
最高裁昭和57年7月15日判決によると、交通反則通告制度自体は、この制度の利用に同意せず反則金を納めなければ、正式な刑事裁判を受ける機会があるため、結論としては有効だとしています。
そして、その判決の中で、交通反則通告制度をいったん利用したのならば、後々、違反したという事実はなかったと主張して裁判で争ったりはできないと示しています。
したがって、反則したという事実がないのであれば、交通反則通告制度を利用してはならないということです」
ーー警察官が署名・押印を求める書類とはどういったものなのでしょうか
「署名・押印を求められるのは、青切符とともに作成される交通事件原票の「供述書」欄です。
交通反則通告制度を利用すれば、結果として刑事事件にはなりませんが、署名・押印を求められる段階ではこのあと刑事手続きになるかどうかわからない状態です。
したがって、後日、正式な刑事裁判になる場合に備えて、警察官は違反の事実を認める供述書を作成しようとします」
ーーなぜ、警察官は供述書に署名・押印を求めるのでしょうか
「刑事裁判では、検察官が犯罪事実を証明するため、様々な証拠を提出しますが、被告人(弁護人)側は、検察官の提出証拠を認めるか否か(書面であれば同意か不同意か)の選択ができます。被告人側が不同意とした書面については裁判所に提出することはできません。
ただ、不同意とされた書面であっても、刑事訴訟法の規定に従って、裁判所に提出することができる場合があります。
刑事訴訟法322条1項は、『被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき…これを証拠とすることができる』と定めています。
被告人側が供述書の証拠提出を不同意にしたとしても、検察官は『不利益な事実を承認した供述書』で、『署名・押印のある書面』として、322条1項に基づき裁判所に証拠採用を求めることができるのです(なお、この場合でも被告人側は任意になされた供述ではないとして証拠能力を争うことが可能です)。
したがって、警察官が供述書に署名・押印を求めるのは、不利益な事実を承認する書面に署名・押印させることにより、後の刑事裁判において証拠能力を確保しようとする趣旨であるといえます」
ーー押印を求められたら、指印をしなければならないのでしょうか
「当たり前のことですが、供述書への『署名・押印』は任意でなくてはなりませんから、それを拒否することができます。
また、事実を認めて供述書に『署名・押印』する意思があったときでも、322条1項の『押印』は印鑑でも足りるはずですから、警察は印鑑ではなく指印での『押印』を強制できないと考えられます。
『みだりに指紋を採られない自由』は、プライバシー権として憲法13条により保障はされていますが、外国人登録原票に指紋を取る制度は憲法に違反しないとした判決がありました(最高裁平成7年12月15日判決参照)。
ただ、供述書への『押印』の場合は、印鑑など別の『押印』が可能であるのに、『指印』を強制することに正当な理由はないと考えられます」
ーー指印を拒否しても、青切符を受け取ることはできますか
「指印を拒否しただけでは、交通反則通告制度を利用することまで拒否したことにはならないとされています。その後、青切符を受け取り、反則金を支払えば、刑事手続きにならずに済みます。
一方、青切符の受け取りまでも拒否してしまうと、刑事事件として動き出すので、前科がついてしまう可能性があります。
最近でも、赤信号無視で摘発された男性が、青切符の受け取りを拒み、起訴された事件がありました。青切符の受け取りを拒否した経緯について争いがあったようですが、違反した事実が認められ、罰金9000円の判決となっていました(最高裁令和元年6月3日判決)。 違反した事実があるのであれば、前科がついてしまう可能性もあるので、罪を認め、青切符を受け取るのが賢明だと考えます」
「もし、交通違反をして取り締まりの対象になってしまったとしても、それが軽微であっても、大きな事故を起こす前に気を引き締める機会をもらったと考え、青切符の反則金を払うようにしてほしいものです。
交通事故を起こす加害者も、起こしたくて起こすわけではありません。日常の交通違反の積み重ねが、運転に油断を生じさせ、ある日大きな交通事故を引き起こしてしまうのではないでしょうか。
警察官は、日々交通違反を取り締まってくれていますが、これによって、運転者に安全運転の意識づけをし、それがいつか起きる重大な交通事故を防ぐ結果につながるものと私は考えます。
交通事故は減りつつあるとはいえ、未だに多くの被害者の生命を奪い、また重い障害を残しています。交通事故被害によって、大きな苦痛を受ける遺族や被害者がこれ以上でない社会を望みます」
【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。全国で8事務所を展開する弁護士法人サリュの代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「虚像のトライアングル」。実務家向けDVDとして「損保会社を動かす!交通事故被害者を救う賠償交渉ノウハウ全三巻」など。
事務所名:弁護士法人サリュ銀座事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/