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『TikTok』運営のBytedance、なぜ音楽ストリーミングに着手? その理由を考えてみた

2019年11月23日 08:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 TikTokを運営する中国のテクノロジー会社ByteDanceが、音楽ストリーミングサービスを始める可能性が高まっている。


(参考:『TikTok』と『LINE MUSIC』が楽曲提携 動画と音楽の流行を繋ぐ新しいユーザー体験へ


 経済メディアのフィナンシャル・タイムズによれば、ByteDanceはオンデマンド型のストリーミングを実現するための準備を進めている。楽曲のグローバルライセンス契約に向けてメジャーレコード会社3社であるユニバーサルミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックの交渉が進行中であるという。


 ByteDanceが音楽ストリーミングに参入するという情報は、今春にすでに報じられていたが、当時の情報では、ローンチ時期が早ければ2019年秋と言われていた。


 さらに状況を整理してみたい。特に、ByteDanceが、SpotifyやApple Music、Amazon Music、YouTube Musicなど、すでに世界各地で普及しているグローバル・サービスと、どのように差別化するかは焦点の一つだろう。


 ポイントの一つは、地域戦略にある。ByteDanceはストリーミングをインド、インドネシア、ブラジルといった、「今後音楽ストリーミングが普及すると見られる国」から先に始めると噂されており、これらの国で始めた後にアメリカに進出する計画だ。これはApple MusicやSpotifyがアメリカでの普及促進を戦略の一つに置いたのとは大きく異なる方向転換だ。ちなみにアメリカは世界最大の音楽マーケットであり、その中でもストリーミングのビジネスが音楽売上全体の80%を占めている。その一方では、サービスが数多く存在するため、ユーザー獲得が激化している国でもある。


 すでにByteDanceは東京、ロサンゼルス、ロンドン、ソウル、上海、シンガポール、ムンバイ、ジャカルタなどにオフィスを構えているが、これも戦略拠点として機能させていく狙いがあるのだろう。


 また、情報によれば、ByteDanceはストリーミングサービスを月額9.99ドルで提供するという。世界でこの価格帯が統一されるかどうかは未定だ。


 では、なぜByteDanceがいま、音楽ストリーミングを始めるのだろうか?


 その理由として考えられるのは、世界の音楽業界からのプレッシャーだろう。世界の音楽市場は今、ストリーミング・ビジネスが普及し、配信向きなアーティストたちやソングライター、作品が増加したことで、アメリカやヨーロッパの国々では音楽市場の主な収益源がストリーミングに変わりプラス成長を実現。レコード会社は、ストリーミングからのマネタイズを更に加速させたいという強気の姿勢で、将来を見ている。


 ByteDanceが目指すのはインドやブラジルなど、今後ストリーミングの伸びしろが期待できる国。だからこそ、アーティストの海外展開と新規市場への参入が実現でき、ビジネスを拡大できる。すでに飽和状態にあるアメリカやヨーロッパだけでは、新人アーティストの育成やヒットアーティストの成功、長期的な成長は厳しくなるとの見通しがあることも、背景として大きい。ByteDanceのストリーミングは、音楽業界に新しい収益源を与えてくれるはずだ。


 ByteDanceとしても、ストリーミングビジネスは企業の成長を推進するためとも考えられるが、欧米の音楽業界とライセンス契約を結び、コンテンツを確保するという狙いがより強いとみられる。TikTokで使用される楽曲のライセンス契約は、Apple MusicやSpotifyなど大手ストリーミングが音楽業界と結ぶものとは異なる契約内容のため、楽曲が使用されたアーティストへのロイヤリティ分配は「無いか、極めて低い」ことが業界の中では問題視されてきた。こうした問題の解決もできるのは、ByteDanceとしても大きいはずだ。


 日本でも定着しつつあるTikTokだが、世界の音楽業界における存在感も、今年に入りさらに加速している。世界ではレコード会社の若手アーティストや、レーベルと契約をしないインディペンデントアーティストがTikTokを経由させてバイラルヒットを生み出すマーケティングキャンペーン戦略がますます増えている。


 2019年を代表する世界的なヒットであるLil Nas Xの「Old Town Road」がTikTok経由でバイラルヒットに繋がったことは、すでによく知られているが、Ashnikkoの「STUPID」、エイバ・マックスの「Sweet But Psycho」、Calboyの「Envy Me」、Ambjaayの「Uno」と、TikTokで話題を集めてストリーミングでバイラル化させるアーティストだけでなく、レコード契約を実現した若手アーティストも後を絶たない。


 特にアメリカでは、2019年に入ってからTikTokのユーザーが急増したことで、ヒップホップやR&B、アーバンミュージックを中心に、バイラルヒットを作れる若者とレコード契約のオファーを出すレコード会社が増えている。つまり世界の音楽業界でも、今やTikTokは無視できないほど注目度が高まっているのだ。


(ジェイ・コウガミ)