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『麒麟がくる』で沢尻エリカの代役に決定 川口春奈演じる“濃姫”を、過去出演作から予想

2019年11月22日 14:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 11月16日、沢尻エリカの逮捕によって、突然始まった2020年大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)の代役探し。芸能ニュースが、時代劇経験のある蒼井優、貫地谷しほり、広末涼子らの名前を出して予想する中、21日夜、NHKが代役は川口春奈に決定したと発表した。沢尻より9歳下の24歳、時代劇経験なしということで、川口の名前を挙げた人は少なかった。やじ馬根性で成り行きを見守っていた筆者も「その発想はなかった」とびっくり。同じように、意外なキャスティングだと感じた人が多かったようだ。


参考:長谷川博己、『まんぷく』の次は大河ドラマ『麒麟がくる』も 芝居に安定感生む“演出家”としての顔


 役どころは下剋上で成り上がった美濃の国(現在の岐阜県)の城主・斎藤道三(本木雅弘)の娘、帰蝶。主人公の明智光秀(長谷川博己)とは親戚関係にあるが、光秀にとっては“主君のお姫様”であり、のちに政略結婚で織田信長(染谷将太)の正室となる。身分の低い家に生まれ育った光秀がその才覚を道三に見いだされ、重用されるようになっていく「美濃編」から、光秀が本能寺の変を起こすクライマックスまでフルに出演するであろう重要なポジション。沢尻の年齢と比べると川口は若すぎるが、信長役の染谷が27歳なので、夫婦役としてはつり合いが取れている。ちょっと美形すぎるのでは? という疑問も、本木の娘役と考えれば妥当でもある。ちなみに異母兄の斎藤義龍を演じるのは伊藤英明だ。


 川口は2008年ごろから芸能活動を始め、24歳にして既に芸歴10年以上。雑誌モデルとしても活躍し、Instagramのフォロワーは242万人以上(2019年11月22日現在)。おしゃれで美形、スタイルも良いあこがれの存在として同世代を中心に高い人気を誇る。女優としては2011年に『桜蘭高校ホスト部』(TBS系)で男装のハルヒを演じ、連続ドラマ初主演。山田涼介主演の『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)ではヒロインの美雪役。その数年で一気に知名度がアップし、以後、ドラマのメインキャストになった。近年も『ヒモメン』(テレビ朝日系)や『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)でもヒロイン役。コミカル要素もありの現代的でポップな役柄を得意にしている。実は、宮藤官九郎脚本の映画『謝罪の王様』にも特別出演し、“映画の完成披露会見に出たが質問に「別に……」と答えてしまう不機嫌な女優”を演じていた。今回、沢尻の代役となったのも、運命だったのかもしれない。


 大河ドラマでの降板、キャスト交代は決して珍しくない。『西郷どん』の斉藤由貴から南野陽子、『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』のピエール瀧から三宅弘城と、最近も2作続けてあった。そして、濃姫と言えば、47年前、司馬遼太郎原作の『国盗り物語』で浅丘ルリ子が濃姫を演じることになっていたが、当時20歳で、大映から松竹に移籍したばかりの松坂慶子が代役となり、気丈で美しい濃姫を演じ、出世作になったというエピソードがある(参考資料:「日本の女優100人-写真とエピソードで見るヒロインたちの肖像-」宝島社)。川口は既にメジャーな存在だが、今回の濃姫役は、さらに“演技派”という評価を得て、中高年層にも名前を知ってもらうチャンスになるだろう。


 これまでの川口の出演作を振り返ると、少女漫画原作のラブコメディなど、“軽い”印象の役柄が多かった。近年も『ヒモメン』で、窪田正孝演じる彼氏が部屋に他の女性を連れ込んだかもしれないと疑っているとき、包丁を持って「殺すよ?」と不気味な笑顔を浮かべたときの表情や、『イノセンス 冤罪弁護士』で、坂口健太郎演じる先輩弁護士の変人ぶりに癇癪を起こす場面などが印象的で、とにかくコメディの反射神経が良く、男性にこびず、じめっとしていない健康的な女性というイメージ。しかし、濃姫と言えば、自分の意志とは関係なく信長の元に嫁がされ、兄に父を殺され、さらには夫を自分の従兄弟(光秀)に殺されるという戦国時代の悲劇を全部乗せにしたような女性だ。その絶望感や葛藤を見せるシーンもあるはずだが、どこまで真に迫って演じられるか。


 しかし、川口は映画の最新出演作『九月の恋と出会うまで』では、高橋一生演じる男性と恋に落ちながらも悲劇的な運命によって離れてしまうヒロインを演じ、彼に別れを告げられる場面やラスト、海辺で彼を思うシーンでは観客を引き込むエモーショナルな演技を見せた。大河でも愛する人との別離、死別などの場面を充分に演じられるはずだ。


 ちなみに、濃姫役は2014年の大河ドラマ『軍師官兵衛』では内田有紀が、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では菊池桃子が演じていた。筆者にとってのベスト濃姫は、1983年『徳川家康』での藤真利子。ここでの濃姫は役所広司演じる信長と同志のような絆で結ばれているが、子ができず、信長から側室を作ることを宣言されたとき、平気なふりをして「さすがはマムシ(道三)の娘であったわ」と信長から讃えられる。だが、最後は突っ伏して泣いていた姿が忘れられない。現在、『いだてん』では「これは極論だがね」の老獪な嘉納治五郎となった役所も、当時まだ20代。若々しく野性的な信長を演じ、本能寺の変で夫婦共に戦って死ぬシーンまで、ロマンティックの極みだった。


 また、濃姫はファムファタール的な女性として描かれることもある。夫の信長と従兄弟の光秀の2人から愛される存在であり、光秀が彼女のために本能寺の変を起こすというパターンもあるほどだ。2006年の『功名が辻』では和久井映見演じる濃姫が、信長の狂気におびえ、光秀と結ばれていたら……と嘆く場面もあった。『麒麟がくる』がこの三角関係をどう描くかは分からないが、沢尻に期待されていたものが“運命の女”としての魅力だとすると、男性を惹きつける色気を川口が出せるかもポイントになる。こちらについては未知数。これまでのイメージを覆す演技を期待したい。


■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。