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『殺カレ死カノ』『シグナル100』など話題作続々出演 恒松祐里、複雑な10代の心境を体現する演技力

2019年11月21日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『殺さない彼と死なない彼女』(c)2019映画『殺さない彼と死なない彼女』製作委員会

 2010年代の日本映画界を象徴する少女漫画の実写化をはじめ、近年青春ドラマからスリラー作品まで幅広いジャンルで学校を舞台にした映画やドラマが作られているだけあって、生徒役を演じることができる10代後半から20代前半の俳優はまさに群雄割拠の状態がつづいている。アイドルやモデルから俳優業へ転身したり、登竜門的作品やコンテストを経たり、彗星のごとくいきなり主演を飾ったりと、それぞれのステップがある中で、意外にも子役時代から堅実なキャリアを積み上げてきた俳優というのはあまり多くない印象を受ける。ましてや、90年代中ごろと2010年ごろにあった子役ブームのちょうど狭間の世代ともなれば尚更だ。


参考:場面写真はこちらから


 しかしながら恒松祐里は、その流れに抗うかのように子役から着実にステップアップを遂げ、安定したポジションを維持しつづけている稀有な女優である。2005年に当時6歳でデビュー以来、数え切れないほど多くのオーディションを経験して様々な役を勝ち取ってきた彼女は、まさに若手女優随一の努力型女優といえるだろう。そんな彼女が一躍飛躍を遂げたのは芸歴10年目を迎えた2015年。新垣結衣が主演を務め、葵わかなや佐野勇斗らと共演した『くちびるに歌を』や、NHKの連続テレビ小説『まれ』、そして月9ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ系)では石原さとみ演じる主人公の妹役を演じるなど、立て続けに大役に抜擢され、注目の若手女優のひとりとして名を連ねることになった。


 ちょうど時同じくして、前述したような若手俳優が大挙出演する作品がトレンドとなると、どんな役柄でも果敢にチャレンジしていくことで勢いをつける同世代の俳優たちをよそに、彼女は独自のポジションを確立することになる。それは、“気の強さ”と“脆さ”を共存させた複雑なティーンエイジャーというキャラクターだ。例えば髪を金髪にして挑んだ『サクラダリセット』で演じた、特殊な能力を持ちながらヘビーな過去を抱える岡絵里役であったり、原作のイメージをほぼ完全に再現して、友情を超えた感情に苦悩するサブヒロインの筒井まり役を演じた『虹色デイズ』。そして今年春に放送された『都立水商!~令和~』で演じた真中希海役もまた、その流れに沿った役柄であったといえよう。


 もはやこのような極端な二面性を持った役柄を演じさせれば、同世代で恒松の右に出る者はいないのではないだろうかというぐらい、このタイプの役柄がハマる。ツンとして取っつきづらいようでいて、ふとした瞬間に影を帯びた表情を見せ、知れば知るほど誰よりも深いバックグラウンドを有するキャラクターは、おそらく彼女のキャリアの長さと積み上げてきた努力の賜物ではないだろうか。もちろん、シンプルに気の強さだけが押し出された“陽”タイプな『3D彼女 リアルガール』での役柄も魅力的ではあるし、『凪待ち』での“陰”の部分を突き詰めた役柄、さらには『散歩する侵略者』でのどちらにも定まらないが底知れぬ破壊力を持った空気感もしかり。いずれにしても、同世代の俳優たちとの共演で相対的に際立てられてきた存在感が、これまでで最も充実した2019年に絶対的なものへと転化したことは言うまでもない。


 11月15日から公開された『殺さない彼と死なない彼女』では、『虹色デイズ』でも共演した堀田真由演じる“きゃぴ子”の親友で、『3D彼女 リアルガール』ではクラスメイト役だったゆうたろう演じる八千代の姉・地味子という役で出演。学園ものであり、またTwitter発の四コママンガを原作にしたという前提以上に、繊細な映像表現でオリジナルの青春ドラマを紡いできた小林啓一監督らしさが出ている白眉な作品だけあって、やはり出演している若手俳優たちのレベルは極めて高い。そんな中で彼女が演じる“地味子”は、メインキャストの中でも名前の通り“地味”な位置づけのキャラクターでありながら、作品の礎と呼べる部分、例えばバラバラに進む物語をつなげる役割であったり、自然光を駆使した夕景の輝かしい場面に映える立ち居振る舞いであったりと、この映画にとって極めて重要な存在でありつづける。


 今後の彼女の出演作を見てみると、橋本環奈が主演を務める一風変わった学園スリラー『シグナル100』が年明けすぐに予定されているものの、松本穂香主演の『酔うと化け物になる父がつらい』や先の東京国際映画祭で大きな話題を集めた『タイトル、拒絶』と、学園系映画から卒業していくような気配が見受けられる。もっとも、これまでキラキラした学園モノでは常に助演に徹してきただけに、そうした作品で正ヒロインを演じる姿を見たい気持ちはあるが、それ以上に、豊富なキャリアと持ち前の存在感を活かして20代をリードする女優へと成長してくれることに強く期待を込めたいところだ。 (文=久保田和馬)