2019年11月20日 11:11 弁護士ドットコム
不祥事を起こして会社をクビになった夫が、無職を理由に養育費を払わないーー。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。相談者によれば、不祥事が判明したことをきっかけに「長年のモラルハラスメントと飲酒トラブルに耐えかね離婚を決意」したと言います。
【関連記事:「500万円当選しました」との迷惑メールが届く――本当に支払わせることはできる?】
夫からは養育費をもらって、離婚するという合意も得て、進めていたと言います。ところが、公正証書を作成して離婚届を提出するのみというタイミングで、夫は「無職だから養育費は払わない」と言ったそうです。
相談者は「公正証書を作成していち早く離婚する方法はないでしょうか」と尋ねています。夫が無職で収入がない場合、養育費はもらえないのでしょうか。斉藤圭弁護士に聞きました。
相談者はまず、どのように動くべきなのでしょうか。
「早期に家庭裁判所に調停を起こし、婚姻費用や養育費を決めるべきです」
相談者は公正証書を作成してから離婚したい、と考えているようです。
「公正証書は、合意がなければ作成できません。夫が支払いに応じないのであれば、婚姻費用や養育費(以下では、「養育費等」とします)を盛り込んだ公正証書は作れないことになります。
しかし、、養育費等は、日々の生活に関わるものです。夫が支払わないというのであれば、当事者間で解決の道筋が見えない交渉を継続するより、裁判所に決めてもらうべきだと思います。
裁判所も、養育費等の取り決めについては、ある程度のスピード感を持って対応してくれます。調停から始めることになりますが、どうしても夫が支払いに応じないようであれば、審判に移行します。
そして、裁判所の決定で、養育費等の支払い義務と金額を確定してもらうという流れです」
今回の相談者は、夫が無職です。それも「養育費を払わない」ために、意図的に無職となったようにも見受けられますが、このような夫にも養育費の支払いを命じられるのでしょうか。
「確かに、養育費等の金額を決める際には、夫が無職である点が問題となります。ただし、一般論としては、稼働できるにもかかわらず仕事をしていないようなケースでは、『潜在的稼働能力』があるとして、これまでの所得を参照するなどして、養育費等の支払義務を認めることがあります。
これまでの所得状況を示す資料を提出して、夫の支払い能力があることを示してくべきでしょう」
相談者によれば、長年モラハラや飲酒トラブルがあったとのことです。このことは離婚時にどのような影響がありますか。
「夫は有責配偶者である可能性がありますので、慰謝料の請求も検討すべきです。ただし、不祥事を起こすような夫であれば、慰謝料を支払わないおそれもあります。
他方で、養育費等の支払い義務を認める調停調書などの裁判所作成書面があれば、給与差押えといった強制執行の場面で優遇されます。養育費等の不払いは社会問題であり、これまでにも支払いの実現を容易にするための制度変更が行われてきました。今後も、そのような制度的な手当てが期待できます。
このように考えると『慰謝料を減額するとしても、養育費等の支払いだけは誓約させる』などとして、できるだけ早期に養育費等の合意を目指すという対応も必要かもしれません」
【取材協力弁護士】
斉藤 圭(さいとう・けい)弁護士
東京大学卒、山梨学院大学法科大学院卒。平成22年弁護士登録し、平成24年に山梨県甲府市に舞鶴法律事務所を開設しました。交通事故、債務整理、相続問題など、様々な事件を取り扱っています。
事務所名:舞鶴法律事務所
事務所URL:http://maizuru-lawoffice.com/