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渡辺大知の出演作が止まらない! 経験を力に変える瞬発力が役者としての信頼を生む?

2019年11月20日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『わたしは光をにぎっている』(c)2019 WIT STUDIO/Tokyo New Cinema

 映画『わたしは光をにぎっている』で、再開発で消える街を撮影する緒方銀次を演じているのは渡辺大知だ。1990年8月8日生まれの渡辺は高校在学中に結成したロックバンド、黒猫チェルシーのボーカルとしてメジャーデビューすると(2018年10月に活動休止)、近年は俳優としての活躍もめざましく、2019年だけでもドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(NHK総合)や『Iターン』(テレビ東京系)、『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)をはじめ、『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)第39回での森繁久彌役など話題作へのキャスティングが続いている。なぜ渡辺はこれほどまでに同業者から信頼を寄せられるのだろうか?


参考:アーカイブが繋げる未来 『わたしは光をにぎっている』が映す、失われつつある「東京」


 「男子三日会わざれば刮目して見よ」という故事がある。目を離している隙に「いつの間に?」と思うほど見違えてしまうのが男子の成長曲線だが、俳優としての渡辺もこの類型に当てはまる。


 みうらじゅんの自伝的小説が原作の『色即ぜねれいしょん』(2009年)。俳優デビュー作となったこの作品で渡辺はいきなり第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。「スクールカーストの最下層で青春のエネルギーを持て余す文系男子」という主人公・純のイメージは当時10代だった渡辺と二重写しになって見えた。スクリーンに「普通の男子」というアイデンティティを刻んだ渡辺は、同作以降、その人懐っこい笑顔と気どらないオーラで学生やサラリーマン、バンドマンなどを演じキャリアを重ねてきた。


 身近にいそうな存在感という渡辺のポテンシャルはパートナーを得たときに最大化する。渡辺を語るときに外すことのできない映画『勝手にふるえてろ』(2017年)では、松岡茉優演じるヨシカの本命彼氏「イチ」に対する当て馬「ニ」を熱演。ヨシカに振り回される「ニ」の虐げられっぷりが、ブレーキなしで走り抜けるラストシーンのインパクトを倍増させていた。また2018年のドラマ『恋のツキ』(テレビ東京系)では、高校生との浮気に走る主人公ワコ(徳永えり)のモラハラ気味な彼氏として同棲カップルのリアルな生々しい日常を画面に焼き付けた。


 男という生き物が本質的に持つ情けなさやピュアな心情をオブラートにくるまずにさらけ出す渡辺の個性は、天然素材と意識的な役作りのたまものである。公開中の映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』でも主人公・砂田(夏帆)の夫として短い出演時間で物語のアンカー役をまっとうしているが、大九明子や箱田優子ら女性監督の演出意図を的確に汲み、主演女優の魅力を引き出す演技には映画『モーターズ』(2015年)で監督・脚本を手がけた経験も反映されているはずだ。


 「受け」の演技が際立つ渡辺だが、2019年7月クールに放送された『べしゃり暮らし』ではそれにとどまらない新境地を示している。漫才コンビ「きそばAT(オートマチック)」のツッコミ担当・辻本として上妻(間宮祥太朗)が繰り出すボケに絶妙な間合いで切り返すシーンは、渡辺の演技に対する瞬発力を強く感じさせるものだった。同時期のドラマ『Iターン』でもムロツヨシのアドリブを引き出していたが、演技派の役者と一瞬の化学反応を起こす才能は、ストレートなロックンロールを身上とする黒猫チェルシーの日々を通して培われたものかもしれない。


 そんな渡辺だが、ふたたび主役として真価を発揮する時が近づいている。2020年2月からはじまる村上春樹の名作『ねじまき鳥クロニクル』待望の舞台化で主人公・岡田トオル役に抜擢。さらに、主演映画『僕の好きな女の子』(又吉直樹原作)の公開も予定されている。デビューから10年、経験を力に変えることで刮目すべき存在となった渡辺大知。俳優としての新章でどんな姿を見せてくれるか楽しみだ。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。