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『グランメゾン東京』玉森裕太が抱えていた葛藤 木村拓哉の“言葉にならない”演技が冴え渡る

2019年11月18日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『グランメゾン東京』(c)TBS

 リンダ(冨永愛)の書いた記事がきっかけで尾花(木村拓哉)の存在がマスコミに知られ、「グランメゾン東京」はオープン初日からキャンセルが相次ぐ。窮余の一策として尾花が考えたのは「こっちから外に出る」ことだった。


参考:『グランメゾン東京』 で天才を追いかける「努力の人」に 玉森裕太の“静かな演技派”としての実力


 『グランメゾン東京』(TBS系)第5話では、3年前のナッツ混入事件の犯人が明らかになった。自分が推薦した「エスコフィユ」が不祥事を起こしたことで顔に泥を塗られたリンダは、フードライターである栞奈(中村アン)の手を借りて事件の真犯人を突き止めようとしていた。一方、祥平(玉森裕太)はグランメゾン東京との関わりを交際中の美優(朝倉あき)の父親に知られ、ホテルを辞める覚悟で尾花の元を訪ねる。


 「うちに来てよ」と祥平を誘う倫子(鈴木京香)に対して「反対」と素っ気ない尾花だったが、祥平を誘ってフードフェスに出店。最高級の食材にスパイスを加えて煮込んだ尾花たちのカレーはSNSで話題を呼び、フェスの店舗には行列ができる。グランメゾン東京のほうは相変わらず閑古鳥が鳴いていたが、「美味しいものをつくってる。間違ったことはしてない」という尾花の言葉のとおり、徐々に手ごたえをつかみつつあった。


 陰謀と策略が渦巻くレストランを舞台に、日曜劇場ならではのストーリーを小気味よく転がす塚原あゆ子監督の演出が冴えわたった第5話では、尾花や京野(沢村一樹)が抱く今はなきエスコフィユへの思いがあらわになった。回想シーンで祥平がつくったまかないを食べながら、三ツ星を獲れなかった悔しさに顔をゆがませる木村の表情や、沢村のすべてを知って仲間のために泥をかぶるような感情を押し殺した演技に思わず引き込まれる。


 しかし、そんな感傷を吹き飛ばすかのように「おっさん同士、無駄に熱い友情みたいなのやめてくれないかな」と倫子は一喝する。「私たちはいま美味しい料理をつくってる。何も間違ってないよね」と尾花に投げ返す場面には、生きた言葉の応酬によって形づくられるドラマの醍醐味が詰まっていた。


 表の主人公である倫子と裏の主人公・尾花。個性の異なる2人が両輪になって生まれる推進力が『グランメゾン東京』の魅力だが、徹底して「イヤな奴」を演じる尾花のキャラクターが最高のスパイスになっている。本作での木村については、セリフで語られるものよりも調理シーンや無言の演技などの言葉にならない要素が大きい。「背中で語る」と書くと安易かもしれないが、さまざまな思いを胸の奥にしまって日々を過ごす同世代にとっては共感できるものだろう。


 あえて風評被害を引き起こすことで真相をあぶり出すというリンダが投じた劇薬は不発に終わった。思い出のまかない料理を食べながら祥平が振り絞るように発した「レシピ、変えましたよね」という問いに対する尾花の本心は「フレンチやめんじゃねえぞ」という一言に凝縮されていた。それは同時に愛弟子への惜別の言葉でもあった。


 仲間への思いと料理への信念を貫くことで風評をはね返したグランメゾン東京。試練を乗り越えた尾花たちの前には「トップレストラン50」への掲載という次なるステージへの扉が開かれた。そして、丹後(尾上菊之助)率いる「gaku」との直接対決が幕を開ける。三ツ星獲得を目指す挑戦がいよいよ本格化する。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。