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THE BOYZとSuperM、注目のK-POPがチャートイン 両作に表れた対照的な“戦略”

2019年11月16日 17:41  リアルサウンド

リアルサウンド

THE BOYZ『TATTOO』(通常盤)

参考:2019年11月18日付週間アルバムランキング(2019年11月4日~11月10日/https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2019-11-18/)


 2019年11月18日付のオリコン週間アルバムランキングチャートの1位は来栖翔(下野紘)『うたの☆プリンスさまっ♪ソロベストアルバム 来栖翔「Sweet Kiss」』で推定売上枚数30,499枚を売り上げた。同作は人気コンテンツのキャラクター毎ベスト。ちなみに初登場で8位にランクインした『「結城友奈は勇者である」ベストアルバム「勇気の歌」』もアニメやゲームなどに展開する人気コンテンツのキャラクターソングをあつめたベストアルバムだ。


(関連:THE BOYZ「TATTOO」(Performance ver.)MV視聴はこちら


 ほか、トップ10に初登場したのは2位にTHE BOYZ『TATTOO』(推定16,773枚)、5位にKEYTALK『DON’T STOP THE MUSIC』(同10,220枚)、9位に浜崎あゆみ『LOVEppears/appears -20th Anniversary Edition-』(同5,535枚)。リリース自体は10月だが、11月5日に日本で輸入盤の流通が始まったSuperMのセルフタイトルのミニアルバムも7位にランクイン(同8,814枚)した。


 ここでピックアップしたいのは、THE BOYZだ。彼らは2017年に活動開始した若手ボーイズグループ。総勢12人のメンバーの多くはグループ結成前から韓国の芸能界で話題となっていた面々で、そんな高い期待に応える活動を展開。いまもっとも注目を集めるルーキーと言っていいだろう。


 本国ではすでに4枚のミニアルバムをリリースしているが、日本でのリリースは『TATTOO』が初めてだ。収録されている6曲は完全オリジナル。にも関わらず、収録曲のほとんどが韓国語で歌われている。日本語が登場するのはM4「Stupid Sorry」だけで、あとは韓国語に英語を交えたバイリンガルの詞だ。


 K-POPアイドルなんだから韓国語で歌うのが当たり前なのではないか、と思う人もいるかもしれないが、ふつうK-POPアイドルが日本で活動する場合、日本語でオリジナルの楽曲を制作したり、既存の曲に日本語詞をのせるローカライズが施される。難しいのは、必ずしもこのローカライズを歓迎する人ばかりではない、ということだ。すっかりおなじみの慣習になってはいるものの、もともとは、外国語のポップミュージックを聴くのに抵抗のある層へリーチするための施策という側面も大きかったのではないかと思う。


 日本での活動だが韓国語で歌う。というのはK-POPアイドルの日本マーケット戦略の転換を感じさせるものだし、日本語一辺倒(ほんの一部英語もある)のチャート状況に変化を及ぼす可能性のある一手だ。


 とはいえ振り返ってみれば、K-POPのローカライゼーションによって、日本語の歌詞のかたちは徐々に変化してきたのではないかとも思う。拙著(『リズムから考えるJ-POP史』)でも少しだけ言及したことだが、もともとヒップホップが盛んでラップスキルの高いアイドルもたくさんいた韓国のポップスでは、ヒップホップのフローを歌メロに躊躇なく盛り込むことが多かった。それを日本語に翻案していく作業は、「トラップ以降」の複雑なリズム変化に日本語を順応させる可能性を開いたと言えるはずだ。


 そう考えると、仮にローカライゼーションの慣習が下火になったあと、どんな変化や揺り戻しがありうるかは興味深い。たとえば、多言語的な環境を当然のように受け入れることで、また新たな日本語の歌が生まれるかもしれない。


 そんなTHE BOYZとある意味好対照なのが、SuperMの『SuperM:1st Mini Album』だろう。SMエンターテインメントが総力をあげて世界に送り出すユニットということもあってか、リード曲のM1「Jopping」は歌詞のほとんどが英語。M2「I Can’t Stand The Rain」ではオリエンタルなストリングスが楽曲を盛り上げている。といった具合に、楽曲それ自体のクオリティはもちろん高いとはいえ、「グローバルに(というかアメリカで)売る」という目論見がややわかりやすく反映されているように思える。


 SuperMはビルボード200を始めとしたビルボードの複数チャートで1位を獲得する快挙を達成している。しかし、内容面で言うと、グループ自体がポテンシャルとして持っている華々しさを開ききれていないように感じられる。アメリカのマーケットへ適応しようとするよりも、K-POPの看板を堂々背負うような「らしさ」を押し出して欲しい。というのはリスナーのわがままにすぎるかもしれない。そうした匙加減は常に難しいものだ。そのくらいはわかっているのだけれど……。


 ともあれ、評価の如何は問わず、K-POPの今後を占うには興味深い作品が並んだ週だった。(imdkm)