2014年に日本公開され、社会現象とも言える「アナ雪」ブームを巻き起こしたアニメーション映画『アナと雪の女王』。その新作となる『アナと雪の女王2』が11月22日から公開される。
第1作『アナと雪の女王』はアニメーション映画としては当時史上最高の興行収入となる12億7600万ドル超を記録した。日本でも約255億円と歴代興行収入3位、洋画のアニメーション作品としてはいまだに歴代1位の座を守っている。
11月15日には日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で放送される本作は、なぜ大人も子供も巻き込んだ一大ブームとなったのか。新作の公開を控えるいま、改めて振り返ってみたい。
■『アカデミー賞』2部門受賞。日本でも︎「ありのままで」「レリゴー」が流行語に
『アナと雪の女王』は本国アメリカで2013年11月に公開された。
翌年の『アカデミー賞』では長編アニメ映画賞、歌曲賞(“Let It Go”)を受賞。そのほか『ゴールデン・グローブ賞』『アニー賞』『英国アカデミー賞』などで多数の賞に輝いた。
記録は映画館での動員数だけにとどまらず、Amazonでは本作のDVDとBlu-rayの発売前の予約数が子供向け映画としては歴代トップになったという。またサウンドトラックは『ビルボード』のアルバムチャート1位。『グラミー賞』では2部門を受賞した。
日本でも劇中曲の日本語版“Let It Go~ありのままで~”は大きな人気を獲得し、2014年の『ユーキャン新語・流行語大賞』では「ありのままで」がトップテンに入ったほか、「レリゴー」も候補50語に選出されるなど、「ありのままで」「レリゴー」という言葉が流行語となった。エルサの声を演じたイディナ・メンゼルは、日本版でアナの声を演じた神田沙也加とともに『NHK紅白歌合戦』にも出場している。
■「真実の愛」の証明は王子のキスではなかった。「アンチ・ディズニープリンセス映画」
本作のあらすじを簡単に振り返ってみよう。
ヒロインは、王家の娘として生まれた姉妹、エルサとアナ。触れたものを凍らせる「秘密の力」を隠し続けてきた姉のエルサは、力を制御できずに真夏の王国を冬の世界に変えてしまう。妹のアナはエルサと王国を救うため、山男のクリストフと相棒のトナカイ・スヴェン、雪だるまのオラフと共に雪山へ旅に出る。
誰も傷つけないようにと、氷の城の中で一人生きるようとするエルサの説得に失敗したアナは、エルサの魔法を受けて凍りかけてしまう。アナを救う唯一の方法は「真実の愛」。一行は「真実の愛」を求めて、アナと婚約したハンス王子のもとへ急ぐーー。
王族、プリンセスといった登場人物や、真実の愛を求める物語は典型的なディズニー映画と言えよう。だが『アナと雪の女王』は「典型的なディズニー映画」の枠を超えた作品であり、その点が斬新だと受け止められた。
本作における「真実の愛」は王子とプリンセスの愛ではなく、姉妹愛によって証明される。凍りついたアナをもとに戻し、エルサの閉ざされた心をも溶かしたのは王子のキスではなく、姉のために自分を犠牲にしたアナ自身の行動だった。王子はむしろ王女たちを始末しようと企む悪役であり、反対に魔術を持ったキャラクターであるエルサは悪役ではなく、善良な心を持ったプリンセスだ。
製作総指揮のジョン・ラセターは『アナと雪の女王』のメイキング番組の中で本作を「いわばアンチ・ディズニープリンセス映画」と表現し、「基本は昔ながらのディズニー映画でありながら、今日の観客に向けて作られた」と語っている。アナの声を演じたクリスティン・ベルは同じ番組内で「王子様が現れてくれるのを待っていても、現実はそうじゃない」と作品に共感を示していたが、本作が世界中で大ヒットしたのだから、ハッピーエンドは王子と結ばれることだけではない、「真実の愛」は異性間や恋愛関係だけのものではない、といったメッセージは「今日の観客」に求められていたということなのだろう。
■共感しやすいダブルヒロイン・アナとエルサのキャラクター
またアナとエルサは、観客層を限定せず共感しやすいキャラクターだ。二人とも完璧ではなく欠点がある。アナはプリンセスでありながら気取ったところはなく、恋に浮かれたり、姉にわがままを言ったりするところもある「普通の女の子」である。
一方、製作当初はアナの姉ではなく「悪の女王」だったというエルサは、自分ではコントロールできない力を持って生まれてしまい、それゆえに力を悟られまいと自分を抑えて生きる複雑な内面が描かれる。現代において、エルサのように持って生まれたものや、自分ではどうにもできないことで苦しみ、社会や家庭からプレッシャーを感じて生きている人は多いはずだ。エルサは特に子供や女性だけでなく、多様な人々が自分を重ね合わせることができるキャラクターであり、その秘めた思いが解き放たれた瞬間だからこそ、“Let It Go”は特別な歌となった。
■恐怖をねじふせ、自分らしくあることを肯定するアンセム“Let It Go”
タイトル「レリゴー」が流行語になるほど日本でもヒットした“Let It Go”。アメリカではエルサ役のイディナ・メンゼルが歌うバージョンと、デミ・ロヴァートが歌うバージョンがある。日本では吹き替え版でエルサ役を演じた松たか子によるものと、May J.の歌唱によるバージョンがそれぞれ作られている。
クリステン・アンダーソン=ロペス、ロバート・ロペス夫妻が作詞・作曲したこの楽曲は、エルサの内面を表現する歌として作られた。過去の自分を捨て去り、たとえ周りに理解されなくとも「ありのまま」の今の自分を肯定するマニフェストのような一曲で、この楽曲が生まれたことで映画の内容そのものが変更されたというくらい象徴的な楽曲だ。
ロペス夫妻はエルサは邪悪な女王ではなく、自身に与えられた力をコントールして折り合いをつける術を知らず、恐れを抱いている少女だと捉えた。そこで「恐怖や恥ずかしさをねじふせ、自分らしくあること、力強くあることを讃えるアンセム」として“Let It Go”を作ったのだという。
■ソーシャルメディアとの相乗効果も社会現象化を後押し
物語やキャラクター、そして歌。これらは全て作品そのものが持つ魅力だが、映画のファンたちが作り出したバズも社会現象化を後押しした。
本作では“Let It Go”のカバー動画をはじめ、多くの作品に関連したバイラルビデオが生まれ、ファンアートやミームも多数作られた。SNSでは“Let It Go”の歌詞を引用した「#TheColdNeverBotheredMeAnyway」のハッシュタグが流行。これらは映画を見たことがない人にも作品を印象付ける効果があっただろう。
クリス・バックと共に本作の監督を務めたジェニファー・リーは、『テレグラフ』紙のインタビューで映画の成功の理由について音楽とソーシャルメディアの関連性について述べ、「私たちがいま生きている時代を象徴している現象だと思います」「私が子供の頃はSNSはありませんでした。『リトル・マーメイド』の歌をリビングルームで歌ってたかもしれないけど、人によってはこれが初めての大規模なミュージカル作品かもしれません。私が子供の頃に見ていたものに触れずに育った世代もいるでしょう。いまや人々は私たちに作品の感想を言ったりできるし、想像していたよりも深い関係が作品との間に生まれているような気がします」と語っている。
公開が間近に迫る『アナと雪の女王2』は再び社会現象となるだろうか? 松たか子が歌う日本版のメイン曲““イントゥ・ジ・アンノウン~心のままに”のPVは11月13日にYouTubeで公開されると5時間で117万回再生を記録し、これまで乃木坂46“Sing Out!”が持っていた日本の女性アーティストPVの公開24時間の初動再生記録を破っており、すでに多くのファンの心を掴んでいるようだ。『アナと雪の女王2』は11月22日に全米と同時公開となる。