■前回は「キャンプ」がテーマ。世界最大級のファッションの祭典『METガラ』
2020年の『METガラ(メットガラ)』のテーマが発表された。
ニューヨーク・メトロポリタン美術館、通称METを舞台に毎年行なわれている『METガラ』。メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートのファンドレイジングイベントであり、同機関が春に手掛ける展覧会がその年の『METガラ』のドレスコードのテーマとなる。俳優やミュージシャン、モデルなど世界のセレブが豪華絢爛なファッションに身を包み、レッドカーペットで思い思いのルックを披露する世界最大級のファッションの祭典だ。
2019年はスーザン・ソンタグの論文『「キャンプ」についてのノート』に依拠した『Camp: Notes on Fashion』がテーマだった。服を次々に脱ぎ捨て4変化を披露してみせたレディー・ガガや、目玉だらけのメイクを施したエズラ・ミラー、「人間シャンデリア」となったケイティ・ペリーなど、ユニークで大胆な装いが話題をさらった。
また2018年はファッションと宗教の関わりを軸にした『Heavenly Bodies: Fashion and the Catholic Imagination』、さらに2017年は「川久保玲とコム デ ギャルソン」がテーマになっていた。2018年に公開された映画『オーシャンズ8』では、サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェットらによる女性だけの犯罪集団が盗みを働く舞台として、『METガラ』がターゲットになった。
■ 2020年のテーマは「時間について」。1870年から150年間のファッション史を辿る
2020年の『METガラ』のテーマは「About Time: Fashion and Duration」、つまり「時間」について。「Duration」は持続期間、存続期間といった意味がある。
展覧会『About Time: Fashion and Duration』は2020年5月7日から9月7日までメトロポリタン美術館で開催される。2020年に創立150周年を迎える同美術館の記念企画の一環でもあり、美術館が開館した1870年から今日までの1世紀半を約160点のレディースファッションとともに辿る。
本展では、ファッション史のタイムラインを網羅的に絶え間ない連続体として示すことを意図し、主にブラックのアンサブルを軸にして、移り変わりの激しいファッションのリズムに焦点を当てながら、その歴史を提示する。さらに形やモチーフ、素材、パターン、技術、装飾などで互いに関連性のあるアイテムも展示してくという。
■仏哲学者アンリ・ベルクソンと、英作家ヴァージニア・ウルフがインスピレーション。会場デザインはビヨンセのライブも手掛けたアーティスト
「時間について」という本展のコンセプトにインスピレーションを与えているのは、20世紀前半のフランスの哲学者アンリ・ベルクソンと、20世紀モダニズム文学を代表するイギリスの作家のひとり、ヴァージニア・ウルフだ。
展覧会では、ベルクソンによる時間が分割できない、変化し続ける流れであるとする「持続」の概念を用い、衣服が過去、現在、未来を合成するその時々の繋がりをどのように生み出してきたかを追求するという。
このコンセプトはまた、ヴァージニア・ウルフの書き残したものを通じても検証される。会場では壁にウルフの文章の引用が展示され、「ゴースト・ナレーター」の役割も果たすという。さらに展覧会カタログには、ウルフの『ダロウェイ夫人』にインスピレーションを受けた小説『THE HOURS―めぐりあう時間たち 三人のダロウェイ夫人』で『ピュリツァー賞』を受賞した作家マイケル・カニンガムが、「duration」のコンセプトを反映させた短編を書き下ろす。
ニューヨーク・タイムズによれば、展覧会のデザインはロンドンを拠点に活動するアーティストでセットデザイナーのエズ・デブリンが担当する。エズ・デブリンはビヨンセの『FORMATION』ツアーをはじめ、これまでにロード、THE WEEKND、U2、アデルなど錚々たるミュージシャンのステージを手掛けているほか、ロイヤル・オペラ・ハウスでも多数の作品のセットを担当している。彼女はNetflixのドキュメンタリーシリーズ『アート・オブ・デザイン』シーズン1にフィーチャーされているので、その名を見かけたことがある人も少なくないかもしれない。
■共同ホストにはエマ・ストーンやメリル・ストリープ、リン=マニュエル・ミランダ
『METガラ』は展覧会の開幕に先駆けて、5月4日に開催される。
共同ホストを務めるのは、展覧会自体を支えるルイ・ヴィトンのアーティスティックディレクターであるニコラ・ジェスキエールをはじめ、リン=マニュエル・ミランダ、エマ・ストーン、メリル・ストリープ、そしてアナ・ウィンターだ。エマ・ストーンはルイ・ヴィトンのアンバサダーを務めており、メリル・ストリープは映画版の『めぐりあう時間たち』に出演している。
■「最もコンセプトが抽象的」なブロックバスター展?
メトロポリタン美術館館長のマックス・ホラインは本展について「ファッションの刹那的な性質を考察するこの展覧会では、フラッシュバックや早送りを用いながら、その流れが線的にも循環にもなることを示します」とコメント。
コスチューム・インスティテュートのキュレーターであるアンドリュー・ボルトンは「ファッションは永久的に時間と関係しているものです。時代の精神を反映・体現するだけでなく、時間によって変化し、発展し、とても繊細で正確な時計のような存在でもあります」と本展のコンセプトの背景を説明する。
ここ数年と比べてもややつかみどころがないように思える「時間について」というテーマだが、ニューヨーク・タイムズは「コスチューム・インスティテュートによる試みとしては、最もコンセプトが抽象的なブロックバスター展になるかもしれない」と表現している。
同誌の取材でボルトンは「キュレーターとしては、展示品を答えのあるものではなく、自由に解釈できるものとして見せたいと考えている」と述べている。世界のセレブたちは一年に一度のファッションの祭典でこの「抽象的」なコンセプトをどのように解釈し、表現するだろうか? 『METガラ』は2020年に5月4日に開催。展覧会『About Time: Fashion and Duration』は5月7日から9月7日までニューヨーク・メトロポリタン美術館で行なわれる。