2019年11月13日 10:31 弁護士ドットコム
交際相手に何百回も「死ね」などのメッセージを送り付けて自殺に追い込んだとして、起訴されるーー。そんなアメリカの大学生間でのできごとが、海外のニュースサイトで報じられた。
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CNN(10月29日)の記事によると、マサチューセッツ州ボストン大学の男子学生が、卒業式を目前に控えた2019年5月、立体駐車場から飛び降りて自殺した。
交際相手だった同じ大学の女子学生は、この男子学生と1年半にわたって交際していたが、「自殺しろ」「死ね」といったメッセージを送ったほか、暴言を繰り返し、身体的、精神的な暴行を加え、精神的・感情的に男子学生を「完全支配」していたという。
この女子学生は過失致死罪で起訴されたと報じられているが、日本で同様の事件が発生した場合、どのような罪になるのだろうか。長瀬佑志弁護士に聞いた。
ーー日本で同様の事件が発生したらどのような罪になることが考えられますか
女子学生には殺人罪(刑法199条)、自殺関与罪(刑法202条)、または過失致死罪(刑法210条)の適用が考えられます。
ーー自殺にもかかわらず、殺人罪が適用されるのはどのような場合ですか
自殺関与罪と殺人罪の区別が問題となります。
自殺関与罪と殺人罪の区別の基準として、「自殺の決意および殺人への同意は、死の意味を理解した任意のものでなければならない」とされています(西田典之著『刑法各論』)。
そして、自殺の決意が自殺者の自由意思によるときは「自殺関与罪」を構成し、自殺者の意思決定の自由を阻却する程度の威迫を加えて自殺させたときは、「殺人罪」を構成するとされています。
ーー参考となる事例はありますでしょうか
自殺関与罪(自殺教唆罪)の成立を認めた事例として、夫が妻の自殺を予見しながら執拗に肉体的・精神的圧迫を繰り返し、妻が遂に自殺を決意し自殺するに至ったときは、夫について自殺教唆罪が成立するとした事件があります(広島高裁昭和29年6月30日判決)。
一方、殺人罪の成立を認める方向の事例として、被害者を欺罔して自殺させた行為が強盗殺人罪の殺人行為に当たるとした事件があります(福岡高裁宮崎支部平成元年3月24日判決)。
ーー今回の場合はどうでしょうか
具体的な事実関係や状況などによりますが、女子学生が交際相手である男子学生に対し、身体的、精神的な暴行を加え、精神的・感情的に男子学生を「完全支配」していたことが認められるようでしたら、殺人罪が成立することはありうるでしょう。
一方、女子学生の男子学生に対する行為が男子学生を支配するほどのものとはいえず、女子学生の行為はあくまで自殺の契機にとどまり、男子学生の自由意思によって自殺したと認められるようでしたら、自殺関与罪が成立することになるでしょう。
ーー過失致死罪の適用についてはどうでしょうか
女子学生について、男子学生に対して自殺させる意図も関与(教唆・幇助)もなかったといえる場合であっても、男子学生が自殺したことに対して過失があるといえるのであれば、過失致死罪(刑法210条)を構成する場合があるでしょう。
【取材協力弁護士】
長瀬 佑志(ながせ・ゆうし)弁護士
弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。多数の企業の顧問に就任し、会社法関係、法人設立、労働問題、債権回収等、企業法務案件を担当するほか、交通事故、離婚問題等の個人法務を扱っている。著書『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践している ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)、『弁護士経営ノート 法律事務所のための報酬獲得力の強化書』(共著)ほか
事務所名:弁護士法人長瀬総合法律事務所水戸支所
事務所URL:https://nagasesogo.com