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椎名林檎、佐藤千亜妃、長谷川白紙、ハルカミライ、BBHF……独創的サウンドアプローチと“歌”の魅力を引き出した新作

2019年11月12日 14:41  リアルサウンド

リアルサウンド

椎名林檎『ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~』(初回生産限定盤)

 椎名林檎の初のオールタイムベストアルバム(初収録の新曲2曲も絶品!)、きのこ帝国のボーカリスト・佐藤千亜妃の初のフルアルバム。音楽的なコンセプト、独創的なサウンドアプローチとともに、“歌”の魅力をたっぷりと味わえる5アイテムを紹介します。


(関連:椎名林檎と宇多田ヒカル「浪漫と算盤 LDN ver.」MVはこちら


●椎名林檎『ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~』
 “椎名林檎、初のオールタイムベスト”というだけで価値は十分だが、ここでは新曲の2曲にフォーカスを当てたい。まずは本作『ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~』Disc-1の1曲目に収録された「浪漫と算盤 LDN ver.」。「二時間だけのロマンス」(2016年)以来となる宇多田ヒカルとのデュエットソングは、管楽器、弦楽器、打楽器の編曲を村田陽一が手がけ、オーケストラをロンドンフィルハーモニック・オーケストラが担当(!)した、ゴージャズで贅沢なミディアムチューン。ジャズ、クラシック、現代音楽が混ざり合うサウンドのなかで日本の音楽シーンを変革し続ける二人のボーカリストは、日本語の美しい響きを活かし切った歌声を交差させている。そしてDisc-2の冒頭を飾る「公然の秘密」(ドラマ『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)主題歌)は、スリリングなジャズサウンドと歌謡的な艶めかしい旋律が絡み合うアッパーチューン。濃密な官能性を帯びたボーカルを含め、“これぞ椎名林檎”な名曲である。


●佐藤千亜妃『PLANET』
 04 Limited Sazabysがアレンジと演奏を担当したメロコア経由のポップナンバー「STAR」、YUKI、MISIAなどの楽曲を手がける横山裕章(agehasprings)の編曲による王道のJ-POPバラード「空から落ちる星のように」、だいじろー(JYOCHO)のプロデュースによるオーガニックなナンバー「lak」。多彩なゲスト陣とのコラボレーションによって、シンガーソングライターとしての資質の高さを改めて証明した初のソロアルバム『PLANET』。きのこ帝国では表出していなかった、表情豊かなボーカルが堪能できることも本作の大きな聴きどころ。特に切なくも愛らしいラブソングには、シンガーとしての彼女の魅力が端的に示されていると思う。(個人的なベストトラックは、恋がはじまる瞬間を儚く、美しいフレーズで描き出した「PLANET」です)


●長谷川白紙『エアにに』
 昨年12月に初CD作品『草木萌動』をリリースして以来、旺盛な実験精神ときらびやかなポップネスを共存させた音楽性によって、2020年代ポップミュージックの新たな旗手として急激に注目度を高めてきた長谷川白紙が待望の1stアルバム『エアにに』をリリース。ビッグバンドジャズのスタイルを用い、緻密にしてゴージャスなポップソングに導いた「あなただけ」、先鋭的エレクトロニカと叙情的なメロディがひとつになった「いつくしい日々」(姫乃たまへの提供曲。今回、姫乃たまはコーラスとして参加)など、『エアにに』と名付けられた本作には、既存のポピュラー音楽のフォーマットを一気に更新した楽曲が並んでいる。繊細に構築されたコード進行、変拍子とポリリズムを駆使したトラックのなかで、一瞬で存在感(記名性と言ってもいいだろう)を放つ歌の力にも圧倒される。


●ハルカミライ『PEAK’D YELLOW』
 今年1月に1stフルアルバム『永遠の花』をリリース。どこまでも真っ直ぐで生々しいロックサウンド、自らの思いをそのまの形で放ちまくる歌によって、ライブハウスシーンで圧倒的な支持を得ている(12月8日には幕張メッセ国際展示場1ホールでのワンマンライブも決定!)八王子出身の4ピースバンド・ハルカミライのニューシングル『PEAK’D YELLOW』の表題曲は、〈ただ僕は正体を確実を知りたいんだ〉というアカペラの合唱から始まるロックチューン。高速なビートと感情剥き出しのボーカルからは、“自分の力で真実を見つけて、ガンガン進んで行こうぜ”という真摯で率直なメッセージが強く伝わってくる。一切飾ることなく、すべての言葉をできるだけ強く、できるだけ速く伝えようとする橋本学のボーカルに心を揺さぶられる。


●BBHF『Family』
 2016年の日本武道館公演を最後に活動を終えたGalileo Galileiのメンバー、尾崎雄貴
(Vo/Gt)、尾崎和樹(Dr)、佐孝仁司(Ba)の3人にサポートギタリストを務めていたDAIKI(Gt)を正式メンバーに迎え結成された新バンド・BBHF(最初のバンド名はBird Bear Hare and Fish)の2ndEP『Family』。海外のインディーポップ、ギターロック、エレクトロなどを反映させたサウンドを日本語のポップスに結びつけたスタイルは引き継がれているが、より率直になったリリックと尾崎のボーカルによって、歌としての力が大きく向上しているのが印象的だ。メンバー全員が北海道出身で札幌を中心に活動。本作には彼らと以前からつながりがある海外のクリエイターが参加しており、まさに“ファミリー感”に溢れるプロダクションが実現している。気の置けない仲間とのリラックスした制作環境が、歌の素直さに結びついているのだろう。(森朋之)