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吉沢亮、吉岡里帆、東出昌大らが魅せる演技の妙味 “一人二役”は、役者に課された挑戦状?

2019年11月11日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『空の青さを知る人よ』(c)2019 SORAAO PROJECT

 公開中の『空の青さを知る人よ』にて、声優初挑戦でありながら、同じキャラクターの18歳と31歳の姿を“一人二役”で好演している吉沢亮。思えば彼は、実写版『キングダム』でも一人二役で健闘していたのだが、これが意味するところは何なのかーー。やはりそこには、繊細かつ高い技術力が必要不可欠であることは想像に難くない。


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 先に『キングダム』での吉沢から触れていきたい。彼が演じたのは、天下の大将軍を夢見る主人公・信(山崎賢人)の幼馴染み・漂。たくましく心優しい漂は、物語の冒頭で王の影武者として無念の死を遂げ、その後、信の前に現れた秦国王・エイ政の見た目が漂と瓜二つで、これも吉沢が演じているというわけだ。


 本作で吉沢に課せられたハードルはかなり高い。単純に原作モノの実写化だということもあるが、戦乱の世を描いた作品とあって、高い身体能力も求められる。それに加え、一人二役なのだ。一方は戦災孤児の下僕で、他方は国王。その身のこなしや声の調子、細かな表情の動き一つとっても、大きな差異を出すことが必要なのである。しかし同時に“差異を出す”というのは、これまで多種多様なジャンルの作品、キャラクターに挑んできた吉沢ならば、これといった不安もなく観ていられる。だがこれが、アニメ作品となれば話はまた変わってくるのだ。


 『空の青さを知る人よ』で吉沢が演じているのは、プロギタリストを夢見る18歳の熱い高校生と、現実を知った31歳のギタリスト。とあることが原因となって、この二人は出会うことになる。プロのギタリストになりはしたものの、それは彼がかつて夢見ていた姿とはだいぶ違う。これを吉沢は、“声だけ”で表現しなければない。実写であればその全身をもってしてキャラクターを表現することが可能であるし、その人間性というものは、細部にこそ宿るものなのだろう。18歳と31歳といえば、たかだか13歳の年齢差しかない。声だけで表現するには、非常に細やかな違いを狙っていかなければならないのである。しかし確実に吉沢が提示した、前向きな少年の陽気さと、希望を失くした未練がましい青年の倦怠とに驚かされたのは、筆者だけではないはずである。


 “一人二役”を演じるということは、いち俳優にとって、その実力が試される機会となるのではないだろうか。そこでは彼ら個人の魅力や人間力だけでは太刀打ちできず、やはり演じ手としての技術力が必要となってくることは間違いない。


 吉沢と同じく『空の青さを知る人よ』にて、18歳から31歳の女性への成長を微細な変化で表現した吉岡里帆は、今年『パラレルワールド・ラブストーリー』でも一人二役を好演。前者では吉沢と並んで、声優としての吉岡の存在を感じたし、男女の三角関係が描かれる後者では物語のキーパーソンとして、主人公と観客とを目眩のするような世界に誘う役割を担った。


 東出昌大は昨年公開の『寝ても覚めても』で、一人の女性の心を揺さぶる二人の男性を演じ分けた。性質が真逆にありながらも瓜二つの人物を、一方は地に足のついた人間味溢れる人物として、もう一方はミステリアスで浮世離れした存在感を放ち体現した。まだ演技経験が少ないながらもヒロインを演じ上げた唐田えりかのポテンシャルを引き出したのは、監督である濱口竜介の手腕もさることながら、相手役の東出の功績も大きかったはずである。


 そして、文字通り“演じる”ということを深く追求した『累 -かさね-』(2018)でダブル主演を務めた土屋太鳳と芳根京子のコンビは、変わり種の一人二役を演じた。容姿端麗な女優でありながら、その演技力に伸び悩む者に土屋が、自身の容姿に並々ならぬコンプレックスを抱えながら、天才的な演技力を持つ者に芳根が扮し、それらが“口づけによって入れ代わる”という高難度の設定をクリア。一つの作品内で二人もの俳優が一人二役を演じることとあって、非常にスリリングであった。やがて彼女たちそれぞれの尊厳をかけた熾烈な戦いが展開。土屋、芳根、この両者の力が拮抗しているからこそ実現できたものであったのだろう。


 役を演じることにおいて、その技術力の水準がどれくらいであるのかが顕著にあらわれる“一人二役”。これは個々の俳優にとって、ある種の挑戦状ともなっているのではないのだろうか。今後は、岩井俊二監督最新作『ラストレター』にて、広瀬すず、森七菜らの一人二役がお披露目となる。俳優たちそれぞれの持つ演技の妙味を、存分に堪能したい。


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記


■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。