2019年11月10日 09:11 弁護士ドットコム
「性暴力救援センター・大阪SACHICO」。全国でも数少ない性犯罪・性暴力被害者を24時間体制で支援する、病院拠点型のワンストップ支援センターだ。開設から9年目を迎え、カルテを作った数は2130人にのぼる。
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SACHICO代表で、産婦人科医師の加藤治子さんは、警察に届け出た人だけでなく全ての性暴力被害者を支援する「性暴力被害者支援法」の制定を訴えている。性暴力被害者の心とからだをサポートする支援の現場を訪ねた。(編集部・出口絢)
近鉄南大阪線の布忍駅から徒歩15分ほど、大阪府松原市の「阪南中央病院」内の一室に「性暴力救援センター・大阪SACHICO」はある。開設は2010年4月。SACHICOは、”Sexual Assault Crisis Healing Intervention center Osaka”(性暴力危機治療的介入センター大阪)の頭文字をとった略称だ。
ドアを開けると、まず来所者から話を聞く相談室がある。奥へ進むと相談員が電話を受けるデスク、その横にはトイレとシャワーが備わった診察室が設けられている。
壁際のガラス棚には、「2014年度レイプ」、「2013年度性虐待DVその他」などと面談記録をまとめた分厚いファイルがぎっしりと並ぶ。腟ぬぐい物、血液、尿など証拠物350検体がマイナス80度で保管されている冷凍庫もあり、全部で40平米ほどの空間は手狭になっている。
開設から2019年3月までに34117件の電話相談をうけ、来所件数は延べ7940件にのぼる。うち、カルテを作った初診人数は2130人だ。1カ月に寄せられる電話は200~300件、来所は100~120人ほどで、そのうち初診は約30人だ。相談者は年々増えており、うち未成年の性被害が6割を占めている。
政府は第4次男女共同参画基本計画(2015年12月閣議決定)で、2020年中に各都道府県に最低1カ所の性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを設置するという目標を設定、2018年10月に達成した。ただ、その多くは相談センターを中心とした「連携型」だ。
加藤さんは「どこの地域に住んでいても、同じレベルの医療と診療と支援ができる必要がある。病院拠点型だからこそ可能な診療と支援が多くある」と病院拠点型センターの重要性を訴える。
SACHICOでは被害者の同意を得た場合、被害の程度や状況に合わせて、尿や血液などの証拠を採取する。病院拠点型でなければ、その場ですぐに証拠を採取することはできない。また、妊娠の疑いがある場合、72時間以内に緊急避妊薬を飲む必要がある。外傷の診療もできるだけ早く行うことが重要だ。
国は、支援センターの運営費や被害者の医療費などに使われる「性犯罪・性暴力被害者支援交付金」について2019年度、3億4600万円の概算要求に対して2億1000万円を計上した。前年度より1300万円増加し、ようやく支援員の人件費の一部が補助されるようになったが、費用の問題は山積みだ。
性感染症は、被害から時間がたってから感染が判明するものが多い。例えば、梅毒やHIVは、感染から4週間ほどたたないと検査ではわからない。被害による感染かどうかを判断するため、被害直後と潜伏期間後に検査を2回行うと、2回目は保険診療として認められない場合がある。また、HIVの検査や緊急避妊薬や人工妊娠中絶術に関する費用は、そもそも保険適用ではない。
警察に相談した被害者については、犯罪被害者等基本法に基づき、公費で1回分の医療費が支払われる。しかし、警察が「被害」と認めなければ、公費は支出されない。被害を警察に届けない人も多いので、実際に警察が捜査するのは、性暴力被害のごく一部である。
公費が適用されなかった性暴力被害者に対する医療費補助は、1都道府県あたり年額90万円が上限となっている。SACHICOは寄付金などから拠出し、年間130万円ほど費用をサポートしてきているが、これまで医療費補助は出たことがない。加藤さんは「来年度からようやく限度付きで認められそうだ」と期待する。
「国は犯罪被害者のための警察公費だけではなく、必要ならば何回でも公費で検査できるよう、全ての性暴力被害者を対象に費用を出すべきだ」と指摘する。
また、拠点病院への公的な補助金はない。加藤さんは「医者の手は取られるのに、医者に対する手当はゼロのまま。診療報酬まで低いとなれば、なかなか拠点として手を上げてくれる病院は出てこない」と、病院に対する手当の拡充も訴えている。