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ジェームズ・キャメロンと衝突も!? ティム・ミラー監督が明かす、『ターミネーター』新作製作秘話

2019年11月09日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

ティム・ミラー監督

 『ターミネーター』シリーズ最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』が11月8日に公開された。1984年公開のシリーズ第1作『ターミネーター』、その7年後の1991年に公開された『ターミネーター2』(以下、『T2』)以来、シリーズ生みの親であるジェームズ・キャメロンが製作に復帰し、『T2』の正統な続編が描かれる本作。T-800役のアーノルド・シュワルツェネッガーとサラ・コナー役のリンダ・ハミルトンが『T2』以降初めて顔を揃えたことも話題となっている。


参考:『ターミネーター』シリーズ誕生の背景に名作SFの存在? ジェームズ・キャメロンが明かす


 そんな重要な作品のメガホンを託されたのは、世界中で大ヒットを記録した『デッドプール』で長編監督デビューを果たしたティム・ミラーだ。監督を務めることになった背景からキャメロンとの衝突まで、来日した本人に話を聞いた。


ーージェームズ・キャメロンが製作に復帰したことがひとつの大きなトピックとして語られる本作ですが、あなたが監督を務めることはどのように決まったのでしょう?


ティム・ミラー(以下、ミラー):僕が『デッドプール』の撮影をほぼ終えようとしている時に、キャメロンとともに今回の作品のプロデューサーを務めているデヴィッド・エリソンが、別のプロジェクトの相談で僕のところに来たんだ。そこで『デッドプール』を観てもらったりもしたんだけど、話をしていくうちに2人も『ターミネーター』の大ファンだということがわかって、意気投合した。そこで、デヴィッドから「新しい『ターミネーター』のプロジェクトを進めているんだけど手伝わないか?」という話をもらったんだ。僕としては「是非とも!」という感じだったんだけど、「やるとしたら是非ジェームズ・キャメロンに戻ってきてほしい」とも伝えた。そしたら、デヴィッドも同じことを考えていたというわけなんだ。だから、ジム(ジェームズ)が参加することが決まった時には、すでに僕が参加することはなんとなく決まっていたんだ。もちろんジムは僕を追い出すこともできたはずだけど、そうはしなかった(笑)。


ーー実際にキャメロンが戻ってくるのが決まった時はどのような気持ちでしたか?


ミラー:とにかくワクワクしたよ。なんせ彼は『ターミネーター』フランチャイズを生み出した権威だからね。だから、ジムが参加しなかった『ターミネーター3』以降の作品とは違うものができるだろうという確信があったし、あの『T2』に続く作品になるだろうとね。ファンにとっても、ジムが認めているストーリーだということで、興味を持ってくれる作品になると思った。それに、リンダ(・ハミルトン)が戻ってきてくれたことも、ジムの製作復帰が大きかったんじゃないかな。


ーー『T2』以降の続編として作られた『ターミネーター3』『ターミネーター4』、そしてリブート作となった『ターミネーター:新起動/ジェニシス』についてはどのような感想を抱いていましたか?


ミラー:興味深いなとは思ったけど、どの作品もジョン・コナーに焦点が当たっていたよね。僕としては、『ターミネーター』の醍醐味はサラ・コナーのストーリーだと思うし、たとえサラが出てきたとしても、演じるのがリンダでなければ、まったく違うキャラクターに映ってしまう。だから、本当の意味での“続編”や“リブート”という気がしなかったのが正直なところだね。


ーーキャメロンとは脚本・編集面において意見の衝突もあったようですね。


ミラー:答えは「YES」だ。僕はすごくコラボレーションが好きな人間だから、大声を出したり、怒鳴ったり、怒り狂ったりはしない。けど、こういう作品の場合は、いろんな意見があって当然だ。監督が「黒」と言ったことに対して、プロデューサーが「白」と言ったら、結局答えは平行線を辿ることになる。でも、映画は監督のものだから、最終的には監督が決めることだと思うけど、『ターミネーター』の場合は別だ。ジムがファイナルカットを持っているからね。だから、意見が分かれたら、最終的にはジムが決めるんだ。今回は、絶対に誰もわからないような細かいところまでジムと意見の衝突があったよ。わかりやすいところで言うと、T-800の家族は、彼がターミネーターであることを知っているかどうかということ。結果的に「知らない」という設定になったけど、僕としては、T-800は家族に正直に話していて、「知っている」べきだったと思ったんだ。これがジムとの戦いで僕が負けたことのひとつだね(笑)。


ーーその辺りの話をもっとたくさん聞きたいです(笑)。


ミラー:(笑)。ここでは話しきれないほどいっぱいある。あまり話せるものではないけどね(笑)。


ーー完成した作品に対して、キャメロンはどのような感想を抱いているのでしょうか?


ミラー:実はジムとはまだ直接話してはいないんだ。彼は『アバター』の続編で多忙だからね。それに、ジムは完成する前のいろんな段階で作品を観ている。他のスタッフから聞いた話だと、ジムは作品に対して満足しているようだったよ。


ーー最初の2作品をどう踏襲するか、そして新しさをどう入れ込むか、その辺りのバランスは製作面において非常に難しかったのではないかと思います。


ミラー:僕は『ターミネーター』と『T2』という最初の2作の大ファンだった。だから、新しいものも観たいけど、その2作品の流れを踏襲するのも大事だと考えていたんだ。ただ、これもジムと意見が分かれたところだけど、『T2』でサラがサイバーダイン社を壊したことで未来が変わったから、今回は『T2』の世界観をもっと変えたいと最初は思っていたんだ。だけど、ジムはそれに反対で、もっと『T2』の世界に近づけてほしいということだった。その辺のバランスはすごく難しかったよ。ジムとしては、ファンサービスとして「Hasta la vista, baby」や「I’ll be back」というセリフをもっと入れたいということだったけど、僕としては安っぽいファンサービスは避けたかった。結果的にどうなっているかは皆さんの目で確かめてほしい(笑)。


ーーそれは確かにそうですね(笑)。『ターミネーター』ファンのあなたからしたら、アーノルド・シュワルツェネッガーとリンダ・ハミルトンの共演を撮影現場で目の当たりにするのも何か特別な思いがあったのでは?


ミラー:最初にアーノルドが参加したのが、車の中からヘリに向かって銃を撃つシーンだった。それも「すごいな」と感慨深く撮っていたんだけど、そのあとで、アーノルドとリンダの会話シーンを撮影したんだ。その時は、もうすでに1年も作品に関わっている状態だったけど、改めて自分が『ターミネーター』を撮っていることを実感した瞬間だったよ。


ーーアニメーターやオンラインゲームの視覚効果アーティストとしての活躍など、あなたのキャリアは長いですが、長編監督映画としては、『デッドプール』に続き『ターミネーター』と話題作を続けて手がけることになりましたね。


ミラー:そうだね……なんで僕がこれだけ大きな作品の監督をできているのか、自分でもさっぱり分からないよ。もしも僕がプロデューサーだったら、これだけ予算の大きな作品に“ティム・ミラー”を起用しようとは思わない。長編映画は1本しか撮っていないし、こんなにタトゥーだらけな人間だからね(笑)。本当にラッキーだったとしか言いようがないよ。(取材・文・写真=宮川翔)