2019年11月09日 09:51 弁護士ドットコム
職場でヒールやパンプスを履くよう強制する風習をなくしたいーー。女優でライターの石川優実さんの呼びかけで始まった「#KuToo」運動は、「2019ユーキャン新語・流行語大賞」の候補30語にも選ばれた。
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この運動は、職場でのパンプスやハイヒールの着用義務をなくし、履く履かないを選べるようにしようというものだ。
このほど『#KuToo――靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)を出版した石川さんは、11月7日に都内で開かれたイベントで「#KuToo」運動と寄せられたバッシングを振り返った。
イベントは石川優実さんのほか、石川さんの本の表紙を撮影したインべカヲリ★さん、ライターの小川たまかさん、編集担当の山田亜紀子さんが登壇した。
「#KuToo」の始まりは、2019年1月に石川さんが呟いた「私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけない風習をなくしたいと思ってるの」というツイートがきっかけだった。葬儀場でのアルバイトで、採用時に、仕事中はストラップなしのパンプスを履くように説明を受けたという。
石川さんは「まだ1年経っていませんが、あっという間でした。最初につぶやいたのはただの愚痴ツイート。RTする人がたくさんいて、広がっていった運動です」と反響の大きさを語った。
「#KuToo」とは、「靴(くつ)」、「苦痛(くつう)」、「#MeToo」を合わせた造語。このハッシュタグも、運動に共感した人が提案してくれたものだといい、「私自身は何もしておらず、いろんな人に助けられた」と話す。
『#KuToo――靴から考える本気のフェミニズム』の表紙カバーは、スーツ姿の男女が背中合わせに立っているものだ。足元を見ると、石川さんがフラットな革靴を履き、背中を合わせた男性が黒のパンプスを履いている。
このカバーを版元である現代書館の公式ツイッターで投稿したところ、「現代書館始まって以来の通知の嵐だった」(山田さん)という。ツイッターでは「笑顔でとったらよかったのでは?」、「男に苦痛を味わわせるための性質が備わった運動に成り果ててきてるのでは」などのリプライがあった。
石川さんは「現実世界で履かせているわけではなく、フィクション。私が怒ってできた本だから、カバーの表情で怒っている感じを出したかった」と説明する。
この絵コンテを発案・撮影したインベさんは、「外回りなどする際に、どっちの靴が効率がいいか。一目見て分かるようにしてもらおうと思った」という。
「女性がパンプスを履いていたら、違和感がないから気づかない。男性が履いていることで『こんな靴で1日歩けないよ』とツッコミが入って欲しかった」
「#Kutoo」運動を知っている人は、表紙を見れば足元の違いは一目瞭然かもしれない。しかし、人は日常生活の中でそこまで人の靴に注意をはらっているだろうか。
石川さんは「表紙をパッと見るだけではなく、足元をよく見ないと違いがわからない。それもこの表紙のいいところ。それだけ、普段人は足元を見ていない。なのに、何かの理由づけをして、パンプスを履かせているおかしさも伝わるのではないかと思った」と話す。
著書では、「#KuToo」運動に関して、石川さんの元に寄せられたバッシングや誹謗中傷を紹介している。
「女性は通常大人になるとヒールを履ける(編注:足の)形になる」、「女性の代表面しているのが気にくわない」、「ご遺族の前でスニーカーかバッシューでも履くのか?」
こうしたリプライは、石川さんが、事業主がハイヒールやパンプスの着用を女性のみに命じることを禁止する法規制を求めて、1万8856人分のインターネット署名を厚生労働省に提出した6月3日から、過熱し始めたという。こうした
石川さんは「正式な場=パンプス、と思っている人が多い。女性が男性の靴を履くという発想がないからスニーカーになってしまう。葬式にスリッパに行くんですか?など言われたが、スリッパを履くとは一言も言っていない」
また、「#KuToo」運動について、「これは労働環境の問題でしょう」という反論も多くあったという。
著書では、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の副主任研究員・内藤忍さんと対談。内藤さんは、女性にだけパンプスやヒールの着用を義務付けることは、「性別に基づく差別だと思う」と指摘する。
イベントに登壇した小川さんも「女性だけヒールを履かされる。女性差別の問題であることは明確だと思う」。
石川さんは「性差別ではないという人がいるが、これは労働問題であり、健康問題であり、性差別の問題。皆なぜか一つにしたがるが、いろんな側面がある問題だと思う」と強調した。