2019年11月09日 09:51 弁護士ドットコム
「MONO」かと思ったら「ONO(小野)」ーー。兵庫県小野市観光協会がイベントでの販売用として、トンボ鉛筆に無許可で「MONO消しゴム」をもじった「ONO消しゴム」を2種類制作していたことが話題になっている。
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神戸新聞NEXT(11月4日)によると、同協会から依頼を受けた業者は「トンボ鉛筆に許可をとった」と説明し、商品を納品。ところが、神戸新聞社がトンボ鉛筆に確認したところ、許可申請をしていなかったことが判明し、販売が中止になったという。
「MONO」と「ONO」を見比べると、三色ストライプという基本的な部分は一緒だが、ロゴのフォントやサイズ、ストライプの配色が微妙に違うことがわかる。
パロディーなのだから似ていることは明らかだが、法的にも「ONO消しゴム」はダメなのだろうか。実は今回のデザインの1つは商標権の侵害とまでは判断されない可能性があるという。冨宅恵弁護士に聞いた。
ーー法的にはどんな問題になりますか?
「トンボ鉛筆は、上から順に、青色、白色、黒色で、それぞれ三等分された色彩のみによって構成された商標を、消しゴムについて使用する商標登録を受けています。
したがって、今回、小野市観光協会が消しゴムを製造させた行為は、トンボ鉛筆の商標権を侵害するのではないかという問題が発生します」
ーーどんな部分から判断されるのでしょうか?
「色彩のみによって構成された商標は、制度が導入されて日が浅く、裁判所での判断が蓄積されていません。
しかし、不正競争防止法では古くから、色彩が特定の業者の出所を表示する(どの会社の製品かわかる)ものとして認められており、それを前提に様々な議論が行われてきました。
裁判所では、基本的に単色のものは出所を表示するものと認めないものの、複数の色彩を組み合わせたものは出所表示として認めています。
例えば、ダイビング用のスーツに3色のストライプが施されたものが出所を表示するものと認められ、それに類似する3色のストライプを施したダイビング用スーツを販売する行為が不正競争行為であると判断されたことがあります。
不正競争防止法に違反すると言うためには、類似する出所表示を使用することで需要者が混同するおそれがあることが必要であるため、取り引きの実情等が考慮されます。
この点は出所を表示する機能を有する商標も同じで、商標が類似するか否かの判断においても取引の実情が考慮されます。
ですから、不正競争防止法での議論が色彩のみによって構成された商標においても参考になります」
ーー今回の事例に当てはめるとどうでしょうか?
「トンボ鉛筆は長年にわたり、消しゴムに上から順に『青色・白色・黒色』でそれぞれ三等分された色彩を使用しており、我々もこの色彩の消しゴムを目にすると『トンボの消しゴム』であると容易に判断することができます。
これに対し、小野市観光協会が製造させた2種類の消しゴムのうち1つは、上から順に『青色・白色・黒色』でそれぞれ三等分された色彩が使用されていますが、青色の部分がトンボ鉛筆のものと比較すると薄い色で構成されています。
しかし、商標が類似するか否かは、比較する二つのものを同時に観察するのではなく、異なる場所で時間をおいて観察することで判断します。
そうすると、需要者が混同するおそれがあるとして、小野市の消しゴムがトンボ鉛筆の商標権を侵害していると判断される可能性は高いのではないかと考えています」
ーー「ONO」の消しゴムには、配色がまったく違うパターンもあるようです
「上から順に『レモン色・白色・緑色』でそれぞれ三等分された色彩が使用されたものもありますが、色彩の大きな違いから、こちらがトンボ鉛筆の色彩のみで構成された商標権を侵害することはないと思います。
確かにトンボ鉛筆が『MONO』であるのに対し、小野市の消しゴムには『ONO』と記載されており、両者のフォントの違いは大差ないものと評価できるため、不正競争防止法の問題が発生しえます。
しかし、使用されている色彩に大きな違いあること、白色のトンボのマークに対して赤色の小野市の市章が示され、『Tombow』に対して『ono-city』と示されていることから、消費者が市場で混同することはないと考えます。
よって、不正競争行為と判断されることはないと思います」
【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
大阪工業大学知的財産研究科客員教授。多くの知的財産侵害事件に携わり、プロダクトデザインの保護に関する著書を執筆している。さらに、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
事務所名:スター綜合法律事務所
事務所URL:http://www.star-law.jp/