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『俺の話は長い』言い争いのシーンは真骨頂! 小池栄子、”内と外”を使い分ける巧みな演技術

2019年11月09日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

小池栄子『俺の話は長い』(c)日本テレビ

 現在放送中のドラマ『俺の話は長い』(日本テレビ系)。大きな事件が起こるわけでもなく、何気ない日常の一場面を描いているにも関わらず、なぜか中毒性があり、見終わったあと、すぐにリピートしたくなってしまう。そこには秋葉家を構成する人物の絶妙なバランスがあるからだろう。そのなかでも、生田斗真扮する満の姉・綾子を演じている小池栄子の感情を張り出しつつも、スッとその感情を内に向ける芝居の妙が印象に残る。


【写真】『俺の話は長い』で小池栄子の弟・生田斗真


 6年前から無職でニートの満は、自身を正当化するために、言い訳と屁理屈を繰り返す。そんな満を更生させようと、姉の綾子は“正論”を振りかざし、満に総攻撃をかける……というやり取りが、毎話繰り返される。そのなかで、綾子に頭が上がらない夫・光司(安田顕)や、ちょいちょい綾子を非難し、満とタッグを組む綾子の娘である春海(清原果耶)が絡み合う5人の会話劇は「よくもこんな題材で言い合いができるな」といい意味であきれてしまうほど秀逸だ。


 生田の、理論武装しつつも敢えて突っ込ませるような絶妙な間の取り方が、会話劇の大きな受け皿になっているのは間違いないが、そこに突進してく小池の攻撃力は、いい意味で視聴者をイラつかせる抜群の演技だ。


■デビュー当初からの存在感


 もともと小池栄子という女優はデビュー当初から存在感はあった。最初に小池を認識したのは、フジテレビが、月9で主演を務められるような本格女優育成を目指し立ち上げた連続ドラマ『美少女H』シリーズ。本作で小池は『美少女H』(1998年4月~9月)第14話「夏の百合」でヒロインを務めると、続く『美少女H2』(1998年10月~1999年3月)最終回スペシャルでは、金山一彦演じる男性教師を好きになる女子高生として、多くのヒロインを務めた女優たちが一堂に会するなか、睨みを効かせるリーダー的な立ち位置で物語を引っ張っていた。


 『美少女H』という番組は、ドラマと並行して、CSで講師に俳優の田口浩正を迎え、ワークショップ形式の『美少女H基礎女優講座』を行っており、ほぼ演技経験のない女の子たちが集まっていたが、小池をはじめ、水川あさみ、内山理名、佐藤江梨子、片瀬那奈、黒坂真美ら現在でも女優として活躍しているメンバーが多数出演していた。そんななかでも、小池はすでに強い個性を発揮していた。


 その後、グラビア等で一気に知名度を上げていくなか、女優としても着実に作品を重ねていく。連続テレビ小説『こころ』(2003年/NHK総合)では中越典子演じるヒロインこころの親友・投網子として、父・万太郎(なぎら健壱)との軽快なやり取りで爽やかな印象を与えると、2005年放送のNHK大河ドラマ『義経』では、小澤征悦演じる木曽義仲の愛妾・巴を演じ、勇ましく敵陣に向かい悲運の運命をたどる女性を好演した。


 さらに『義経』と同じ年に放送された連続ドラマ『大奥~華の乱~』(フジテレビ系)で、小池は江戸幕府5代将軍・徳川綱吉の側室・お伝(瑞春院)という、巴と同じ“妾”という立場ながら、大奥で成り上がるためになりふり構わず相手を蹴落とす鬼気迫る芝居を見せ、女優としての幅の広さを印象づけた。


■スクリーンでも発揮される才能


 この才能はスクリーンでも発揮される。2008年公開の『接吻』では、豊川悦司扮する凶悪殺人犯に魅了され、ストーカーに近い行動をとり、最終的には獄中結婚をしてしまう女性・遠藤京子を演じている。上手く社会適応できず、怒りや不満を内に秘めた孤独な女性が、自分に似ていると思わせる殺人犯に共感を覚え、心を開放していく姿は不気味であり恐怖を覚える。これまでは自身の存在感を張り出していく役柄で視聴者を惹きつけてきた小池が、本作では内にしまい込む形で、強烈なキャラクターを形作った。


 『接吻』は映画関係者だけではなく、多くの視聴者に小池が“女優”として非常に高いポテンシャルを持っていることを世に知らしめた。本作で小池は第30回ヨコハマ映画祭主演女優賞をはじめ、第63回毎日映画コンクール主演女優賞など、数々の賞を受賞。ここから小池はさらに映画の作品数と質を上げていく。『パコと魔法の絵本』(2008年)、『パーマネント野ばら』(2010年)、『乱暴と待機』(2010年)など印象的な役柄を演じると、2011年公開の『八日目の蝉』では、男性恐怖症を抱えるルポライター・千草を多面的に演じ、井上真央、永作博美という女優と相対して一歩も引けを取らない演技を見せた。こちらも表現方法は違うが、『接吻』の京子同様、感情を内に向けながら存在を示していく小池の魅力が溢れているキャラクターだ。


 さまざまなキャラクターを演じてきた小池。前述したように『俺の話は長い』で演じる綾子は、物語を通して、満や光司に対して攻撃的に感情を張り出していくのだが、ときにその感情を自分に向ける。そのバランスが非常に心地よい。


 例えば第3話・其の六「酢豚と墓参り」のラストの中華料理店で、父親への思いを巡り満と言い争いになるシーンでは、一方的に満を攻めたてて感情を爆発させたあと、母親である房枝(原田美枝子)から、父が綾子のことを認めてくれていたと労われた瞬間、その感情が自分自身に向かう。そして満が「言っとくけど、この店で親父が好きだったのは酢豚じゃないから。酢豚のたれをかけた炒飯ですから」と発言すると、綾子の両目から涙を流し炒飯を頬張るシーンは圧倒的だった。


 現在公開中の映画『記憶にございません!』の三谷幸喜監督をはじめ、成島出監督、大根仁監督、阪本順治監督、李相日監督、三池崇史監督、吉田大八監督など、錚々たる映画人の作品に出演し、高い評価を得ている小池。2020年2月には、自身が出演した舞台『グッドバイ』を映画化した『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』で成島監督と再タッグを組むなど、今後もますます目が離せない。


(磯部正和)