2019年11月08日 19:32 弁護士ドットコム
慰安婦を象徴する少女像などの展示が物議をかもして、一部の企画展が中止に追い込まれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」をめぐり、文化庁がいったん採択した補助金の交付をとりやめた問題で、有志のアーティストのグループは11月8日、文化庁あてに、不交付撤回をもとめる署名(10万筆)と要望書を提出する予定だったが、急きょ見送った。
【関連記事:「怖くて逃げ出せず…」騙されてAV出演、プラモアイドルが封印した9年前の記憶】
一時中止に追い込まれた企画展「表現の不自由展・その後」の再開にかかわった有志のアーティストたちによるプロジェクト「ReFreedom_Aichi」のメンバーがこの日の夕方、東京・霞が関の文部科学記者会で会見を開いた。メンバーの1人で、映像作家の小泉明郎さんは、署名提出を見送った理由について「文化庁の対応が非常に不誠実だった」と語った。
小泉さんによると、10万筆の署名があつまり、その責任を感じる中で、宮田亮平長官に手渡したいと交渉してきたが、宮田長官への手渡しも叶わないどころか、昨晩になるまで会議室が用意されていないような状況だった。当初は、「文化庁の玄関前で受け取る」と伝えられていたという。
「ReFreedom_Aichi」は、文化庁が、申請の手続きに不備があったとして、補助金の交付とりやめを決定した直後から、ネット署名サイト「Change.org」で、撤回をもとめる署名キャンペーンをはじめた。10月中旬ごろまでに賛同の署名は10万筆以上あつまっていた。
この日に署名は提出しなかったが、不交付の撤回をもとめて申し入れた。今後も、アーティストたちと連携しながら、この問題について議論を深めて、宮田長官と直接会って、署名を手渡す機会をさぐっていくとしている。
この日は文化庁前で、「ReFreedom_Aichi」が呼びかけたアーティストたちのアピールもおこなわれた。このアピールに参加したヒップホップアーティストのダースレイダーさんは記者会見で、次のように述べた。
「いろいろな人のいろいろな考え方があって社会が成り立っている。ユニークな人もいれば、常識を遵守する人もいる。さまざまな人がいる中で、何かしらの決定を行政はしないといけない場面があるが、その決定に関して、自分の考えとちがう決定がされることがある。納得いかなくても、受け入れないといけないこともあるが、その条件として、その決定におけるプロセスが可視化されないといけない」
「だれがどのような手順をもって、その決定をしたのか。それが共有にされることによって、初めて、自分と意見の違う決定に正当性を与えることができる。プロセスが可視化されていない決定は正当性がない。正当性のない決定は、受け入れる必要がない。今回の文化庁の不交付は、議事録が存在しないので、正当性が与えられない。受け入れることはできない」
「(担当者の説明からも)基本的には、プロセスの可視化はされなかった。だから、文化行政の責任者である宮田長官に話をうかがって、どの時点でこの決定を知っていたのか。その時点で、文化行政にあたえるダメージを認識していたのか。認識していながらスルーしたのか、その報告を受けた時点でダメージを与えると思っていなかったのか。宮田長官自身の口から開示していただくことが、後出しながらも、せめてプロセスを可視化する唯一の方法だと思う」