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また会う日まで、荒木荘のみんな 『スカーレット』喜美子がちや子に遺した「お茶漬の味」

2019年11月07日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』写真提供=NHK

 川原家の抱える借金の総額を知り、そのあまりのツケの数、大きさに、笑うことしかできなかった喜美子(戸田恵梨香)。成長期にある妹の直子(桜庭ななみ)、百合子(住田萌乃)たちのことを思うと、とても胸が痛む。


参考:『スカーレット』笑いで不幸を吹き飛ばす! 戸田恵梨香のがむしゃらな生き様


 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第34話では、喜美子が苦渋の決断の末、大好きな荒木荘の人々に、故郷である信楽に戻ることを告げた。


 「ただいま戻りました~」と荒木荘に元気よく戻ってきた喜美子だが、やはり妹たちの泣き顔、母の弱々しい姿が浮かんでくるのだろう。どこか空元気な様子である。喜美子は信楽から大阪までの電車の中で、今後どうするか、一生懸命に考えたようだ。そこで出た答えが、荒木荘を出て、信楽に戻るということである。そんな喜美子の話に、荒木荘の主人・さだ(羽野晶紀)、雄太郎(木本武宏)、大久保さん(三林京子)の三人は、耳を傾け、寄り添ってくれる。


 楽しい日も辛い日も、たくさん過ごしてきた喜美子。厳しかった大久保さんは「お母さんに何もなくて良かった」と喜美子を温かく包み込み、雄太郎は涙ながらに自作の歌を贈る(ワケの分からぬ歌ではあるが……)。喜美子はとても恵まれた環境にいたのだと、ここで改めて気付かされた。


 ところで、ここにいない荒木荘の住人が一人。それはもちろん、喜美子ともたくさんの話をした、ちや子(水野美紀)だ。新聞社に務める彼女は、信頼していた上司であるヒラさん(辻本茂雄)がよその新聞社に移ったことに激しく胸を痛め、大いに荒れていたところなのだ。そして喜美子は、会えぬならせめて手紙だけでもと、ちや子に向けて一筆したためる。そこにはこんなことが書いてあった。


 喜美子の目の前には二つの道があること。一つは、いまの生活を続けながら、つまり荒木荘で働きながら、実家に仕送りをし、念願であった絵の学校に週に三日通うこと。これはとてもワクワクする。そしてもう一つは、信楽に戻って、家計を支えること。荒木荘でたくましく成長した喜美子のことだ。信楽でも何かしら仕事は見つかるだろうが、そこは故郷でありながらも未知の世界。非常に勇気がいる。喜美子はこの二つのうち後者を選んだのである。憧れていた絵の世界、そして、荒木荘での生活を諦めて。


 手紙にはこのことだけでなく、いつもちや子が食べていたお茶漬けのレシピも丁寧に記されていた。これまで荒れていたちや子は、涙ながらに自作のお茶漬けをすする。もう喜美子特製の「お茶漬の味」をいただくことは叶わないのだろう。それは気安く、ほっとできる味だったに違いない。喜美子には、信楽に戻れば大切な家族がいる。しかしこの荒木荘にも、血の繋がりこそないものの、強い絆で結ばれた家族があったのだ。いよいよ信楽での“新生活”がスタート。喜美子なら、きっと大丈夫。


■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。