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松本まりかはただの“怪演女優”ではない 『死役所』『奪い愛、夏』で見せる底知れぬ女優魂

2019年11月06日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)「死役所」製作委員会

 『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)の井筒里奈役で強烈な印象を残した松本まりか。甘い声と男心を弄ぶようなかわいい仕草は「あざとかわいい」と注目を浴び、幸せな夫婦を軽く崩壊させる破壊力のある演技を見せつけた。


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 『シャーロック』(フジテレビ系)の第1話では、謎の転落死を遂げた医師の赤羽栄光(中尾明慶)の妻、灯子役を演じ、凄みのある演技がSNSでも話題になった。『ホリデイラブ』では主人公の高森杏寿(仲里依紗)を、『シャーロック』では仲里依紗の夫、中尾明慶演じる赤羽の人生を狂わせる役柄を好演。悲劇のヒロインから豹変する、その瞬間の狂気をはらむ表情が魅力的な不思議な女優だ。


 現在放送中の『死役所』(テレビ東京系)では、松本まりかはクールな自殺課のニシ川を演じている。原作の同名漫画『死役所』(あずみきし著/新潮社パンチコミックス刊)は累計300万部超え(電子書籍含む)のベストセラー。実写化ということで、そのキャラクターの再現度も重視されるが、黒髪ショートボブの髪型はもちろん、口元のほくろやミステリアスな雰囲気までも原作漫画のキャラクターの魅力そのままだ。


 最近では、感情を爆発させたり、鬼気迫る演技で物語をかき回すことから「怪演女優」と呼ばれたりもするが、ニシ川役を演じる松本を見ると、その都度その作品に身を委ねることができる柔軟さが演技の凄みにつながるように感じられた。


 女優に限らず、作品を作る人間には二通りあって、「まず自分はこうだ」「自分はこういうものが作りたい」と強く主張するタイプと、周囲の声を聞いたり、素材を集めていく(メイクや衣装などで役柄に入っていくことで)本質を見極めていくタイプがある。彼女の場合は後者で、役と真摯に向き合うからこそ、柔軟に新しい役柄に飛び込んでいけるのだろう。 


 『死役所』では、あざとかわいい笑顔は見られないし、彼女本来の甘やかな声はかなり落ち着いたトーンになっている。淡々とした口調、何を考えているのか読み取ることが難しい表情がイマジネーションを刺激する。


 クレイジーな狂愛ドラマ『奪い愛、夏』(AbemaTV)で見せた女社長・花園桜(水野美紀)と桐山椿(小池徹平)と空野杏(松本まりか)との三角関係の激しいやりとりも面白かった。男性が放っておけないかわいい女性……という枠を飛び越えたところにある怖さがあった。松本まりかは想像の上をいくかわいさとあざとさ、怖さと面白さを表現できる稀有な女優だ。まだまだ底知れない彼女の魅力を今後も追っていきたいと思う。(池沢奈々見)