2019年11月04日 09:22 弁護士ドットコム
司法制度改革の一環で、2004年に始まった法科大学院。当初は74校が開校となり、志願者数(のべ人数)は7万2800人(2004年)と人気を博していました。しかし、2019年度に入学者選抜をおこなった学校数は36校。志願者数は9117人でした。
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「人気が低迷している」といわれることもある法科大学院。特に「未修者コース」が想定していた非法学部出身者や社会人経験者などの志願者が減っていることが指摘されています。
「未修者コース」については「『受からない』というウワサを聞いた」、「合格率が低すぎて、希望が見えない」という声も上がっています。中には「ローの未修に行ってはいけない。リスクが高い」と言われ、進学を悩んでいる学生もいるようです。
「未修者コース」に希望はあるのでしょうか。日本弁護士連合会(日弁連)の副会長・関谷文隆弁護士らに話を聞きました。
ーー政府は、法科大学院の修了生の司法試験合格率(累積合格率)の目標を「おおむね7割以上」としていました。法科大学院修了生の合格率が低いと指摘されることもありますが、どのようにお考えですか。
「かつては『法科大学院に行けば、7・8割の人は司法試験に受かる』という話が一人歩きしていたように思われます。
しかし、既修者については『3年がんばれば、7割は受かる』という目標を達成しつつあります。2018年度の司法試験では、既修者コース修了後3年目の累積合格率は67.1%となっています」
ーー未修者コースの場合は、修了後3年目の累積合格率が36.8%、修了後5年目は46.9%となっています。未修者コースの合格率が低いことに希望を見出せず、法科大学院に進むことに迷いがある人もいるようです。
「『司法試験』を固定して考えていると、どうしても合格率に目がいきがちです。
しかし、合格率のみに目を向けるのではなく、まずは『未修者コースでも、法科大学院の教育を3年間受けて修了すれば、司法試験に合格する』という設計にすることが重要です。
現状において、このような司法試験の設計になっていないことは、反省すべき点だといえます。はたして設計通りの司法試験といえるのか?という問題は常に検証を要するもので、毎年議論されています。
文部科学省も今年度の中央教育審議会・大学分科会法科大学院等特別委員会で、未修者教育の充実・改善のためのテコ入れを議論しています。
合格率が低いことについては、様々な要因が考えられます。そのため、一概にいうことはできませんが、旧司法試験時代にも『未修』に分類される受験生が少なからず存在しました。
当時の全体の合格率はわずか1~3%でしたが、彼らは既修受験生に交じって、まったく同じ条件で果敢に試験に臨み、結果を出してきました。
旧司法試験時代と比較すると、現行制度の未修者合格率はかなり高く、決して悲観することではないと思います」
ーーそれにも関わらず、未修者コースの合格率が悲観的にみられてしまうのは、なぜでしょうか。今後、合格率が伸びることは期待できるのでしょうか。
「中教審が発表した資料によれば、データ上は『非法学部出身の未修者』の方が『法学部出身の未修者(いわゆる『隠れ既修者』と呼ばれる、法学部出身であるにもかかわらず未修者コースに進学する者)よりも合格率が高い、という現象が生じているようです。
たとえば、2017年度の司法試験は『法学部出身の未修者』が11.3%、『非法学部出身の未修者』が12.3%でした(2018年度はいずれも15.5%)。
本来、『法学部で一定の法律の素養を身に付け、さらに法科大学院でも未修者コースで3年間勉強したはずの者』の方が、『大学時代に法学部で学んでいない者』よりも合格率が低いというのは、着目すべきことと考えています。
法科大学院の入試において、既修者コースの入試に不合格となった者が、法律の試験がない未修者コースを受験することもあるとの指摘もあるため、『法学部出身者が既修か未修かを選択する』という文脈で、未修者コースの問題点が強調されているようにも感じられます。
今回の法改正で、いわゆる『法曹コース』が定着し、これまで法学部から未修者コースに進学していた層が、適切に既修者コースに入学するようになり、未修者コースの合格率が相対的に伸びていくことを期待しています」
ーー既修者コースと比較すると、合格率以外に、標準修業年限(3年)での修了率が低いと指摘する声もあります。既修者コースの場合、標準修業年限(2年)での修了率は、2018年度は76%となっています。
一方、未修者コースの修了率は47%と、既修者よりも低くなっています。
未修者コースに進学するにあたり、標準修業年限で修了できないことに不安を抱えている人もいるようですが、いかがでしょうか。
「未修者コースの入学者の中には、様々な理由により、法律の勉強が合わず、入学後に伸び悩んでしまう人が一定数いることは事実だと思います。そういう人が修了までに時間がかかってしまう、ということもあるかもしれません。
ただ、法科大学院が修了認定をする際に、『既修者コースか、未修者コースか』ということを判断の基準にする、ということはありませんし、『未修者コースだから標準修業年限で修了できない』ということではないと考えます」
ーー未修者コースに必要なことは、どのようなことでしょうか。
「相対的に見て、未修者コース入学者の教育には根気が必要な面は否めません。法科大学院としても、カリキュラムの編成をどうするかという未修者教育自体の一層の充実を図るべきことは勿論のこと、学校生活やメンタル面でのフォローも必要なのだろうと思います。
前回の記事(『司法試験の受験者減少は「悪いこと」なのか? 日弁連に『法曹不人気説』をぶつけてみた』https://www.bengo4.com/c_23/n_10245/)でお話したとおり、法科大学院の修了認定や成績評価を厳格化し、司法試験合格率を高め、制度を安定化させる方向性については、日弁連としては肯定的に捉えています。
しかし、中途で法律の勉強が合わない方には、早期に別の道を探ってもらうことなども今後は考えていかなくてはならない課題といえます。
企業などの声を聞くと『司法試験の合格・不合格とは無関係に、法科大学院出身の方を採用したい』というニーズも最近は増えてきているようです。『入学者の誰もが安心して社会で役に立つ人材になる』というのが、本来の理想だろうとも思います」
ーー未修者コースの「教育」について疑問視する声もありますが、いかがでしょうか。
「日弁連法務研究財団が文部科学省から委託を受け、2018年3月に『法科大学院における法学未修者への教育手法に関する調査研究』を実施し、法科大学院(13校)に対する実地調査、学生、修了者からのヒアリングなどをおこないました。
うまくいっている法科大学院の未修者コースでは、1年生の春学期の期末試験の時期を後ろにずらして法律的な文章を書く訓練をさせたり、入学前に六法の読み方を予習させたりするなど、1年生向けにさまざまな取り組みをおこなっています。
法科大学院の未修者コースを知らない人が授業に行き、『こんなに勉強しているのか』と驚くこともあります。かつてと比べて、教育面はずいぶん改善してきていると思われますし、優れた法学未修者教育をおこなっている法科大学院もあります」
ーー未修者コースの人気が低迷していることが指摘されることもありますが…
「今は既修者コースが注目されがちですが、本来の法科大学院は未修者コースが原則です。法学部を残すことによって、例外的に生まれたのが既修者コースです。
未修者コースを設けた理由は、法曹の『多様性』を確保するためです。私たちは『社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ、また、社会人等にも広く門戸を開放する必要がある』(司法制度改革審議会意見書)という法科大学院制度の多様性・公平性・開放性という基本理念を大切にしたいと思っています。
これまでも、社会人出身の多様な法曹を紹介する『弁護士になろう!8人のチャレンジ 社会人編(https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/bengoshininarou_shakaijin.pdf)』を発行・配布するなどの活動を行ってきましたが、今後も司法制度改革の基本理念を実現するために、出来ること(たとえば、広報活動など)は積極的におこなっていきたいと考えております」
ーー未修者コースの設置により、法曹は多様化しているのでしょうか。
「数値では計測できませんが、『法曹としての働き方』や『どのような法曹を目指すか』という選択肢が増えたのは間違いないと考えています。
企業や行政、組織の中で働く人なども増え、出口の多様性が広がりました。
実際に未修者コースを出て、さまざまな分野で活躍する法曹がいます。医師と弁護士のダブルライセンスを持っていたり、教員をしながら弁護士をしている人もいます。
司法制度改革の方向性は間違っていないと考えています」