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『グランメゾン東京』木村拓哉の“らしさ”全開 同世代とともに夢を追う「キムタク」の姿

2019年11月04日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『グランメゾン東京』(c)TBS

 新店のオープンに向けてメニュー開発に心血を注ぐ尾花(木村拓哉)たち。メインディッシュを完成させるため試行錯誤を繰り返す中、フードライターの久住栞奈(中村アン)の紹介でジビエ料理のコンクールに参加することに。そこには丹後(尾上菊之助)の「gaku」もエントリーしており、ライバルとの前哨戦の様相を呈する。


参考:『グランメゾン東京』木村拓哉に「おっさん」!? 鈴木京香のギャップ溢れる奮闘の新鮮さ


 『グランメゾン東京』(TBS系)第3話は鹿肉をめぐる冒険がテーマ。だが「gaku」のオーナー・江藤(手塚とおる)が良質な鹿肉を買い占めたことで、食材を求めて尾花は倫子(鈴木京香)とともに食材ハンター・峰岸(石丸幹二)の元へ向かう。「自分の都合だけで肉を欲しがるような奴に俺のジビエは譲れない」と言う峰岸を説得するために、相沢(及川光博)も加わって最上のジビエ料理を探求する。肉の調理法からコンソメづくりまであらゆる技法、アイデアを試して最後に行き着いたのは、一見相反するかのような組み合わせだった。


 第1話から順調な滑り出しを見せた『グランメゾン東京』に対して、木村の演技と実力派をそろえたキャスティングを成功要因として指摘する声がある。ふっきれたような“らしさ”全開の木村の演技が従来のファンを喜ばせ、鈴木京香らベテランとの相乗効果でドラマのクオリティを担保しているという見解には筆者も同意だ。その上で、木村が従来のイメージに立ち返るような演技をしている理由として、他人のプロデュースに委ねた点が大きいと考えられる。


 俳優・木村拓哉の最盛期は、1996年の『ロングバケーション』(フジテレビ系)から2000年作『ビューティフルライフ』(TBS系)を経て、2001年作『HERO』(フジテレビ系)に至る期間で、その後は国民的人気キャラクター「キムタク」を変奏しながら時代の求めるヒーロー像を提示してきた。


 2010年代以降、40代に入ってからの木村は、それまでに築かれたイメージを脱却することに力点が置かれてきた。時代の閉塞感を打ち破るようなヒーロー像が次第に既視感をまとったものになり、演じるキャラクターもアンドロイド(TBS系『安堂ロイド~A.I. knows LOVE?~』)やサラリーマン(テレビ朝日系『アイムホーム』)、ボディガード(テレビ朝日系『BG~身辺警護人~』)など、憧れのヒーローから距離のあるものに変わっていく。いま見返すと試行錯誤の中に新境地が見て取れるが、それでも「何を演じても“キムタク”」と言われてしまう中で、さらにSMAP解散の余波も加わり難しい状況が続いていた。


 こうした状況で10年ぶりに「キムタク」の封印を解いたかのような今作だが、その結果は水を得た魚のような姿である。しかし、これは本人の意向というよりも客観的なプロデュースの賜物だろう。なぜなら、木村自身はここ数年、自身のイメージを覆す役柄に挑戦して成功しつつあるからだ。こうした「キムタク」のカムバックを可能にしているのは鈴木をはじめ、ギャルソン・京野を演じる沢村一樹ら共演陣であり、全体の勢いを生み出したり、一歩引いたポジションから「キムタク」の収まるスペースを作り出しているように見える。


 これには、従来のファンがそれ相応に年齢を重ねる中で共演者の年齢層をスライドするという配慮もある。ファンが望んでいるのは若い共演者に囲まれて無理をする木村ではなく、同世代とともに夢を追う「キムタク」であることがあらためて示された格好だ。


 喜びや悲しみ、孤独や絶望、達成した瞬間の感動。料理が生み出す重層的な味わいをさらに深くするのは仲間との絆だ。蛇足だが、尾花たちの作った鹿肉のロティとコンソメを口にした瞬間の平古(玉森裕太)と松井(吉谷彩子)のシーンは、それぞれ表情と声だけで美味しさを伝える最上のカットだった。美味しいものは人の心を変えるのだ。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。