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がんと仕事の両立、模索する企業「制度も大切だが、風土も」関心高まる

2019年10月31日 10:41  弁護士ドットコム

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従業員のがん治療と就労の両立に取り組む企業を表彰する「がんアライアワード」の表彰式が10月29日、東京都内で開催された。主催したのは、がんと就労にまつわるリテラシー向上を目的とした民間プロジェクト「がんアライ部」で、昨年に続いて2回目となる。


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がん患者の3人に1人は就労世代とされる中、治療と仕事の両立に注目が集まっている。放射線治療や化学療法は仕事をしながら外来で治療することも可能なこともあるが、仕事を辞めてしまう人は少なくない。がんに関する正しい知識が患者、会社双方にないことや、制度が未整備、制度があっても使える風土がないことが背景にあるとみられる。



ライフネット生命保険の森亮介社長は「自分とは異なる他者に想像力をめぐらせる文化をどう根づかせるかが、今後、企業や組織では重要になってくる」と話した。



●がんと告知されても「あわてない」「仕事をやめない」

企業は、どんな取り組みをしているのか。表彰式では、いくつかの会社の事例が紹介された。



その1つ、航空運送の「朝日航洋」(江東区)は、がんに罹患した社員が中心となって、整備を進めていった。「会社の休職制度について、私も上司も知らなかった。社内制度の明文化、上司教育、手続き方法の改善が必要だと考えた」(渡部俊さん・航空事業本部)。



社内の有志が集まってハンドブックを作成し、全国の拠点へ出向いて講習もおこなっている。ハンドブックには、がんと告知されても「あわてない」「仕事をやめない」といった心がけも掲載されている。



社員ががんに罹患したことがきっかけで、整備を進める企業は多いが、事業内容とも密接に関連していたのが「アデランス」(新宿区)だ。津村佳宏社長は、同社の取り組みは「事業と一体化したもの」と話す。



直接的なきっかけは、がんに罹患した従業員の声だった。そこで、休職規定(就業規則)の改定や「がん罹患者就労支援に関する規定」を制定。通常の休職制度に上乗せした休職制度(180日間)、就労支援プランの作成などをおこなっている。



「医療用ウィッグを通して患者さんたちを少しでも応援したいと考えてきたが、社員のがん患者への制度を整えることもその一環。社員向けの制度を整えることで、社員の仕事のやりがいにもつながり、それがお客さまの満足感を高め、結果的には企業の経営力となって、社会に還元できる」(津村社長)



がんへの理解を深める教育にも力を入れており、9割以上の従業員が社内講習を受講している。顧客には抗がん剤治療後のがん患者も多く、相乗効果があるようだ。



●両立のために「制度も大切だが、風土も大切」

昨年の「がんアライアワード」には21社からエントリーがあったが、今年は倍の40社となった。企業やメディアの関心も高まっている。



「キャンサーペアレンツ」代表理事の西口洋平さんは「新しい取り組みだけが、がんと就労の両立の方法ではない。介護や育児との両立など、企業がこれまで培ってきたことが活かせる。横のつながりができることで、そのことに気づくのではないか」と指摘する。



がんアライ部では、「がんは、死に至る病から長く付き合う病気になった。制度も大切だが、利用しやすい風土も大切」(代表発起人・「ARUN」代表の功能聡子さん)と、呼びかけている。



受賞各社の取り組み例の一部。詳細はHPにも掲載されている(https://www.gan-ally-bu.com/category/report)。



・サテライト勤務、時差/時短勤務、失効有給休暇積立制度(朝日航洋株式会社)
・社内のがん経験者が自身の経験をプログラムブックやイントラネットで公表し、その経験を社内で大切な価値として共有している(ポーラ)
・各事業所に健康管理委員、女性ウェルネスリーダーを配置。乳がん、子宮がん検診の受診促進を実行(丸井グループ)
・休職規定(就業規則)の改定、「がん罹患者就労支援に関する規定」を制定(アデランス)
・半日有給休暇、積立有給休暇、カムバックパス制度、休業期間延長(大鵬薬品工業)