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服役中の伝説的ミュージシャン死亡、妻が国賠提訴「死なずにすんだのに、許せない」

2019年10月30日 17:02  弁護士ドットコム

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伝説のロックバンド「THE FOOLS」のボーカルで、ミュージシャンの伊藤耕さん(当時62歳)が、服役中に亡くなったのは、刑務所や病院で適切な処置をしてもらえなかったからだとして、伊藤さんの妻が10月30日、国家賠償法に基づいて、国などを相手取り、約4320万円の損害賠償をもとめる訴訟を東京地裁に起こした。


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●伊藤さんは2017年10月に亡くなった

伊藤さんは2015年秋から、覚せい剤取締法違反の罪で、懲役2年6カ月の有罪判決を受けて、月形刑務所(北海道月形町)に服役していた。



訴状などによると、伊藤さんは2017年10月15日、刑務所で腹痛を訴えて、嘔吐を繰り返したため、月形町立病院に搬送された。しかし、腹部の触診と痛み止めの投与だけで、刑務所に戻された。



翌10月16日も、伊藤さんは痛みで座っていることができず、転倒を繰り返した。職員が起こしたときは目がうつろで、居合わせた医療棟の職員には、瞳孔が開きかけているようにみえたという。



また、16日午前中、刑務所内の診療所でエコー検査を受けたところ、腹水がたまっていることが認められ、血圧もかなり低下していたという。伊藤さんは16日深夜、ふたたび搬送されたが、すでに心肺停止状態で、17日未明、搬送先の病院で亡くなった。



健康状態はそれまで良好だったという。



●妻の執念で死因が明らかになった



伊藤さんの死因を突き止めたのは、妻、満寿子さん(52歳)の執念だ。



満寿子さんは当初、「(伊藤さんの)死因がわからず、司法解剖になるかもしれない」と聞かされていたのに、結局、解剖されず、死因の説明もなかったことに不信感を抱いた。



しかも、北海道大法医学教室による死体検案書には「肝硬変からくる肝細胞がん破裂(推定)、出血性ショック」と書かれていたが、月形町立病院の医師の診断書には「急性胃粘膜病変」とあり、まったく異なっていた。



満寿子さんは、北海道大死因究明センターに、伊藤さんの遺体を解剖してもらった。その結果、死因は「絞扼性イレウス(腸閉塞)による出血性ショック」だったということがわかった。つまり、死体検案書などでは、事実と反する記載がされていたのだ。



●「こういうことは、日常的におこなわれていると考えざるをえない」

満寿子さんと代理人は提訴後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。



満寿子さんは「もっと対応を早くしてくれれば、(伊藤さんは)死なずに生きて帰ってこれた。ふつうに外にいれば、病院に運ばれて、簡単な手術で終わるものなので、私としては、許せない。放置した刑務所や病院がおかしい。(裁判に)勝っても負けても、(伊藤さんが)受けたことを明らかにしたい」と、目に涙を浮かべながら話した。



原告代理人の島昭宏弁護士は「昨今、日本全体でも、刑務所や入管施設で外国人が亡くなることが続いている。今回、たまたま奥さんの思いで、内容が明らかになった。こういうことは日常的におこなわれていると考えざるをえない。しっかり責任追及と実態究明をしていきたい」と述べた。