トップへ

ウィンカー出さない「名古屋走り」、そもそも違法じゃないの?

2019年10月30日 10:41  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「名古屋走り」と呼ばれる危険な走行をご存じだろうか。車の運転中、ウィンカー(方向指示器)を出さずに進路変更するというものだ。過去には、名古屋走りが原因の交通事故も発生している。名古屋市の市政世論調査によると、市民から「名古屋走りを厳しく取り締まってほしい」という声があがっている。


【関連記事:「殺人以外なんでもされた」元AV女優・麻生希さん「自己責任論」めぐり激論】



●「名古屋走り」による事故が起きている

名古屋市で2017年11月に発生した交通事故では、50代の男性会社役員がことし10月、自動車運転処罰法違反(過失致傷)の罪で起訴された。



毎日新聞によると、この会社役員は2017年11月、名古屋市中区の道路交差点で、ウィンカーを出さずに車線変更した。その際、後方を走っていた男性のバイクに衝突して、転倒した男性を骨折させるなどした。



会社役員は2018年11月、不起訴とされたが、被害にあった男性が処分を不服として、名古屋第2検察審査会に審査を申し立てた。名古屋地検が再捜査したうえで、同審査会の議決が出る前に起訴することになったという。



●市民からも苦情があがっている

あたりまえのことかもしれないが、名古屋走りは、市民からも危険視されている。名古屋市の市政世論調査冊子(2016年度)には、次のような声が紹介されている。



「自動車の運転が荒く、もっと厳しく取り締ってほしい。特にウィンカーを出さない”名古屋走り”という不名誉をなくしてほしい」(男性・昭和区)



「道路も広く運転しやすいですが一人一人の運転マナーが悪すぎます。名古屋の方には名古屋走りはあたりまえの事なのかもしれませんが変です」(女性・北区)



●名古屋走りは法律違反

そもそも、ウィンカー出さずに進路変更することは法的に問題ないのだろうか。交通事故にくわしい岡田正樹弁護士が解説する。



「進路変更とは、車線変更のほか、同一車線内において左右に方向を変えることをいいます。また、進路変更する際は、開始する3秒前にその旨の合図をする、すなわちウィンカーを出す必要があります(道路交通法53条1項・同施行令21条)。



ウィンカーは、周りの車に、自分に車がこれからどのように行動するかを知らせる意思表示だからです。



それを怠った場合には当然に『合図不履行違反』で罰せられることになります。



しかも、周囲の車、特に先行する車・後続する車に知らせるためにタイミングが重要であり、『交差点の30メートル手前』『進路変更する3秒前』と道路交通法施行令21条に定められています。



このように、タイミングさえも問題となるにもかかわらず、ウィンカーを出さずに進路変更することは、マナー違反どころか、『合図不履行違反』による道交法違反となります。ちなみに、反則点数1点、反則金(普通車)6000円(令和元年10月現在)となります。



これだけでも、名古屋走りが法律違反となることは明らかです」



●人身事故を起こした場合は厳罰も

ウィンカーを出さずに進路変更して、人身事故を起こした場合、どのような罪に問われるのだろうか。



「自動車事故により、人を死傷させた場合には、現行法では『自動車運転処罰法』(正式:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)に規定があります。



かつて、刑法に規定されていた業務上過失致死傷罪は、自動車運転処罰法において過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪に類型化されています。



ウィンカーを出さずに進路変更をして、事故を起こした結果、被害者が負傷したり死亡した場合には、単なる過失運転致死傷罪ではなく、危険運転致死傷罪が適用される可能性があります。



つまり、『人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為』(自動車運転処罰法2条4号)となるからです。



ウィンカーを当然に出すべき場所、タイミングであるにもかかわらず、それをせずに車線変更して走行中の他車の直前に進入することで生じさせた事故は、まさしくこの条文が予定している事故といえます。



そして、危険運転致死傷罪の法定刑は『人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する』となっています。



一見、死亡させた場合が期間が短い印象を受けますが、最低1年・最長20年であるので、厳罰といえます。



それに加えて、運転免許の行政処分としては、『特定違反行為による交通事故等』の基準が適用されて、致傷では基礎点数45~55点・欠格期間5~7年(被害者の治療期間による)、致死では62点・欠格期間8年となっており、この点からも厳しいと言えます」




【取材協力弁護士】
岡田 正樹(おかだ・まさき)弁護士
交通事故被害を中心に、医療訴訟等を手がけて弁護士歴37年。条文構造、実況見分見取図の語る事実、さらに医療記録のカルテと画像分析に興味があります。事故による被害のよりよき解決を心がけています。

事務所名:むさしの森法律事務所
事務所URL:http://www.musashinomori-law.jp/index.html