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今期、もっとも観るべきドラマは? 評論家が選ぶ、2019年秋の注目作ベスト5

2019年10月30日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

2019年秋の注目作ベスト5

 11月2日よりスタートする『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)をはじめ、『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)、『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)など、続編モノが集中した2019年の秋ドラマ。各局、力の入った作品が並ぶが、本当に観るべきはどのドラマだろうか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、秋ドラマから注目すべきタイトルのベスト5を選んでもらった。(編集部)


【写真】『本気のしるし』森崎ウィンと土村芳


1.本気のしるし(メ~テレ)


 1位の『本気のしるし』は映画『淵に立つ』や『よこがお』で知られる深田晃司が監督。原作は星里もちるの同名漫画で、物語は会社の同僚に二股をかけている男・辻一路(森崎ウィン)が偶然知り合った謎の女性、葉山浮世(土村芳)に惹かれていくというラブストーリーだと思うのだが、うまく言葉にできない不穏なムードが延々と続いていく。


 ヒロインの浮世が優柔不断でだらしなく、その場限りの嘘を平気でついて男を誤解させて、どんどん状況を悪化させる。そのグズグズ加減が無自覚な色気となり「おれが守ってやる」と、その気になった男をストーカー予備軍に変えてしまう。


 辻は浮世をトラブルから助け、会う度にお金を借すため、どんどん泥沼にハマっていくのだが、辻も人としてどこかおかしい。二股をかけている余裕のあるモテ男という設定のためか、どうにも不穏なブラックホール感がある。


 登場するキャラクターが少なく、自然音が多用され、証明が暗く、わかりやすい顔のアップがないため、気持ち悪い男女の生態を延々と観察しているようなドキュメンタリー感がある。制作・著作はメ~テレ(名古屋テレビ)。自由度が高いローカル局だからこそ生まれた怪作だと言えよう。


2.仮面ライダーゼロワン(テレビ朝日系)


 今まで『仮面ライダー』シリーズはドラマとして扱っていいか悩んだ末に除外してきた。それはジャンルが持っている文脈の強いハイコンテクストな作品が多く、テレビドラマという文脈で評価するのが難しかったからだが、今回、2位に入れた『仮面ライダーゼロワン』は仮面ライダーを知らない視聴者の視点から見ても独立したSFドラマとして面白かったので、あえてランクインさせた。


 舞台はヒューマギアと呼ばれるAIを搭載した人型ロボットが社会の隅々まで普及した近未来の日本。ヒューマギアの派遣等をおこなう会社・飛電インテリジェンスの社長に任命された飛電或人(高橋文哉)は暴走したヒューマギアを止めるために仮面ライダーに変身して戦う。


 AI(人工知能)が進化すると人間の仕事を奪われるのではないか? というAIに対する不安がモチーフとなっているが、ヒューマギアの見せ方が秀逸で一筋縄ではいかない話となっている。役者の演技も興味深く、或人をサポートする社長秘書のヒューマギア・イズを演じる鶴嶋乃愛と、仮面ライダーバルキリーに変身する女性技術者の刃唯阿を演じる井桁弘恵の対比は見応えあり。


3.G線上のあなたと私(TBS系)


 3位の『G線上のあなたと私』は、いくえみ綾の同名漫画を波瑠主演でドラマ化。バイオリン教室で知り合った19歳の大学生男子と46歳のパート主婦と婚約破棄された27歳の元OL、3人の群像劇。脚本の安達奈緒子は、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、『サギデカ』(NHK総合)に続き、今年は3作目。どの作品もクオリティが高く、本作も見応えのある作品に仕上がっている。ショッピングモールを多用したロケーションがリアル。


4.同期のサクラ(日本テレビ系)


 4位の『同期のサクラ』は2009年にゼネコンに就職した北野サクラ(高畑充希)と彼女の同僚たちの10年間を描いた一話一年のドラマ。脚本は『過保護のカホコ』(日本テレビ系)に続き高畑とタッグを組む遊川和彦。思ったことをズバズバ言うロボットのような喋り方をするヒロインが、周囲をかき乱すという展開は遊川作品の必勝プロット。当初は問題作『純と愛』(NHK総合)のセルフリメイクになるかと思われたが、今のところ不穏な要素はあまりない。


5.ブラック校則(日本テレビ系)


 5位の『ブラック校則』は、深夜に放送されている異色の学園ドラマ。漫画『セトウツミ』の作者・比元和津也が脚本を手掛けている。男二人がボソボソとした口調で喋って話を進めるスタイルが強烈すぎて、物語がわかりにくいのが難点だが、権力に対する異議申し立ての物語を、校則という学生にとって身近な題材で見せようとする志の高さは評価したいので、今後の期待を込めて5位とした。11月に映画版も公開されるので、ドラマとどう連動していくのか楽しみ。キャスティングは全員ハマっているが中でもモトーラ世理奈がすばらしい。


 今期は人気作の続編やベテラン脚本家のオリジナル作品が多く、どれもクオリティは高いのだが、新味がなく決定的な一手には欠けるというのが現時点の感想だ。


 そんな中、突出して新しいと思ったのがメ~テレ制作の『本気のしるし』。


 本広克行が総監督を務めたHTBの『チャンネルはそのまま!』など、近年はローカル局が映画監督にドラマ制作を依頼するという流れが生まれつつあり、魅力的な作品が次々と生まれているのだが、こういったローカル局の作品が見られること自体、ネット配信があるからだろう。筆者はTVerとGYAO!で『本気のしるし』を楽しんでいる。


 作品単体としてはもちろんのこと、ローカル局制作ドラマの今後を占う意味でも注目したい作品である。


(成馬零一)