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『シャーロック』主題歌「Shelly」から読み取る、DEAN FUJIOKAとR&Bの可能性

2019年10月28日 12:32  リアルサウンド

リアルサウンド

DEAN FUJIOKA「Shelly」

 フジテレビ系で放送中の月9ドラマ『シャーロック』が好評だ。世界一名の知れたミステリー小説『シャーロック・ホームズ』を題材に、自由気ままな犯罪コンサルタントのシャーロックこと誉獅子雄(ディーン・フジオカ)と、精神科医の経歴を持つワトソンこと若宮潤一(岩田剛典)が、対立しながらも絶妙なコンビネーションで事件を解決していく。幅広い層を惹きつけるスリリングな脚本もさることながら、ディーン・フジオカがDEAN FUJIOKA名義で歌う主題歌も今、SNSを中心にジワジワと人気を上げている。


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 「Shelly」と名付けられたその楽曲は、半ば殺伐とするドラマのトーンをたちまち浄化していくようなスウィートこの上ないバラード。曲中にも幾度となく登場する「Shelly」とは、シャーロック=誉獅子雄が運命の女神として特別視する女性を指しているらしい。”らしい”というのは、それがDEAN独自の工夫だから。事件解決のプロにして、罪への衝動も抱える獅子雄の人物像に、あえてロマンティックな性格を肉付けする。そうやって知られざるストーリーを膨らませることで、ドラマをより立体的に盛り立てたいという彼の意図があったのだ。結果、美麗なテーマソングと化したそれは、「掴みどころのない獅子雄にも実は純朴な一面が隠されているのでは」と視聴者に期待させる”含み”の役割を全うすることとなった。


 そして、メロウな調べが好物である身としては、その音楽性にも注目せざるを得ない。ウィスパーを重んじる柔和な歌い回し。プリミティブながら上品なグルーヴをもたらすトラック構造。かと思えば、フェイクと重厚なシンセ音によってドラマティックな転換を迎える終盤……まさしくこの楽曲は、現行R&Bのメソッドを随所で鮮やかに活かしたキラーチューンでもある。昨年大ブレイクを果たしたElla Maiをはじめ、Summer Walker、Joji、H.E.R.、ここ日本でもSIRUPや向井太一、TENDREなど、チルの精神を胸に刻むアーティストは数多いが、この「Shelly」を聴くにつけ、DEAN FUJIOKAにもそうしたポテンシャルが備わっているのだと妙に納得させられる。過去のインタビューでは「Jhené Aikoが好き」と語ったこともあるDEANだけに、少なくともR&Bをインプットする姿勢は日常の上でごく自然と養われているのだろう。この「Shelly」のプロダクトに関して言えば、世界的ヒットも記憶に新しいKhalidの「Talk」との近似性が強く見受けられ、聴けば聴くほど音と音を繋ぐ独特な”間”が心地よく響いてくること必至だ。


 もっとも、DEAN FUJIOKAはR&Bに限らず、あらゆるダンスミュージックを意欲的に体現してきた男でもある。2016年に発売された1stアルバム『Cycle』こそ、ハードロックに振り切ったりとなかなかカオスな様相だったが、2ndアルバム『History In The Making』をリリースした2019年初頭には、オントレンドなポップミュージックを誠実に消化するアティテュードがすっかり定着。例えば、自身主演のドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)の主題歌に起用されるなどメディア露出度も高かった「Let it snow!」では、フューチャーベースの躍動感に煌びやかなメロディを掛け合わせ、同じく主演ドラマ『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)主題歌の「Hope」ではロンドンを中心に盛り上がりを見せる新興ジャンル、Waveを採用。気高き世界観を持ち前のボーカルも駆使して色香たっぷりに築き上げた。ベーシックに歌いなぞるだけの体裁ではなく、作詞作曲やトラックメイキングの技法、趣味嗜好で得たノウハウなどを用いて、自ら攻めのスタイルで音楽シーンに切り込んでいく兼業役者は、後にも先にも彼ぐらいなものだろう。


 『History In The Making』では当のR&B/ソウルミュージックにまつわるアプローチも充実しており、ロートーンの歌声で魅せるシックなオルタナティブR&B「Speechless」や、彼にしては珍しい全日本語詞によるブルース「Fukushima」、ディスコティックなノリを敷いた清涼感溢れる「Sakura」など、この一作だけでもDEAN FUJIOKAの豊かな才能を十分に窺い知ることが出来る。さらに驚くべきは、これだけワールドスタンダードな音作りに磨きをかけていながら、DEANとコライト(共同制作)をした人物の多くが日本のクリエイターであるということ。先ほど紹介した楽曲で見てみると、「Speechless」は安室奈美恵の「Hero」を今井了介と手がけたことでも名高いSunny Boyが、「Fukushima」はアーシーなアレンジに定評があるorigami PRODUCTIONSのmabanuaが、「Sakura」はBTSの楽曲などで実際に世界的な活躍を見せるUTAがそれぞれ珠玉のクオリティを提供している。ドメスティックな布陣によって、世界に通用する作品を生み出す。その自然発生的な気概こそが、先鋭的ながら馴染みやすいという絶妙な耳当たりを実現させ、DEANを今日の”無敵フェーズ”へと向かわせたのだと筆者は思う(ちなみに「Shelly」のクレジットにはUTAの名前が。彼の柔軟なスキルに、またしても一本取られる格好となった)。


 なお、『シャーロック』の劇中には「Shelly」のほか、「Searching For The Ghost」なるオープニングテーマも用意されている。ドラマの映像を見る限り、「Searching~」は芳しい癒し成分が売りの「Shelly」とは対照的に、シャーロックのダークサイドが見え隠れするエッジーなアップチューンに仕上がっている様子。本稿を執筆している時点で全容は掴めていないが、そこはDEAN FUJIOKA。きっとまた新たな領域を切り開き、我々を楽しませてくれるに違いない。(白原ケンイチ)