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『グランメゾン東京』木村拓哉の才能に惹かれる仲間たち 日曜劇場の定番“融資”を巡るエピソードも

2019年10月28日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『グランメゾン東京』(c)TBS

 三ツ星レストランを目指してスタートを切った尾花(木村拓哉)たちは、目黒にある空き倉庫を候補地として新店の計画を練る。メインキャストが勢ぞろいした『グランメゾン東京』(TBS系)第2話では、開業資金をめぐる人間模様が描かれた。


参考:木村拓哉が高倉健の仲間入り? 『グランメゾン東京』は今のキムタクでないと成立しない物語


 開業に必要な5千万円を調達するためギャルソンの京野(沢村一樹)は手を尽くすが、どうしても融資を受けることができない。理由は料理人のネームバリューがないこと。パリ時代にアレルギー食材の混入事故を起こした尾花は表に出ることができない。尾花たちは「エスコフィユ」時代の同僚・相沢(及川光博)の元に赴く。


 “レシピ動画の貴公子”として人気を博する相沢は、尾花によって人生を変えられた1人だった。エスコフィユ解散後、フランス人の妻は家を出てしまい、娘アメリー(マノン)を育てる相沢は、保育園のお迎えがあるため新店には参加できないと断る。窮余の一策として京野が考えたのは、「gaku」時代に懇意にしていた城西信用金庫の汐瀬(春風亭昇太)に相談することだった。


 原価率を下げることを条件に一度は承諾しかけた汐瀬だったが、尾花の悪評を聞いて融資話を打ち切る。「信用するのは数字だけ。味に融資はできない」と話す汐瀬の意志は固いように思われた。一方、新店のレシピづくりも難航していた。相沢の料理教室で「高級食材は時代遅れ」、「(相沢の料理のほうが)日本人の舌に合う」という参加者の評価を聞き、ゼロから試行錯誤する尾花だったが……。


 日曜劇場で定番化した融資をめぐるエピソードは、『グランメゾン東京』では、資金獲得の攻防を超えて、過去と現在が交錯する複雑なプロセスを描いている。パリ時代の同僚は尾花に対して負の感情を抱いているが、同時にその才能を無視することもできない。尾花のもとで見習いとして働き、現在はホテルの料理長を務める平古(玉森裕太)は「あの尾花さんが人の意見なんて聞くわけがない」と言い放ち、ライバル店を仕切る丹後(尾上菊之助)は融資元を紹介しつつも尾花の動向に警戒を強める。


 自由気ままに振る舞い、軋轢を生む尾花は周囲の人間にとっては迷惑な存在でしかない。過去の失敗について一切言い訳をしないことも誤解を生む要因になる。そんな尾花に倫子(鈴木京香)は文字通り献身的なサポートをする。もしグランメンゾン東京が失敗すれば、倫子は最大の犠牲者になってしまうのだが、倫子がなぜここまでして夢に賭けるのか。現段階では、それはひとえに尾花の持つ「才能」に惹かれているということが大きいのだろう。


 そして最後に明暗を分けたのは料理だった。試食会のメニューには、フランスと日本を結ぶために苦心を重ねてきた相沢のアイデアが反映され、融資が決まった陰には平古の尽力があった。もつれた糸がほどけるように、かつての仲間たちの思いが「この一皿」に凝縮される様子はとてもドラマチックだ。


 それにしても、“視覚で味わう”という表現がこれほど似つかわしいドラマはない。地上波ドラマでの料理や食材の撮られ方はここ10年で格段に進歩しているが、深夜帯の“飯テロ”に慣れた視聴者にも新しい刺激を与えてくれる。ここぞという場面で流れる山下達郎の主題歌「RECIPE(レシピ)」の使い方もとてもぜいたくで心憎い。最高級のフランス料理店を目指す歩みは、伝統枠「日曜劇場」のグレードを押し上げるチャレンジでもある。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。