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『ジェミニマン』監督が語る、最新技術への挑戦 「新しい映像を観たいという好奇心が原動力に」

2019年10月27日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ジェミニマン』(c)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 『メン・イン・ブラック』シリーズや『アラジン』のウィル・スミスが主演を務める映画『ジェミニマン』が全国公開中だ。スミス演じる、伝説的暗殺者・ヘンリーはミッションを遂行中、自分の動きを全て把握し、神出鬼没で絶対に殺せない最強のターゲットの正体が、自身の若きクローンであるという驚愕の事実を知ることになる。史上最強のスナイパーと、秘密裏に創られた23歳の若いクローンの暗殺者を、スミスが一人二役で演じる。


 監督を務めたのは、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』などで2度アカデミー賞に輝く巨匠アン・リー。『トップガン』から『パイレーツ・オブ・カリビアン』まで手がけるプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーとタッグを組み、最新技術を駆使して新たな没入感をもたらす映像体験をもたらす。リー監督に未知への挑戦、作品に込められたメッセージ、反響に対するプレッシャーまで語ってもらった。


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ーー公開を迎えた今の心境は?


アン・リー(以下、リー):まず一つ言えることは、全く新しい手法に挑戦して、自分が意図した映像に限りなく近い形を、皆さんに観ていただけるだろうということ。僕とジェリー・ブラッカイマーとウィル・スミスがコンビを組んでいることにも驚くと思うけど、いろんなジャンルや映画哲学、アプローチが織り混ざった作品になっていると思う。


ーーウィル・スミスの一人二役において、新たなメイクアップ技術を用いたり、撮影においても毎秒120フレームで撮影されるなど、最新のテクノロジーがあらゆる場面で使用されています。


リー:本作は、映画はどうあるべきか、社会がそれをどう受け止めるかを考察する一つのサンプルになるんじゃないかと思う。あらゆる点において未知の領域に突入した映画だし、もしかしたら保守的な意見もあるかもしれない。どう受け止められるか、今は少しナーバスにもなっているよ。


ーーなぜ、あなたがパイオニアになれたと思いますか?


リー:出資してくれた皆のおかげでここまで探求できた。映像作家として、僕よりテクノロジーや、ストーリーテリングに長けた監督もいると思う。運が良かったんだ(笑)。ただ、もともと『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の時にデジタル技術や3Dで何ができるか模索できたのは大きいと思う。その時に、いろんな疑問が頭をもたげたんだ。本当に、新世界に踏み込んだような気持ちだった。当時はまだ、24フレームで、3Dで作る映像のボリュームもそんなに多くなかったけれど、今回は毎秒120フレームで来たし、3D+in HFR(ハイ・フレーム・レート)を採用している。それだけの技術を投じるのが、ふさわしいストーリーなんだ。


ーー実際の作業はいかがでしたか?


リー:他の映像作家たちはなぜこの領域に挑戦しないのか、不思議なくらいだ。作ってみて、自分自身とてもインスパイアされる作業だった。今後は、次世代の若い映像作家たちがこの分野を探求できるように、どう体制を整えていくべきか考えているし、全く新しい映画の言語だから、これを使ってどういう映画を作っていけるか探索していきたい。自分自身の新しい映像を観たいという好奇心が原動力になっているよ。


ーー本作の、自分と自分の若いクローンが対峙するというストーリーには、リー監督のパーソナルな思いも込められているのでしょうか?


リー:明らかにそうだね(笑)。業界ではよく言われることだけど、主演俳優というのは監督をよりイケメンにしたものなんだ(笑)。男が過去を振り返るというドラマもあるけれど、育ちと遺伝のどちらが人間に影響を与えるのかという問いかけにもなっていると思う。


ーークローン技術を人間に応用することについても考えさせられます。


リー:その通り。クローン技術のモラルや、自分の過去の痛みを消し去ることの是非も問われている。スミス演じるヘンリーや、『ハルク』にも通じる部分があると思うけど、人とうまく関係を築くために自分の真の姿というものを封じ込めることがあるよね。奥底にある自分自身と対峙するとは、年を取っていくこととはどういうことなのか……様々なことを観客に問いかける映画になっている。デジタル技術のおかげで、それら全てを映像で表現できたんだ。観客のみんなにとっても、エンターテインメント映画としてはもちろん、哲学的な意味においても今までにない体験ができると思っているよ。 (取材・文=島田怜於)