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奈緒が語る、初舞台『終わりのない』に向けて 「初めては1回だけだから、全部吸収したい」

2019年10月26日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

奈緒(撮影:大和田茉椰)

 柔和な笑顔と、透き通るような声が印象的な存在の女優・奈緒。連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)で“ヒロインの親友役”という大役を掴み、『あなたの番です』(日本テレビ系)や『まだ結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)と話題作への出演が続く。まもなく映画初主演作『ハルカの陶』も公開される彼女だが、その前に、世田谷パブリックシアターほかで上演される『終わりのない』で初舞台を踏むこととなる。


 今回リアルサウンド映画部では、この『終わりのない』の作・演出を務める前川知大作品のファンでもあったという奈緒にインタビュー。初舞台への意気込み、前川作品の住人となること、そして出演作の絶えない彼女の現在の心境について話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】


【動画】奈緒が登場するインタビュー動画


■『あなたの番です』で、一つ特技を手に入れた


ーー朝ドラ『半分、青い。』の“菜生ちゃん”役でお茶の間を賑わせ、『あなたの番です』での“尾野ちゃん”役でまた大きな存在感を残した奈緒さんですが、周りの反応はいかがですか?


奈緒:『半分、青い。』と『あなたの番です』の反響は、また全然違いました。『半分、青い。』は「菜生ちゃん!」とたくさんの方に呼んでもらって、自分のことを知ってもらうきっかけとなった作品でした。“尾野ちゃん”も、もちろん私がやっているんですけど、自分自身と近い役ではなかったというのもあって気がついたら私の知らないところまで役が行ってしまったなという感覚があります。みなさんがダンスやウエハースを食べるのを真似してくださったり、「奈緒ちゃんへ」ではなく、「尾野ちゃんへ」という内容で手紙をいただいたりもしました(笑)。


ーーリステリン攻撃、本当に衝撃的でした。


奈緒:楽しかったです。最初は上手く吹けなくて、壁に向かって練習しました(笑)。思ったより難しかったのですが、一つ特技を手に入れました(笑)。


ーー反対に、『半分、青い。』の“菜生ちゃん”役は奈緒さん自身と近かった?


奈緒:全部じゃないですが、すごく近かったと思います。名前も一緒でしたし、長い期間かけて撮った作品でもありました。それに、ヒロイン・楡野鈴愛を演じた永野芽郁ちゃんとの関係性が、本当に菜生と鈴愛のようになっていったのも、やっていて大きかったです。


■「今までやってきた作品、いただいてきた役とはちょっと違う」


ーー今作が初舞台というのが意外でした。


奈緒:色んな方から「舞台やってると思ってた」と言われます。私自身はずっとやりたかったのですが、なかなか機会がなく、お会いする機会をいただいて脚本・演出の前川さんとたくさんお話をして、“こんな方と一番最初にやれたら、すごく幸せだろうな”と思っていました。決まった時は念願だったのですごく嬉しかったですし、稽古に入るまでもすごくドキドキしていました。今は、“とうとうやるんだな”と、楽しみな気持ちでいっぱいです。


ーー『終わりのない』は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原典にしたSF作品です。「わたしたちはなぜここにいるのだろう?」「いつの間にこんなところまで来てしまったのだろう?」という、“個人の旅”を“人類の旅”と重ね、現代の日常と遥か未来の宇宙をも繋げる旅についての壮大なお話。台本を読んでみて、どんな印象を持ちました?


奈緒:とても難しいし、紐解いていくほど面白くて、観たことのないものになると感じています。普通の感覚でたどり着く「答え」とはまた別の「答え」を導き出してくれる作品というか。稽古では、台本を読んで感じた違和感を、どう納得して紐解いていくか、共演者の方々と繰り返し突き詰めています。私は物語の中の違和感が大好きで、それが新しい出会いや、新しい考え方に繋がることが多いんです。あとは、“もし自分がこの舞台をお客さんとして観たらどう感じるだろう?”と、やっぱりまだお客さん感覚で考えることも多いです。


ーー奈緒さんが演じるのは、主人公・川端悠理の友達である、21世紀の現代を生きる能海杏という女性と、遥か未来で惑星調査班の一員をやっているアンという、言わば一人二役ですよね。


奈緒:アンは不思議なところがたくさんあるんです。アンはユーリ(悠理も時空をまたぐ存在)から見たアンなのか、一人の人間として存在しているアンなのか。自我がちゃんとあって存在しているように演じるべきなのか、そうでないのか。それはどのキャラクターも場面によって異なるのですが、アンも変わっていきます。そこを自分の中で整理して、挑戦していきたいと思っています。


ーーお客さんから観ていても、シーンごとに、“これは誰の視点なんだ?”みたいな作りになっているんですね。


奈緒:アンが出てくるところだけ読んでいても、あまり難しいなとは思わないんです。だからこそ、“ユーリから見たアン”、“ユーリが感じていたアン”を私も一緒に感じていないと、彼女は成立しない存在なのだと思っています。私が感じたアンの印象や、彼女だけの背景を考えて演じるのは、取り組み方として違うと考えていて、今までやってきた作品、いただいてきた役とはちょっと違うので、悩みながらやっています。


ーー物語の中心となるユーリを山田裕貴さんが演じますね。


奈緒:すごく熱い方で、山田さんが「自分が真ん中に立つんだ」という責任感を感じていらっしゃるのが、真剣さから伝わってきます。口数が多いとかではなく、深く考えるが故に出てくる疑問を、自身の中でちゃんと解釈しようとする姿勢が見えてくるんです。こうやって今までも一つひとつの作品や役に真摯に向き合ってきた方なんだなと。その佇まいからは、私の不安さえ背負ってくれそうな座長だなと感じています。


■前川作品の魅力


ーー稽古は話し合いから始まるそうですが、どんなことを話すんですか?


奈緒:今回の作品は“ノスタルジー”が大きなキーワードになっているので、自己紹介がてら、みんながノスタルジーを感じるものについて話し合いました。例えば匂いからノスタルジーを感じることもあって、季節の変わり目に、ノスタルジックな気分になることとか。そういう話をみんなでしながら、前川さんが物語に繋がっていきそうなところを書き留めていました。


ーー今作はSF作品ですが、前川さんの作品の魅力はどういうところにあると感じますか?


奈緒:SFは身近にない世界が描かれるものだと思うので、まったく自分が見たことのないものが突然出てきたりすると、物語に入り込む前にびっくりして、離れていってしまう人もいると思うんです。けれど、前川さんの作品では、違和感を覚える部分はありながらも、“もっと知りたい”と感じさせてくれる。今まで作品を観てきて、それはなぜなんだろう? と思っていました。自分が実際に作る側に立ってみて、色んな方から聞くのが、「前川さんの作品は、演じる側の違和感をすごく取り除いてくれる」ということでした。だからこそ話し合いがすごく重要で、観ている人たちを絶対に置いてけぼりにせずに、“みんなを連れて行こうね”という気持ちで作品づくりをしているから、私は観ていた時に、ちゃんと物語の世界に連れていってもらえていたんだと分かりました。“分からないことは分からなくてもいい”とか、“ここは全部分かってなくてもいい”という余白の部分もすごく特徴的だなと思います。


ーーその余白がまた、前川作品の魅力でもありますよね。


奈緒:観ている側にとっては答えが全部出ていなくても、ヒントを与えてもらえるから、自分なりの解釈をして楽しめる絶妙なバランスで作られているんだなと。そして、前川さん自身が一番強く、自分が今作っているものに対して、興味を持って突き詰めているんです。だから、周囲の人も前川さんの好奇心に惹かれて付いて行っちゃうんだと思います。


ーー今回の座組の半分のキャストは「イキウメ」の劇団員の方々ですね。


奈緒:劇団員の方たちは前川さんとずっと長く一緒にされていて、そこに参加させてもらうので、最初はちょっと不安もありましたし、すごく緊張もしていました。でもみなさん、びっくりするくらい優しく迎え入れてくださいました。初舞台で、前川さんがつくるお芝居に初参加の私に「この作品をやるみんなが同じスタートだから、大丈夫ですよ。今みんな一緒ですよ」と。「分からないこともみんな同じだし、自分たちも分からないことがいっぱいあるから」という風に言ってくださるんです。だからとても居心地が良くて、これから長い期間地方に行ったりもしますし、自分が初めて経験する舞台を、素敵な方々と一緒にできることにすごく安心しています。


ーー具体的にはどんなやり取りがあるんですか?


奈緒:前川さんの話を聞いていて、「それはちょっとお客さんには分からないかもしれない」とか、逆に「それ分かる。面白いよね」みたいなやり取りがあります。それはみなさんが、長く前川さんとやってきたからこそ、前川さんの作品をどうお客さんと繋げていこうか考えられるのだと思います。客観的に考えたり、はたまた主観的に考えてみたり、バランスがすごいです。


■「“初めて”は1回だけだから、全部吸収したい」


ーー初舞台に続いて、11月30日(10月25日からイオンシネマ岡山のみ先行公開)からは、初主演を務めた映画『ハルカの陶』も公開されますね。


奈緒:初主演って不思議ですね。取り組み方はあまり変わらなかったのですが、現場に行くと、監督さん、スタッフさん、共演者の方々が私のことを主役にしてくださいました。現場に行けばみんなが“座長”と言ってくれるので、なんとか主役として立っていられた部分がすごく大きかったです。“みんなで作った”という感覚はこれまでの作品以上にありましたし、だからこそ公開されるのがすごく嬉しいです。


ーー経験したことのない備前焼の世界に飛び込み、ひたむきに努力するという物語ですが、“初めて”ということに関しては、奈緒さんの舞台初挑戦の姿とも重なるように思います。


奈緒:そうですね。初めてのことに挑戦するときのドキドキと、不安ももちろんありますが、高揚感を感じます。“初めて”は1回だけだから、全部吸収したいと思います。分からないことを分からないと言えるのも、今だけですよね。


ーーこの作品では師匠といえる存在が登場しますが、お芝居の世界で奈緒さんの師匠はいますか?


奈緒:脚本家の野島伸司さんですね。このお仕事をするにあたって、厳しいこともたくさん言っていただきましたし、自分の弱さを鍛えてくださいました。その厳しい言葉があったからこそ頑張れたところもあります。


ーー最後に、『終わりのない』本番に向けて、意気込みを聞かせてください。


奈緒:初舞台なので、想いが溢れてしまっています。この『終わりのない』というお話は、「旅」もキーワードになっていますが、この舞台を色んなところでやることもまた旅ですし、その旅の一員に選んでもらえたことが本当に嬉しいです。観てくださるお客さんと何か繋がれる瞬間が生まれるように一生懸命やりますので、ぜひぜひ、劇場でしか味わえない、舞台でしか味わえない汗感や肌感も観に来て欲しいです。


(取材・文=折田侑駿)