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崎山蒼志に聞く、心に残っている3曲 「坂本さんの歌詞は“すべてが終わった後”という感じがする」

2019年10月26日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

崎山蒼志(写真=林直幸)

 アーティストの心に残っている歌詞を聞いていくインタビュー連載『あの歌詞が忘れられない』。本連載では事前に選曲してもらった楽曲の歌詞の魅力を紐解きながら、アーティストの新たな魅力を探っていく。第1回目には、シンガーソングライター・崎山蒼志が登場。崎山が選曲したのは、薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」、ゆらゆら帝国「ひとりぼっちの人工衛星」、キリンジ「エイリアンズ」の3曲だった。崎山はこの3曲のどういったところに魅了されたのか、また、彼にとっての“歌詞”とは何なのか、話を聞いた。(編集部)


(関連:【写真】崎山蒼志


●「(キリンジの歌詞は)不思議なシュールさがあって好きです」
ーー今回選んでいただいた楽曲は詞の表現方法がそれぞれ異なる印象で、非常に興味深く感じました。崎山さんにとって、この3曲のどういったところが心に響いたのでしょうか?


崎山:あまり歌詞だけを意識して曲を聴くことは少ないのですが、この3曲は言葉が響いてきました。関連性があるとしたら、“風景が浮かんでくる”という点かもしれません。それは、僕が書きたい歌詞のかたちでもあります。


ーー「Woman “Wの悲劇”より」は何をきっかけで知ったのでしょうか?


崎山:父が薬師丸ひろ子さんの音楽が好きで、車のなかでよくかかっていました。そのなかでも、この曲が自分のなかで特別ひっかかってて……幼い頃から好きな曲でした。


ーー特に好きなフレーズはありますか?


崎山:サビの部分の〈ああ時の河を渡る船に/オールはない 流されてく〉は……本当にすごいです。〈オールはない 流されてく〉って……。それまでは主人公の目線だったのに、このフレーズで急に神の視点が描かれる。めちゃくちゃ洗練されてますよね。映像が浮かんでくるというか……。大好きですね。自分もこんな曲を作ってみたいなと思います。


ーーなるほど。主観的な視点から俯瞰的な神のような視点へと移る歌詞の流れは興味深いですね。この曲は松本隆さんが作詞をしていますが、松本さんの歌詞の魅力はどんな点にありますか。


崎山:恐れ多いですが、たとえば「風をあつめて」の歌詞は主人公からみた景色が淡々と描かれているんですけど、なぜか不思議な気持ちになるんですよね。そういったところに松本さんの詩のあり方が詰まっていると思います。僕の場合、歌を作るなかで浮かんだ言葉を歌詞にすることが多いですし、松本さんのような洗練された歌詞を書きたくてもなかなか難しいな……と思いますね。


ーーでは、「ひとりぼっちの人工衛星」の歌詞についてはどう感じていますか?


崎山:この曲は万物を捉えている感じがします。いろんなことがあるなかで、静かに流れていくような……。〈静まれ 嵐/静まれ 暴力〉っていう歌詞を、あのメロディと坂本慎太郎さん(ゆらゆら帝国のVo/Gtでありメインソングライター)のあの歌い方で歌うと説得力があります。


ーー坂本さんの歌詞は、言葉数は少ないながらも聴き手を突き動かすものがありますよね。


崎山:〈さよなら 引力〉って……。僕も言ってみたいです。坂本さんの歌詞は、“すべてが終わった後”という感じがするんですよね。全部終わった後に流れているものを見ているかのような。僕は、星新一さんの小説『午後の恐竜』がすごく好きで。地球の走馬灯を見ているかのような作品なのですが、「ひとりぼっちの人工衛星」にも似たものを感じます。坂本さんはすべての物事を儚いものとして捉えているように感じます。


ーー「エイリアンズ」の歌詞にはどういったところに魅力を感じますか?


崎山:キリンジの歌詞は独特で知的です。〈仮面のようなスポーツカーが/火を吐いた〉とか、不思議なシュールさがあって好きです。あと、〈この星のこの僻地で/魔法をかけてみせるさ〉という一瞬の風景の切り取り方も素晴らしいです。いろんなことが流れていくなかで、一つの視点を見つめているような感じがして……。〈暗いニュースが日の出とともに/町にふる前に〉とか〈踊ろうよ さぁ ダーリン/ラストダンスを〉というところも儚さがあって大好きです。


ーー「いろんなことが流れていくなかでの視点」については、「ひとりぼっちの人工衛星」でも崎山さんが言及していた部分ですね。


崎山:僕自身が日常生活のなかで日々思うことでもあって。いろんな出来事があっても、時間とか空気とか物はずっとそこにあり続ける。そういうものに対して、長くから続いてきた年月を感じるんですよね。


●「普遍的な万物の流れを捉えた曲も書いていきたい」
ーー崎山さんの歌詞についても聞かせてください。曲を作っていくなかで言葉が浮かんでくるということでしたが、すべての楽曲がそういった作り方なのでしょうか?


崎山:印象的なフレーズは言葉とメロディが一緒に出てくるのですが、一部は歌詞から書いているところもあります。詩人の吉増剛造さんも大好きで。その方の詩は、今回挙げた3曲のように“洗練されている”というよりも、自分のなかのよくわからない感覚を追うような詩なんです。この3曲のような歌詞も書きたいのですが、吉増さんの詩のような気持ち良さも自分の歌詞に取り入れることが多いです。僕は、“今”感じてる感覚を詞にすることが多くて……。散文詩からの影響も強く受けています。


ーー確かに、崎山さんの歌詞からは自身の感覚を追っているような印象を受けます。


崎山:でも、これから曲を作っていくなかで、だんだんこの3曲のようなかたちに近づけていきたいなと思っています。散文詩の要素も入れながら、より言葉を紡いでいくような歌詞を書いていて、自分なりに探求しています。


ーーアルバム『並む踊り』では、君島大空さん、諭吉佳作/menさん、長谷川白紙さんとそれぞれ共作していますね。


崎山:3人からはサウンド面でも影響を受けました。みなさんめちゃくちゃすごい人たちで、今回一緒に作品を作らせていただけて恐縮です。


ーー3人と共作したことで作詞方法も変わりましたか?


崎山:皆さんそれぞれ独特で、本当に刺激的だったのですが、特に長谷川さんの曲に関しては今までにない作り方でした。長谷川さんから「崎山くんの断片をください」って言われて、イメージに合う写真を送ったり曲の一節を送ったりして。それを長谷川さんなりに受け取って曲を作ってくれました。長谷川さんから届いたデモの中にはサックスのメロディが配列されていて、そこに言葉を当てはめていくように書きました。


ーー崎山さん一人で作った楽曲と比べて内容の変化はありましたか?


崎山:長谷川さんの曲に関しては私的な歌詞になりました。言葉を当てはめるように意識しつつも、散文に近い感覚で作詞できて楽しかったです。普段は自分の詞を特別に好きだって思うことは少ないんですけど、この曲は好きです。最近一人で作った曲は、“歌詞を作る”ことに意識的になっていたからか、どちらかというと挙げた3曲に近いかもしれません。


ーー最後に崎山さんが理想とする歌詞のかたちについてお聞かせください。


崎山:感情をストレートに伝えるよりも何かを通して見えてくる歌詞が好きです。あとは、自分のわからない感覚が届くような詞や、普遍的な万物の流れを捉えた曲も書いていきたい。歌詞は、意味が繋がってなくてもいいですし、場面で切り替わってもいいと思いますし、自由な場所。それが“詞”だなって思います。
※記事初出時、一部表記に誤りがございました。訂正の上お詫びいたします。
(取材・文=北村奈都樹)