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歯の治療で味覚障害に 敏腕シェフが職を失い歯科医を訴える(シンガポール)

2019年10月24日 21:32  Techinsight Japan

Techinsight Japan

親知らずの治療を受けた男性シェフが味覚障害に(画像は『AsiaOne 2019年9月4日付「Chef’s taste buds affected by wisdom tooth extraction; gets $105,000 for job loss, pain after suing dentist」(PHOTO: The Straits Times file)』のスクリーンショット)
プロの料理人にとって研ぎ澄まされた味覚は必要不可欠なものだ。しかしシンガポールでシェフをしていたオーストラリア人男性が、歯の治療により味覚障害になったことで仕事を失ってしまった。男性は歯科医を訴えていたが、このほど決着がついたようだ。『AsiaOne』『TODAYonline』などが伝えている。

シンガポールの高級レストラン「Tippling Club(ティップリング・クラブ)」は、ミシュランガイドで紹介されたこともある名店だ。この店で働いていたオーストラリア人のパウウェル・ガイェウフスキーさん(Pawel Gajewski、32)は、同僚も認めるほどの敏腕シェフだった。

2013年4月23日のこと、パウウェルさんは親知らずを抜歯するため歯科医を訪れた。リー・トン・リン医師(Lee Tong Lynn)が治療にあたり3時間を費やしたが結局、抜歯はできなかったそうだ。

ところがこの抜歯の最中に舌の神経が損傷してしまい、舌の右側で食感、温度、味を見分けることができなくなってしまった。残念なことにパウウェルさんの右舌の味覚障害は回復する見込みは無いとのことだった。シェフとして味覚はとても重要だったこともあり、パウウェルさんはリー医師を訴えることにした。

その後もなんとか仕事を続けたパウウェルさんだが、2015年12月に「ティップリング・クラブ」を辞め、オーストラリアに帰国することになってしまった。

パウウェルさんは19歳から、コペンハーゲンの「ノーマ(noma)」やパリの「Guy Savoy(ギー サヴォワ)」などミシュランの星がついた世界中のレストランでシェフを務めてきた。しかし人生そのものと言っても過言ではないシェフの仕事を、断念しなければならなかったのだ。

リー医師への訴訟はその後も続いたが、パウウェルさんと一緒に働いていた副料理長グレン・テイさん(Glen Tay)から今年初めに新しい証言があった。それによるとパウウェルさんは腕利きのシェフだったが、親知らずの治療後の彼の料理は味付けがとても濃くなったという。グレンさんはさらに次のように語っている。

「それはあまりにも、しょっぱかったのです。私は毎回、彼の料理の味をチェックしなければなりませんでした。そのうち彼は他のシェフ達がミスをしないように、ただ見ているだけとなりました。彼はシェフとしてのキャリアを奪われてしまったのです。」

記録事務官代理のハイルル・ハッキム氏(Hairul Hakkim)は、パウウェルさんの弁護士からの訴えで、シェフとして仕事を続けていたパウウェルさんの収益力の損失について認め、これにより先月3日の判決により、リー医師はパウウェルさんに7万5千シンガポールドル(約598万円)を支払うことを命じられた。

さらに両者の弁護士が合意し、リー医師は慰謝料として3万シンガポールドル(約240万円)、特別損害賠償として2,066シンガポールドル(約16万円)を含め、計10万7千66シンガポールドル(約854万円)をパウウェルさんに支払うこととなった。

現在はオーストラリアでレストランの開業コンサルタントをしているパウウェルさんだが、月収はシェフをしていた頃よりもかなり低いという。しかしながらパウウェルさんにとって、シェフという生き甲斐を奪われたことのほうが大きな痛手だったことだろう。

画像は『AsiaOne 2019年9月4日付「Chef’s taste buds affected by wisdom tooth extraction; gets $105,000 for job loss, pain after suing dentist」(PHOTO: The Straits Times file)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)