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88risingは何を見据えている?GENERATIONS参加のコンピから考察

2019年10月24日 19:10  CINRA.NET

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88rising『Head in the Clouds II』ジャケット
■アジアのカルチャーを世界に発信するプラットフォーム・88rising

88risingが2作目となるコンピレーション『Head in the Clouds II』を10月11日にリリースした。

88risingは日系アメリカ人のショーン・ミヤシロが2015年に立ち上げたコレクティブだ。アジアのポップカルチャー、ユースカルチャーを世界にプレゼンテーションするプラットフォームとして破竹の勢いを誇る。Rich Brian、Joji、Higher Brothers、NIKIなど、アジア出身(もしくはアジア系の出自を持つ)の才能を、アメリカを中心として世界中に届けてきた。他にも、アジア系ミュージシャンのMVの制作やディストリビューションにも力を入れ、レーベルともエージェントとも制作会社ともつかない独特の活動をフットワーク軽く行なっている。ちなみに、コンピレーションのタイトルになっている「Head in the Clouds」は、88risingがロサンゼルスで昨年から開催しているフェスティバルの名前でもある。

■コンピ第2弾はJojiがエグゼクティブプロデューサー。GoldLink、Swae Lee、Major Lazerら豪華アーティストも参加

『Head in the Clouds II』は前述のJojiがエグゼクティブプロデューサーを担当して制作された一枚。Jojiは88risingの主力ミュージシャンのひとりであり、大阪出身でニューヨークを拠点に活動するアーティストだ。2018年にリリースしたデビューアルバムの『BALLADS 1』はアジア出身のミュージシャンとしてはじめてビルボードのR&B/ヒップホップアルバムチャートの首位を獲得している。

コンピレーション全体はチルな4つ打ちからトラップ、シンセウェイブまで、現在のトレンドを手堅く抑えたサウンドがひしめいている。GoldLink、Swae Lee、Major Lazerといった豪華ゲストも目を引くが、88rising勢のキャラの立ちっぷりがやはり面白い。フェスと同名ということもあって、にぎやかなお祭りのような雰囲気を感じる。

■「J-POPど真ん中」なGENERATIONSの参加という意外性。K-POPシンガーのチョンハやGOT7の香港人メンバー・ジャクソンも

日本のリスナーとしての目線で言えば、『Head in the Clouds II』で注目したいのはやはりGENERATIONS from EXILE TRIBE(以下、GENERATIONS)とJojiのコラボレーション“Need Is Your Love”や、大沢伸一の新プロジェクトRHYME SOの“Just Used Music Again”だろう。ほかにも、シンガーのチョンハやGOT7のメンバーであるジャクソン・ワンなどK-POP(ジャクソンは香港出身だが)勢の参加に反応する人もいるかもしれない。

ヒップホップやR&B、あるいはクラブカルチャーに近く、オルタナティブというか、サブカルチャー寄りの印象があった88risingがJ-POPど真ん中といってよいGENERATIONSを客演に招いていることにはSNS上で驚きの声も散見された。アンダーグラウンドな才能をフックアップするのかと思いきや、日本国内では押しも押されもせぬ人気グループの起用。「え、そっちなんだ?」と思うのが人の心というものだ。

■実は初めてではないLDH×88risingのコラボ。過去にはVerbalやPKCZら

とはいえ、これもLDH、というか同事務所の所属アーティストであるVerbalという補助線を引くと割合に納得のいく話ではある。2018年にリリースされた『Head in the Clouds』の第1弾に収録された“Japan 88”にはシカゴ出身のFamous Dex、韓国出身のKeith Apeと並んでVerbalが参加している。加えて2019年6月にはVerbalもメンバーであるPKCZが88risingからシングル“CUT IT UP feat. CL & AFROJACK”をリリースした。88risingとLDHのコラボレーションの発展として“Need Is Your Love”があると考えれば、流れとしてはとても合点がいく。

■日本のメインストリームの一端を担うLDHとコラボを重ねる88rising。その戦略的なねらいは?

ではなぜ88risingがLDHとコラボレーションを重ねるのか。個人的な見解を示しておこう。

88rising側としては、日本のマーケットに対してアピールするためのコネクションとして捉えているのかもしれない。88risingの存在にリーチしやすい層(たとえばヒップホップやダンスミュージックの愛好家)のみならず、メインストリームにリーチし、より幅広いオーディエンスを獲得するための一歩、ということだ。

かつ、そこでLDHが出てくることには相応の必然性があるはずだ。LDHのフットワークの軽さや新しい試みへの柔軟さは、SNS時代の申し子というべきバイラル戦略を得意とする88risingのスピード感と性に合っているだろう。プロデューサーやラッパーも抱え、ダンスミュージックやヒップホップと親和性が高い事務所の傾向も、「話の通じる」度合いは比較的高かったのではないだろうか。もちろん、世界展開も見据えてきたLDHとしても、88risingの勢いに共感と期待を抱いているものと思う。

一方、K-POP周辺のシンガーとのコラボレーションは、ヨーロッパ、南米、中東にまでグローバルなファンベースを築いてきたK-POPシーンとの相乗効果も考慮しているのではないか。LDHもAfrojackをCEOに据えたLDH EUROPEを抱えていることもあって、そうしたネットワークが強みとして映ったかもしれない。

いずれにせよ、88rising側(ショーン・ミヤシロや、本作のエグゼクティブプロデューサーのJojiなど)としてもフィーチャリングアーティストを選ぶにあたって個々の才能が魅力的で、コラボレーションする価値があるというジャッジがまずはあるだろう。そこは強調しておきたい。

■Joji×GENERATIONS“Need Is Your Love”に見る、「LDHらしい男性ボーカル」とは一線を画したボーカリゼーションの挑戦

業界事情を詮索するような話題が続いてしまったが、肝心なのは楽曲。というわけで、実際に“Need Is Your Love”を聴いてみよう

この曲はJojiの持ち味であるけだるくスウィートな歌声を基調とするバラードだ。ドラムマシンのビートとベースラインがじんわりと身体に訴えかける。そこに登場するGENERATIONSのボーカルには、グループの楽曲とは違う感触がある。やや息が多いウィスパー寄りのセクシーなボーカルは、ある種LDHのトレードマークと化しているクリアでまっすぐに届くキー高めの男性ボーカルとは一線を画している。

これは、起伏が少なめでシンプルなメロディの反復といった楽曲の構造、あるいは音数を絞りつつリバーブを豊かに使うサウンドから要請されたものだろう。

プロデューサーのstarRoもTwitterでこのボーカルについて言及して興味深い連投をしているが、そのなかでディレクションがかなり入ったのではないかと推測している。個人的にもそうだろうと思う。聴き込んでいるファンでない限り、GENERATIONSだとは思わない可能性だってある。歌詞は日本語と英語のバイリンガルではあるけれど、男性K-POPアイドルの日本語ローカライズが感触としては一番近い。

凝ったメロディに、綺麗に高音が出せるまっすぐな発声の男性ボーカル、というLDHのみならず日本のポップミュージックの定石に対して、「こんな歌い方もできる」とその地力を示したという意味でこのコラボは興味深い。気合いの入ったシングルではなく、むしろコンピレーションという場だからこそできるチャレンジとして歓迎したい。

(文/imdkm)