2019年10月24日 16:21 弁護士ドットコム
大型の台風19号が、全国各地に大きな爪痕を残しています。
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たとえば、東急東横線の武蔵小杉駅(神奈川県川崎市)の近くにある47階建てタワーマンションでは、台風19号による浸水の影響で、地下の電気系統の設備が壊れる被害がありました。
報道によりますと、マンションの24階まで停電して、エレベーターが使えない状況になりました。全戸で断水も発生して、トイレが使えない部屋もあったそう。10月18日夜以降は、電気の一部が普及しているということです。
武蔵小杉といえば、民間企業が発表した「住みたい街ランキング」で、トップ10入りするなど、近ごろは「セレブの街」として人気があります。しかし、「過去最大級」とまでいわれる台風19号による浸水被害を受けてしまいました。
今回のような台風による浸水被害で、タワマンを修理する必要が出てきた場合、その費用は誰が負担することになるのでしょうか。マンションに関する法律にくわしい瀬戸仲男弁護士に聞きました。
結論からいいますと、瀬戸弁護士によると、タワマンの入居者にとって、なかなか厳しいものになりそうです。
「まず、基本的な法律の考え方を押さえましょう。何らかの『損害』が発生したときに、その損害の回復・賠償の費用は誰が負担すべきなのか、つまり、誰に『責任』があるのか。
それは『損害の発生について、少なくとも過失があった人』の責任です。法律用語では、『過失責任の原則』と言います(故意があれば、もちろん責任を負います)。
それでは、台風19号のような『自然災害』の場合はどうなるのでしょうか。
100%の自然災害である場合は、『誰も過失がない』ことを意味しますので、被害者が責任追及できる相手はいません。つまり、費用は被害者の自己負担ということになりますね」
「では、次に、今回のケースのようなタワーマンションの浸水による電力トラブルの場合に、何らかの『過失』があったと考えられる人はいないのか、考えてみましょう。
考えられる対象者は、
(1)マンションを建てた建設会社ないし設計者
(2)マンションを販売した不動産会社
(3)マンションの管理会社
(4)その他(過失がある人というわけではないが保険会社も)
でしょう」
「マンションなどの建物の設計や建築は『建築基準法」などの法令に従っておこなわれます。
この建築基準法には、自然災害の対策が書かれていますが、それは地震や風害に対する災害についての対策です。今回のような洪水などによる浸水被害の対策についての規制はありません。
浸水の可能性は、地域によって異なりますので、地域の自治体が独自に『ハザードマップ』を作成したり、条例を定めるなどして対策をおこなっています。
そうは言っても、仮に、今回のタワーマンションの敷地が、ハザードマップで浸水被害の可能性が高い地域だとされていれば、設計者も建設会社もそれに応じて浸水対策をとるべきだとも考えられます。
しかし、今回の台風19号は、気象庁の予報官も繰り返し強調していましたが、過去に例のないような大型で強力な台風だったようです。
ここで、責任発生の根拠である『過失』については、結果予測可能性と結果回避可能性が重要なポイントとなります。結果(損害発生)を予測できない、または、予測できたとしても回避できない場合にまで、責任を負わせることはできません。
今回の台風19号による結果(損害発生)を予測できたかどうか、難しい判断を迫られる問題です」
販売会社について問題になるのは、浸水被害について、売買契約の前に説明したのかどうか、です。販売会社には、宅地建物取引業法により「重要事項説明義務」が課されています。
しかし、残念ながら、洪水による浸水被害について、重要事項説明義務が発生するという明確な規制はありません。そうは言っても、浸水被害の可能性について顧客(買主)に告知すべきですから、販売会社は、ハザードマップを取り寄せて、説明すべきだとも思われます。
しかし、今回の台風19号のような未曾有の災害のような場合を予測して説明すべき義務があるのか、というと簡単には認められないものと思われます」
「管理会社が管理委託契約に則って業務をおこなっていたとすれば、管理会社に対して責任追及するのは困難ということになります。
マンションでは、居室として販売するのに適していない『地下』に駐車場や各種の設備が設置されます。電気系統の設備も同様です。
建築基準法では、『50mm/1時間』程度の降雨に対する対策が義務付けられていますが、今回の台風19号はそれを超える高さ(深さ)の浸水だったようで、想定していた浸水対策装置を乗り越えて浸水し、水が地下に入って、電気系統設備を破壊したものと推察されます。
管理会社が、浸水対策装置の操作を適切におこなっていたにもかかわらず浸水したとしたら、管理会社には、結果予測可能性も結果回避可能性もありません。管理会社に対する責任追及は困難です」
「マンションの共用部分については、管理組合が損保会社と保険契約を締結していることが通常です。今回のタワーマンションでも同様でしょう。
ただし、保険契約上で、今回のような未曾有の水害が免責の対象として指定されていれば、保険で修理することは難しいでしょう。積立金を取り崩すなどの対策が必要になるかもしれません。
また、地下駐車場の自動車が水没した場合は、各自の車両保険の内容次第です。水害による場合も補償されるのか否か、保険内容を確認しましょう。
そのほか、国・自治体などに文句を言いたくなるかもしれませんが、基本的に、個別の損害に対して、国・自治体が税金を投入して救済することはありません。
激甚災害などの指定があれば別ですが、今回のタワーマンションだけ救済して、周りの一戸建住宅などを救済しないということはありえないので、難しい問題です」
【取材協力弁護士】
瀬戸 仲男(せと・なかお)弁護士
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。
事務所名:アルティ法律事務所
事務所URL:http://www.arty-law.com/