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不器用な北村一輝が切ない 『スカーレット』娘に素直になれない父親の姿

2019年10月24日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』(写真提供=NHK)

 川原喜美子(戸田恵梨香)の故郷・信楽の実家が空き巣被害に。つつましく生活をしている川原家だけに、これには胸が痛む……。


 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第22話では、そんな川原家の主・常治(北村一輝)が、喜美子の給料を前借りするために大阪へとやってきた。


 女中の先輩・大久保(三林京子)から、絨毯のシミの落とし方を教わっている喜美子。これは彼女にとっての新たな生活の知恵であり、普段であれば勇ましく挑んでいくところ、その表情はどうにも浮かない。実家に泥棒が入ったのももちろんだが、まだ半人前で、給料も満足にもらえていない喜美子のもとに父がお金を工面しにやってくるというのは、やはり気が重いのだろう。


【写真】戸田恵梨香インタビューカット


 電話越しの喜美子の声に、肩を震わせて泣いてた常治だが、とうぜんここで“感動の再会”とはいかない。大久保を前にして、気まずい空気が流れる。口にしにくいお金の話を、喜美子と常治のどちらが切り出すかだ。


 そんなあたふたする二人をよそに、今日の大久保は上機嫌。普段は厳しい彼女だが、父娘の再会を素直に喜んでくれているようである。そして大久保は、ここである事実を明かす。それはなんと、喜美子がいつもやっているストッキングの補修が、実は内職だったというものだ。


 大久保は、少ない給料で働く喜美子のことを心苦しく思っていたらしく、ストッキングの補修代で、ちょっとでも足しになればと考えていたようである。これには喜美子もびっくり。しかも一足あたり12円で、128足も直したのだ。これで川原家の当面の生活も、なんとかなりそうである。


 父の見送りにと荒木荘を二人は出ると、ぱっと顔が華やぐ。喜美子は大久保から得たお金のほとんどを父に渡し、さらには、「一人前になりたいから、盆も正月も帰らない」と言うだけでなく、「三年は帰らない」とまで宣言。だがそれは苦しい決断などではなくて、快活な宣言である。努力は報われるということを、喜美子は身をもって知ったのだ。厳しい大久保さんとも、いま少しずつ打ち解けつつある。


 そんな喜美子に対して常治は、素直になれず、「帰ってくるな」なんてことを口にする。その言葉を受けて明るく駆けていく娘の背を見送り、ただ肩落とすばかりだ。実に不器用な男である。帰りの道中、どんどんたくましくなっていく娘を想い、存分に泣けばいい。


(折田侑駿)