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『ジョン・ウィック:パラベラム』は理想的な続編! 広げすぎた風呂敷を畳み、アクションに特化

2019年10月24日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ジョン・ウィック:パラベラム』(R), TM & (c)2019 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 まさかこんな風呂敷が広がってしまうなんて……。恐らく作り手たちも内心ではビックリしたのではないか。『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年)はそんな滅茶苦茶に広がった同シリーズの風呂敷を畳むことに挑んだ1本だ。


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 地上最強の殺し屋ことジョン・ウィック。彼は裏社会を引退し、愛する妻と幸せな暮らしを送っていた。程なくして妻は病で逝ってしまうが、彼女は愛するジョン・ウィックのためにペットの犬を遺した。ところが調子に乗ったロシアン・マフィアのチャラ坊が、そんな大事な大事なジョン・ウィックの犬を殺してしまう。ブチギレたジョン・ウィックは銃を手に現役復帰。圧倒的な暴力でロシアン・マフィアを壊滅させ、見事に犬の仇をとった(1作目)。「ジョン・ウィック復活」の一報は裏社会を激震させる。そして犬復讐事件の5日後、ジョン・ウィックの自宅をイタリアン・マフィアがご訪問。マフィアは現役時代の借りを返せと迫り、基本的に引退したいジョンはこれを断る。すると今度は家を爆破されてしまった。仕方なしにジョンはマフィアの暗殺を受けるが、この件がこじれにこじれた末に、ジョンは裏社会の掟を破り、世界中の殺し屋から狙われる立場になってしまう。(2作目)かくして1400万ドルの懸賞金をかけられたジョン・ウィックは、世界中の殺し屋から命を狙われる「追放処分」の執行を1時間後に控え、NYの街を疾走する……。


 1作目の『ジョン・ウィック』(2014年)は不思議な映画だ。投げ技・関節技を主体の近接格闘技と、工夫を感じさせるガン・テクニックを組み合わせ、キレのいいアクションを作り上げた。その一方、なんか絶対的な価値のある「金貨」、謎の殺し屋サポート巨大組織「コンチネンタル」などなど、現代の世界を舞台にしているのに、完全にファンタジー領域の謎設定が多々あった。こうした独特な、そして魅力的な世界観が本作の個性となったのは間違いない。オシャレなクラブでパーティーを楽しむなど、まだ理解できる「日常」を生きる世界のロシアン・マフィアが、理解不能な「非日常」の存在であるジョン・ウィックにボコボコにされる……そこには非日常が日常を食っていく面白さがあった。もちろんこうした設定は、本作のキモである「キアヌのアクションを見せる」ため、余計な説明やエピソードを省く装置としての役割もあっただろう。つまり「ジョン・ウィックが住宅街や街中で銃を撃ちまくっても、コンチネンタルが何とかしてくれるから、細かいことは気にしないでください」という観客へのエクスキューズだ。


 しかし、こうした世界観設定が2作目の『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年)では映画の中心になった。1作目ではサポート機関として、いわば話のフレーバー的な存在だったコンチネンタルが話の主軸となり、街中で相撲アサシンが襲ってきたり、通りの人々がフラッシュモブのように一斉に殺し屋であることを明かしたりと、非日常の世界が映画の中心になったのだ。これにより1作目にあった「世間一般では知られていないけれど、実は裏の世界では……」的な、非日常感はなくなった。そしてストーリーは……恐らく作り手たちも「えっと……どうしようかな?」とテンパったのではないか。たしかに予算は増え、前作にはなかったゴージャスな画も次々と出てくる。しかし話は迷走した。陰謀や因縁が入り乱れるが、そもそも無茶苦茶さを売りにしていた設定なので、そのつじつま合わせを始めればキリがない。結果、映画は前述のような大風呂敷を放置する形で終わった。劇場で観たとき、いくつかの意味で「大丈夫なんですか?」と思ったのを覚えている。


 そして3こと『パラベラム』である。結果から言えば「大丈夫だった」。作り手たちも風呂敷を広げ過ぎたことを自覚し、話がこじれそうなことはしていない。強烈なキャラやゴージャスなビジュアルは2を受け継いでいるが、プロットは2に比べるとかなりシンプル。「キャラや世界観設定もいいけど、この映画のキモはやっぱりアクションや!」と開き直っているのが窺い知れる。シリーズ随一のアクションはその証しだろう。キアヌはオープニングから銃撃戦・格闘・ナイフの投げ合い、さらには馬まで乗り回る大判振る舞い。55歳の概念が揺れる大活躍だ。さらにはハル・ベリーも「『キャットウーマン』(2004年)は何だったんだ?」と懐かしい気持ちにならずにはいられない、アクロバットかつド迫力な肉弾戦を披露。敵役にも『ザ・レイド』(2011年)と『ザ・レイド GOKUDO』(2014年)でそれぞれラスボスを務めたヤヤン・ルヒアンとセセプ・アリフ・ラーマン、さらには根強い人気を誇るアクションスター、マーク・ダカスコスを配置するなど、アクション映画として抜かりがない。


 複雑になりがちだったプロットはシャープになり、画はよりゴージャスに、アクションは全てにおいてパワーアップ。続編としては理想的だ。個人的にはシリーズで1番好きであるし、1番バランスが良い映画だったように思う。2の広がり切った風呂敷をちゃんと使いつつ、アクション映画としてグッと完成度を上げてきた1本だ。(加藤よしき)