2019年10月22日 10:41 弁護士ドットコム
ある日、突然に離婚したいと言ってきた夫。その理由は、夫が「うつ」になり、実家に戻りたいというものでした。それから3年。妻は衝撃の事実を知ります。なんと、離婚前から関係を疑っていた女性と再婚していたのです。
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弁護士ドットコムに相談を寄せた女性によれば、夫の「うつ」を信じ、離婚に応じたといいます。その時「(不倫相手ではないかと)疑っていた女性がいたのですが、証拠がつかめず、離婚当時はあやふやになっていた」「離婚時も、その女性とだけでは絶対に(再婚は)やめてもらいたいと誓約していました」といいます。再婚したのは、まさにその女性でした。
離婚は3年前です。今回、女性は双方に慰謝料請求をすることはできるのでしょうか。もし仮に、慰謝料請求ができるとしたら、どのような事情があれば可能なのでしょうか。溝延祐樹弁護士 に聞きました。
「お話の事情からでは慰謝料の請求は難しいです。
まず、元夫と再婚相手に対する慰謝料の請求が認められるためには、元夫たちが相談者の『権利又は法律上保護される利益』を侵害したといえる必要があります(民法709条)。
ここで、元夫たちが実際に不倫に及んでいたのであれば、相談者の婚姻生活の平穏といった権利ないし利益が侵害されたとして、元夫たちに慰謝料を請求できます。しかし、不倫の証明は相談者側でしなければなりません」
ところが相談者によれば、「元夫の不倫を疑いはしたものの、証拠がつかめなかったために事実関係があやふやになった」とのことです。
「この話を前提とする限り、今回のケースでは不倫の証明はなされていないと言わざるを得ません。そのため、夫たちに対する慰謝料の請求は難しいのです。慰謝料請求をする上では、たとえば2人でホテルに滞在していたとか、ラインで親密な連絡を取り合っていたといった事情、あるいは不倫の事実を認める本人たちの自白といった証拠が必要となります」
本当の離婚理由は「うつ」ではなかったと相談者は考えています。詐病を理由に慰謝料を請求できないのでしょうか。
「たしかに、夫が実際に『うつ』を詐称して離婚を求めた事実があれば、相談者は元夫に慰謝料を請求できる可能性があります。ただ、夫側からは『離婚当時には本当にうつだった。しかし、3年という時間が経ったことで症状が回復した。だから自分は嘘などついていない』などと反論されるでしょう。
その場合、相談者側でこの主張を全くの嘘であると証明することは難しいと思われます。そのため、やはり慰謝料の請求は難しいと考えます」
相談者は元夫が御相談者との誓約に反して不倫疑惑のある女性と結婚したことを理由に慰謝料を請求したいそうです。
「これは認められないでしょう。元夫には再婚をするか否か、再婚する場合にその相手を誰にするかを決める自由があるからです。そのため、今回のような誓約は元夫の婚姻の自由を不当に制約するものとして民法90条により無効になると考えます。
最後になりますが、今回のケースでは、残念ながら慰謝料請求は難しいと言わざるを得ません。離婚後に元配偶者の不貞の証拠を取得することは困難を極めます。そのため、不貞を疑う場合には早々に離婚を決断するのではなく、事前に弁護士に相談をして必要な証拠などを確認しておくことをおすすめいたします」
【取材協力弁護士】
溝延 祐樹(みぞのべ・ゆうき)弁護士
鹿児島県弁護士会所属。1983年生。離婚問題・労働問題・交通事故問題をはじめとして支部管内において様々な種類の事件を取り扱う。その中でも労働問題については強い関心をもっており、労災・解雇・残業代問題などを中心に精力的に取り組んでいる。
事務所名:国分隼人法律事務所
事務所URL:http://kokubuhayato-law.com/