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「怖くて逃げ出せず…」騙されてAV出演、プラモアイドルが封印した9年前の記憶

2019年10月20日 10:31  弁護士ドットコム

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騙されてアダルトビデオに出演させられた――。プラモデルのよさを広める活動をしているアイドル、香坂きのさん(30)が10月初旬、動画サイト上でこんな内容のカミングアウトをおこなった。


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弁護士ドットコムニュースの取材に、香坂さんは「半年前から、もし出演していたことが発覚したら、本当のことをみんなに伝えよう、と覚悟していた」と話す。9月下旬、ネット掲示板で話題になっていることに気づいて、この動画を公開することにしたという。



あまりにも反響が大きく、香坂さんのところには「わたしもそういう目に遭いました」というメッセージがいくつも寄せられているという。これまでも、少なくない女性が「騙されてAVに出演させられた」と告白している。



2016年5月には、フリーアナウンサーの松本圭世さんも同じような体験を打ち明けている(https://www.bengo4.com/c_23/n_4697/)。香坂さんの場合は、どのような経緯があったのだろうか。



●大手メーカーから発売された作品

香坂さんが出演したのは、2011年に大手AVメーカーから発売された作品だ。香坂さんによると、はっきりと覚えていないが、2010年ごろに撮影があったという。



香坂さんはある日の昼過ぎ、名古屋・栄のパルコ前で、友だちと待ち合わせをしていた。約束の時刻まで15分早く着いて、友だちはいなかったので、スマホを見ていたところ、男性から声をかけられた。



「アンケートに協力してもらえませんか?」



その場で、アンケート内容は教えてもらえなかったが、「新商品のアンケート」くらいにとらえて、とくに警戒心も抱かずに「(約束した時刻までの)15分で終わるなら」と協力することにした。



パルコのすぐ近くにある駐車場まで連れて行かれて、その男性に「ある悩みをもった人がいるから、その人を励ましてほしい」と言われた。



さらに「映像として記録に残すから、サインもしてほしい」と承諾書のような紙をわたされた。それ以上の説明はなかったが、流し読みしてサインをしてしまったという。



●ワンボックスカーに入った

そのあと、駐車場の奥にとめられていた車に連れて行かれた。大きなワンボックスカーだった。後部座席のスライド式ドアをあけると、ソファーが置かれていて、中に入ると、外からドアを閉められた。



ワンボックスカーの中には、2人の男性がいた。カメラマンと男優だった。ソファーに座ると、ドアの前が塞がれていることに気づいて、そこで初めて、香坂さんは「AVの撮影かもしれない」と思ったという。



「頭の中は完全にパニくりました。とても怖かったのですが、逃げようとして、逆にもっとひどいことをされるかもしれないと思って、逃げ出すこともできませんでした」



「『こうしてください』『こう言いなさい』と指示されました。早く解放されるためには、言うことを聞いたほうが早いだろうとあきらめました」



穏便に済まそうという感情がはたらいて、できるだけ明るくふるまった。しかし、映像の中で、彼女の目はまったく笑っていない。



当時看護師をしていた彼女は、言われるがままに「OL」と名乗り、男優の性器をマッサージ道具のようなものではさんだり、手袋をはめてさすったりした。



撮影が終ると、現金2万円をポンと手わたされた。「有無を言わさないぞ、という圧がありました」。時計は見ていなかったが、「絶対に約束の時間に遅刻しているだろう」と思った。車から出ると、外はまだ明るかった。



●「封印していた記憶が掘り起こされた」

その日待ち合わせしていた友だちには打ち明けたが、どうしても警察や家族には相談できなかった。



「承諾書の控えももらえず、どこの誰なのかもわからなかったので、警察が動いてくれないと思ったんです。私が忘れてしまえば、その動画と出会うこともないだろうと。みんなも気づかないだろう。だから、なかったことにしよう、忘れようと」



それから約9年という月日が流れた。香坂さんは、仕事をかえて上京し、本当に忘れかけていた。ところが、今年に入って、ツイッターのダイレクトメッセージ(DM)で「これはあなたじゃないですか?」という連絡が寄せられた。



「それまで、自分の映像が販売されていることも知りませんでした。ディスク化されていることや、メーカーがどこかも知りませんでした。大手メーカーということも知りませんでした。封印していた記憶がまさに掘り起こされたような感じでした」



このとき、「もし出演していたことが広まったら、みんなに本当のことを動画で伝えよう」と覚悟した。そして、9月下旬になって、ある掲示板で騒ぎになったことに気づいて、出演の経緯についてカミングアウトする動画を準備して、10月1日から4日にかけて、動画サイト上にアップロードした。



「もちろん、誇りをもってAVの仕事をされている人はいると思いますが、わたしは自分からすすんで出演したと思われたくなかったんです。今の私の活動を応援してくれている人たちに誤解されたくないというのが、一番にあったと思います」



●「同じように被害にあった人がいる」

一部ネット上で叩かれるなど、カミングアウトの反響は大きかった。一方で、女性から「私もそういう目に遭いました」という声も寄せられる。また、「男優をやってる者です。そういうのありますよね。がんばってください」というメッセージもあった。



「(同じ作品に映っている女性たちが)アンケートだと言われて連れて来られたのだとしたら、私だけじゃなくて、同じような被害にあった人がいることになります。当たり前のように騙して、撮影して、世の中に出して、お金儲けしている人たちには、腹がたちますね」



香坂さんがアップロードした動画は現在、非公開となっている。真実を知ってほしいと思った人たちにある程度伝わったという感覚があるからだ。それでも告白には勇気がいるだろう。後悔はしていないのだろうか。



「後悔してますよ。でも、私がやろうとしていることをみている人ならわかってくれると信じています。きっとこの先、私がどう生きていくか。もっと楽しいこと、たとえばプラモデルのよさを広めていくことが、この先の私の戦いなのだと思っています」



香坂さんは現在、AV人権倫理機構に対して、正規作品の販売・配信停止を申し立てている。