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瀬戸弘司が体現する「好き」を見失わず生きられるリズム 誕生日を機にその魅力を再考

2019年10月19日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 瀬戸弘司が、本日39歳の誕生日を迎えた。定期的に動画をアップし続ける他のYouTuberたちに比べて、彼はときどきYouTube上からいなくなる。数ヶ月も音沙汰がないこともしばしばで、「これからは動画の更新頻度を上げていきたい」という決意表明を何度聞いたかわからない。そんな“上げる上げる“詐欺を繰り返しても許されるのは、なぜなのか。


(参考:YouTuberはなぜ「休み」を宣言するのか?


 筆者が瀬戸弘司を知ったのは、「YouTuber」という言葉ができる少し前のことだった。たしか、きっかけは2012年に発売された『ガリガリ君 コーンポタージュ味』だったと思う。あのアイスを電子レンジで温めていた姿は衝撃だった。生活感溢れるリビングで撮られた動画に、なんだか新しく知った人の家に呼ばれたような気分になったのを覚えている。


 ほしかったものを手に入れた喜び、面白いものを見つけたという楽しさから、いつしか「ぷ~ん」とビニールを投げながら開封するスタイルを確立。テンションに任せているように見えて、細かな情報までしっかりと網羅しているのは、凝り性な性格ゆえだろう。


 舞台俳優を経験してきた表現力、イラストや音楽を作り出す器用さ、できるだけ丁寧に美しく解説してみせる生真面目さも、彼の動画から感じることができる。新しく発売されたカメラやスマートフォン、パソコン、タブレット、電子ボード、楽器、PCバッグ……など、話題の新製品の解説は瀬戸弘司が紹介するのを待ちわびたほどだ。


 加えて、なぜか彼は不良品を掴まされることも多い。まさか返品することになるとは思わず、箱の裏に落書きをしてしまったことも。さらに、それがメーカー側で発見され、大切に保管された『サザエさん事件』も大いに笑わせてもらった。


 そして、気づけば「YouTubeの広告収入だけで生活ができるようになった」という新しい生活スタイルが生まれたこと、動画クリエイターのプロダクション“UUUM”ができたこと……時代が変わったことを彼の動画で知ったのだ。


 感情を失った弟シリーズをはじめとしたホームムービーを楽しんでいたら、いつしか大手企業からオリジナルソングを依頼されるまでになっていった。彼を取り巻く環境の変化に、いち視聴者として「すごい」と感動しながらも、「大丈夫かな?」と不安を感じたものだ。
現在、日本のYouTuberとして活躍しているのは、圧倒的に20代が多い。アイドル的な人気を誇る人もいるなかで、瀬戸弘司の存在感はあまりにもいぶし銀すぎる。そして若さと勢いでアップし続けるYouTuberたちに対して、瀬戸弘司の動画更新頻度は下がっていった。それは、日本のYouTuber界の創生期から成熟期へのタイミングだったのだろう。


 視聴者側もYouTubeの楽しみ方がわかり始め、リアルタイムの情報を得るチャンネル、クオリティの高い動画を待ち望むチャンネル、刺激を味わうチャンネルと、安心感に癒やされるチャンネル……と、それぞれ動画クリエイターに求めるものを分けて考えるようになっていった。


 そんな中で、瀬戸弘司のチャンネルは、まさにYouTubeクリエイターのコピー「好きなことで、生きていく」を模索し続けることに尽きる。今や、再生回数で爆発的な金額を稼ぐこともできるYouTuber。だが、瀬戸弘司が目指しているのはそこではない。


 好きなものを迷わず買えるくらいの収入と、自由な時間の両立。忙しさや義務感で、自分の「好き」を見失わずに生きられるリズムだ。お金に困らず、仕事に忙殺されない暮らしは、もしかしたら来たる超高齢化社会において、私たちみんなの理想になっていくのかもしれない。


 瀬戸弘司の動画は、生存確認とよく言われる。文字通り生きていた、と安心するのだが、その元気な顔を見ると、その理想的な暮らしを私たちも諦めなくていいのだとうれしくなるのだ。好きな人と、好きなことをして、好きなタイミングで働く。そんな瀬戸弘司という生き方を、これからも私たちに見せ続けてほしい。(佐藤結衣)