2019年10月19日 09:51 弁護士ドットコム
台風19号による豪雨で、東日本を中心に甚大な被害が出ています。皆さんは今の住まいを選ぶ前に、ハザードマップ で浸水リスクを確認したことはありますか。
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現状では、宅地や建物を契約する際に不動産業者側がおこなう重要事項説明で、洪水や浸水のリスク情報は対象外となっており、ネットでは「契約時にハザードマップについて説明すべきではないか」という声も上がっています。
国も7月、不動産業者に対し、住宅購入者などに洪水ハザードマップの情報を伝えるように通知しています。
全国知事会は8月1日、西日本を中心に甚大な被害が起きた「平成30年7月豪雨」などを受け、国に「来たるべき大規模災害に備え教訓に基づき行動するための提言」を提出しました。
この中で、地域の災害リスクを住民に浸透させるために、宅地建物取引業法を改正し、市町村が作成したハザードマップの説明を住宅購入者などに説明する際の重要事項として位置付けるよう求めています。
宅地建物取引業者は、取引の相手に対して、契約の際に賃借物件や契約条件に関する重要事項の説明をしなければならないと宅地建物取引業法で定められています。
宅地や建物が「土砂災害警戒区域」や「津波災害警戒区域」の場合には、その内容や影響などを個別に確認することが義務付けられていますが、堤防の決壊や激しい雨が降った場合などにどの程度浸水するかについては、重要事項説明の項目に入っていません。
国土交通省の不動産業課によると、同省は7月末、業界団体に対し、不動産取引時に住宅購入者などには洪水や浸水のハザードマップについて情報提供するよう通知を出しました。
担当者は「課題や実現可能性を含めて、検討していく必要がある。重要事項の位置付けについては、法改正ではなく、省令で規定することで対応できると考えている」といいます。
業界団体の一つである、全国の不動産業者でつくる「全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)」は、「行政からの指示なので、連絡事項は会員に伝えた」と話しました。
土地に関するトラブルに詳しい秋野卓生弁護士は「浸水ハザードマップについて説明することは業界常識となっている」と話します。
浸水ハザードマップ上は「浸水被害なし」とされている場所であっても、例えば、建売業者が建物建築中に浸水被害を現場で確認している場合には、「たとえ浸水ハザードマップ上に記載がなくとも説明しなければならない」と指摘します。
「説明義務というのは、知らないことまで説明する義務を負うものではありませんが、近時、説明義務違反のクレームが多様化している状況の中、土地売買に際しては、できるだけ詳細な説明を実施することでトラブルリスクを回避することをすすめたいと思います」
過去の裁判では、将来、土砂災害警戒区域に指定される可能性があることについて説明しなかったとして、仲介業者の調査・説明義務違反を認定した判例がある(札幌地裁平成26年9月12日判決)。
「必要最低限以上は『聞かず、知らざる、調べない』という不動産業界の悪しき慣習は、消費者保護の判例の蓄積と情報開示を求める宅建業法改正の流れにより大きく変革していく事が予想されます。
消費者に対して、『一つでも多くの土地に関する情報を提供しよう!』というプロとしての責任を果たす取り組みが、今後とも重要性を増してくるのではないかと考えています」
【取材協力弁護士】
秋野 卓生(あきの・たくお)弁護士
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。2017年度 慶應義塾大学法科大学院教員(担当科目:法曹倫理)。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
事務所名:匠総合法律事務所
事務所URL:https://takumilaw.com/