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くるりと『京都音博』の“すごさ”を改めて実感 兵庫慎司による全アクトレポート

2019年10月18日 22:51  リアルサウンド

リアルサウンド

 2019年9月22日京都市下京区梅小路公園芝生広場、今年で13回目となる、くるりプレゼンツ『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』が開催された。今年のトピックのひとつとしては、NUMBER GIRLの出演が挙げられる。90年代後半にデビューし、それ以降の日本のロックバンドの音楽やあり方に大きな影響を与えた存在として、「くるり・SUPERCAR・NUMBER GIRL」と、いまだに名前が列挙される、いわば同期であり、それぞれ親交も深かったわけで、NUMBER GIRLが復活するとなればくるりがオファーを出すのも、それにNUMBER GIRLが応えるのも、うなずける。


(関連:くるりというバンドの特異な魅力 サポートミュージシャン野崎泰弘(Key)&松本大樹(Gt)が語る


 ふたつ目のトピックは、当日会場に着いてから「そうか、なるほど」と気がついた。会場内外のインフラなどのディテールが、去年までとは変わっていたこと。飲食エリアの店のバラエティ感が増していたりと、あちこちに「あ、去年までと違う」というポイントがある。あ、それからもうひとつ。この梅小路公園、京都駅から徒歩15分くらいなのだが、そこから一駅のところに、今年から「梅小路京都西駅」が新しくできて、そこからなら徒歩3分で着く、というトピックもありました。


さて開演。FM802DJ・野村雅夫の前説に続き、くるりの3人が開会宣言。岸田繁(Vo/Gt)と佐藤征史(Ba/Cho)は菅笠をかぶっている。「今年は例年より前の方に来ていただいてて、ありがとうございます。いつもね、後ろから埋まっていくっていう変なイベントなんで。今日はみなさん元気がよろしそうで」と佐藤。「チケットを持っていらっしゃるみなさんも、演者でもあります我々もですね、天気レーダーをこんなに見たことはないぐらい。よかったです、ほんとに」と、台風17号の接近に気が気でなかったことを口にし、まだ雨が降っていない空を見上げる岸田。「京都で活動してきたバンド、でも最近(一部メンバーが)東京に行ったらしいんですけど」(岸田)「でも毎年のように『音博』に遊びに来てくれてましたからね」(佐藤)「京都が生んだすばらしいバンドの演奏から、『京都音博2019』を始めたいと思います」(岸田)と、トップのHomecomingsを呼び込んだ。


 では以下、1アクトずつ短くレポしていきます。


Homecomings
1 Songbirds
2 Hull Down
3 Smoke
4 Blue Hour
5 Cakes


 「せいいっぱい演奏しますので、楽しんでいってください。心をこめて歌います」という畳野彩加(Vo/Gt)のひとことからの「Songbirds」でスタート。1曲目は英語詞で2~5曲目は日本語詞、70年代の英国や米国や日本のロックやAORのテイストを持った、誰にも何も強制しないが誰をも何も拒絶しない、大きなタイム感のメロディが梅小路公園に広がっていく、とても気分のいい時間だった。


 後半のMCで福富優樹(Gt)、「京都の北の方の端っこの大学の、そのまた端っこの部室で組んだバンドが、ここに出られて感慨深いしうれしい」と、くるりとオーディエンスに感謝を伝える。


 ラストは今年4月リリースの最新シングルで、今年上半期あちこちで話題になった今泉力哉監督の映画『愛がなんだ』主題歌である「Cakes」。終始ほぼ目を閉じて歌う畳野彩加が、この曲では、何度も目を開けていたように見えた。


Camila Meza & Shai Maestro
1 Para Volar
2 Cucurrucucu Paloma
3 Kallfu
4 Away
5 Amazon Farewell


 チリ出身、ニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター/ギタリスト、カミラ・メサと、イスラエルのジャズピアニスト、シャイ・マエストロの2人。カミラ・メサは9月9・10日に東京のブルーノートで来日公演を行っているが、その時は「カミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラ」としてのライブだったそうで、つまりシャイ・マエストロとのデュオは、このステージのためのようだ。


 歌がまるで話しているよう、というのはよくある形容だが、カミラ・メサのギターもシャイ・マエストロのキーボードも同じく、まるで話しているようかに耳に響く、本当に自在な全5曲。2曲目では冒頭に長いインプロビゼーションもあり。ラストの5曲目の後半では、ギターとキーボードでちょっとしたバトル状態に。ふたりの演奏がピークを迎えるたびに、何度も拍手が上がった。すばらしかった。今年の『京都音博』で唯一惜しい点は、メンバーがプッシュした(主に欧米以外の)海外のアクトが、この1組だけだったこと、と言えるかもしれない。


折坂悠太
1 朝顔
2 芍薬
3 さびしさ
4 よるべ


 エレピ、ウッドベース、ドラム、ギター、ギターと歌の本人、折坂悠太という編成(京都を拠点とするミュージシャンたちで、これを彼は「重奏」と呼んでいる。東京を拠点とするメンバーでのバンドもあって、そちらは「合奏」)。


 1曲目「朝顔」を歌い始めた瞬間、会場全体が「うわっ」と固唾を飲んだような気がした、その声の響きに。1コーラス歌いきったところで、早くもドーッと拍手が湧いたのも、曲終わりまでリアクションを待ちきれない感じだった。「天気が心配ですけど、私は今年ものすごい晴れ男なので。私が来たからもう大丈夫です!」というMCに、さらに拍手が湧く。


 3曲目「さびしさ」の前にくるり「ロックンロール」のサビを弾き語りで聴かせるサービスもあり。今日一緒にステージに上がっているのは京都の木屋町UrBANGUILDで出会ったバンドであること、京都は第二の拠点であること、憧れの先輩にこうして呼んでもらえてこんなに光栄なことはないと思っていることなどを、最後に言葉にしてから「よるべ」で締めくくった。


never young beach
1 なんかさ
2 あまり行かない喫茶店で
3 STORY
4 いつも雨
5 どうでもいいけど
6 明るい未来
7 お別れの歌


サポートギターとしてくるりでおなじみ、山本幹宗が加わった5人編成のnever young beach。安部勇磨(Vo/Gt)は岸田&佐藤と同じ菅笠をかぶって登場。今年の夏フェスでネバヤン観るの三回目くらいだな、でもいつどこでも始まった瞬間に場をつかんでるよな、などと思いながら観ていたら、最初のMCで安部勇磨、「(出演が)2年連続! びっくりして、うれしくなっちゃった」「ここ最近でいちばん緊張した、セットリスト何度考えたことか!」と喜びとテンパリの気持ちを表す。あと、しゃべっている途中で『音博』名物の(隣接する京都鉄道博物館の)汽笛がボーッと鳴ったのに「えっ!」と反応してみせて笑いを取ったりもする。


 後半、「どうでもいいけど」「明るい未来」「お別れの歌」の三連打で梅小路公園を包んだせつない幸福感、ちょっと、「楽しい」を超えて「鳥肌」レベルだった。なお、「お別れの歌」で雨が降り始めた。


NUMBER GIRL
1 鉄風 鋭くなって
2 タッチ
3 ZEGEN VS UNDERCOVER
4 OMOIDE IN MY HEAD
5 YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING
6 透明少女
7 日常に生きる少女
8 Tattoあり
9 I don’t know


ある意味今日のハイライト、しかしnever young beachの最後に降り始めた雨は転換中に勢いを増し、NUMBER GIRLのスタート時点ではすっかり豪雨に。しかし、ご覧のようにいちいちイントロで「おおっ!」となるようなセットリストに(他にもまだまだあるけど、そういう曲)、参加者、1曲ごとに狂喜する。


 特におもしろいと思ったのが、4人の演奏そのもの、向井秀徳の歌そのもの。なんというか「昔NUMBER GIRLをやっていた凄腕ミュージシャンたちが集結した」みたいな、ある種落ち着いた感じが皆無だった。当時のまんまの、攻撃的で生々しいNUMBER GIRLだった。4人とも、NUMBER GIRLに来るとこうなるんだなあ、バンドっておもしろいなあ、と改めて思いました。


 なお、向井曰く、再結成を発表して2分後に、岸田から電話があった、とのこと。


 ちなみに、エグいくらいの大雨は、6曲目あたりでは小雨になっていて、ラストの曲の頃には止んでいた。それも含めて、NUMBER GIRL「らしい」とも言える。


BEGIN
1 恋しくて
2 海の声
3 オジー自慢のオリオンビール
4 島人ぬ宝
5 笑顔のまんま
6 涙そうそう


 続くBEGINは出てくるなり最初の大ヒット曲「恋しくて」でガツンと場をつかみ、続いて比嘉栄昇(Vo)が「NUMBER GIRLめっちゃかっこよかったです! みんなもかっこよかった、合羽着て……合羽って言わんか?」と和ませたと思ったら、「どんなの聴きたい? 今なら(曲を)変えれるからな!」とリクエストを募る。で、客席から飛ぶ声に「『島人』? やるに決まってるだろ」と返したり、「『オリオン』? じゃあ『オリオン』もやろう」と受け入れたりした末に、上記のような「ファンじゃなくても知ってる」レベルのアンセム目白押し。


 うっとりするわ、こんなもん! 底力が計り知れない人たち、というのは、BEGINのようなバンドのことを言うのだな、と痛感した。


くるり
1 グッドモーニング
2 ブルー・ラヴァー・ブルー
3 スロウダンス
4 琥珀色の街、上海蟹の朝
5 キャメル
6 Tokyo OP
7 ジュビリー
8 ばらの花
9 ブレーメン
アンコール 宿はなし


 くるりはストリングス×2、鍵盤、ドラム、管楽器×1(なのでファンファンと2人)、ギターがサポートで加わった9人編成で9曲プレイ、アンコールの「宿はなし」はメンバー3人だけでプレイ。これまで13回ここでくるりを観て来て、テンパってる年もあったし、感極まっていた年もあったし、攻撃的に感じた年もあったし、頭と最後に(違うメンバーで)二回出た年もあったし、ウィーンのオーケストラとの共演を豪雨で中止せざるを得なくなって悔し涙を流した年もあった。という中にあって、今年がもっとも、なんというか、平常心に見えた。主催者としての責任とか、トリとしての使命とか、あらゆるものから解き放たれて、虚心に自分たちの演奏に没入しているような。マニアックな方には寄っていないし、「代表曲を並べました」みたいなベタな方にも寄っていないのが絶妙なセットリストにも、9人の衣裳にも、淡々としながらものすごい情報量の演奏にも、表れているように感じた。というところが、なんだかとてもすばらしかった。


 “情景描写がすばらしい曲”くるり内1位、いや日本のロックでトップクラスの「グッドモーニング」でそっと始まる。「ブルー・ラヴァー・ブルー」「スロウダンス」と『ワルツを踊れ Tanz Walzer』の曲を続けて演奏し、「ああ、だからこの編成なのね」ということが理解できる。ド名曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」の最初の一音でオーディエンスがワッと湧くーー1曲1曲、一瞬一瞬、とにかく、今この場にいることが心地よいし幸福な時間だった。最後に三人だけで「宿はなし」、定番なんだけど、その安定感まで含めてすばらしかった。


 毎年欠かさず来ているが、今年の模様を見て、メンバーが入れ替わったり、音楽性がどんどん変わったり、いろいろありつつもずっと続いているくるり、そして毎回趣向を凝らし、様々なアーティストを呼んで行なわれる『京都音博』って、やっぱりすごいんだな、と改めて思ったりもした。(兵庫慎司)